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売掛金の滞納があった場合には最終的に相手の財産から強制的に回収することになります。ですが滞納しているような状況では相手に十分な資産が残っていない可能性があります。このような場合に備えて事前に担保を取得しておくことが有効です。
この記事では売掛金回収に役立つ担保について解説していきます。
取引先の資産内容を把握
売掛金の回収をする際や担保をとるときにも相手の資産の状況を知ることが大切です。
財産調査の必要性
担保をとる目的は売掛金が未払いとなったときの保険です。担保をとっていなかったとしても相手に土地や建物などの資産があればそこから回収していくことも可能です。そのため担保をとる必然性はないことになります。ですが売掛金を滞納している状況ではめぼしい財産は処分されていたり他社に担保にとられていたりして回収が難しいといえます。
それゆえ担保をとることを検討することになりますが取引相手が担保となる資産を持っていなければなりません。担保が取れるか知るために取引先の財産を調査することが必要です。
財産調査の方法
やみくもに財産を把握しようとすることは非効率的です。担保価値の高いものや将来の強制執行・担保権実行の容易性を考慮してターゲットを絞り込むことが重要です。
<担保価値の高いもの>
・土地建物 ・工場設備など機械類 ・預金 ・金銭債権(売掛金、未収金等) ・有価証券(株式等) ・自動車、船舶などの高額動産 ・知的財産権(著作権、特許権) |
取引先が担保提供に協力的であれば相手方から提案された担保について検討することになります。十分な担保価値があるのか市場価格などをもとに算定することになります。
取引相手があまり協力的でないときには独自に調査することになります。
取引先の財産調査を行う方法の一つに決算書を利用する方法があります。貸借対照表を見ることができれば財産をある程度知ることができます。現金や預金、売掛金、未収金、不動産などの金額も把握可能です。勘定科目内訳明細書を見れば具体的な資産の内訳が詳細にわかります。
例えば、預貯金内訳書であれば金融機関名や口座番号などが、売掛金(未収入金)内訳書であれば債権額や債務者の名称、所在地が、固定資産内訳書であれば物件の所在地などがわかります。
新規の取引先であったり大きな取引を行ったりする場合にはなるべく決算書を確認しておくことが大切です。株式会社であれば貸借対照表(大会社では損益計算書を含む。)を公告しなければならないことになっています。そのため取引先のWEB上で計算書類を閲覧できることもあります。
取引先から直接入手する方が確実ですが取引の状況や規模によっては拒否されてしまうこともあります。このようなケースでは相手からの支払い猶予の申し出などがあったときに交換条件として決算書の提供を求めることが有効です。
また、売掛金など債権を持っているときには計算書類の閲覧請求権が認められています(会社法442条3項、625条)。取引相手との関係に配慮する必要はありますが法的な権利があることは覚えておくといいでしょう。
<関連記事>財産開示手続きで債権回収する4つのポイント
担保の種類
担保にはいくつか種類があります。売掛金の回収のしやすさや担保のとりやすさなどに違いがあるためケースに応じて使い分けることが大切です。
人的担保(保証人)
人的担保とは、個人や会社に債務の保証をしてもらうことです。債務者本人が支払いできなくなったとしても保証人に支払ってもらえれば売掛金の回収が可能となります。
取引に不安があるときには代表取締役に保証人になってもらうことがあります。
本来であれば、会社に対する売掛金は代表取締役個人に支払ってもらうことはできません。代表取締役が違法な行為によって売掛金の回収を妨害したような場合には別ですが、基本的に会社の債務の支払責任は会社だけにあるので役員が負うことはありません。
そのため、代表取締役個人から売掛金を回収するためには事前に連帯保証人になってもらうことが必要です。
代表取締役から売掛金の回収を可能にするだけではなく、連帯保証人になることで会社として売掛金の支払いに応じてもらいやすくなるメリットもあります。
第三者に保証人になってもらう場合にも保証人に迷惑をかけないようにと考え、優先して支払ってもらえることがあります。
<関連記事>売掛金未回収の責任は誰が負うべきか?未回収問題を解決するための対策
物的担保
物的担保とは、特定の財産を担保にすることをいいます。
人的担保では保証人が無資力になってしまうと担保価値がなくなってしまいますが物的担保の場合には財産が消滅してしまわない限り担保価値があるため売掛金の回収に特に有効です。
担保にできる財産としては不動産や動産(自動車、商品、機械等)があります。
不動産を担保にとる場合には登記が必要となります。登記をしていないと他の人にも担保を設定されてしまったり売却されてしまったりしたときに対抗することができません。
そのため手間や費用がかかることに注意が必要です。
動産については自動車などの機械類であれば価値が高く売掛金の回収に役立つため担保として検討してもいいでしょう。
自社が売却した商品を担保にすることもできます。「売掛金の支払いが完了した時点で所有権を移転する」と特約をつけておくのです。所有権留保と呼ばれるもので支払いがされないときには返還を求めていきます。
金銭債権担保
金銭債権も担保の対象です。
取引先の持っている第三者に対する売掛金を担保にすることもできます。
売掛金を担保にしてもらうことで取引先に代わって自ら回収することができるようになります。物的担保と異なり処分に手間がかからないメリットがあります。
注意点としては、「譲渡禁止特約」がついている債権については支払いを受けられない可能性があることです。
譲渡禁止特約がついていることを知っていたり、知らないことに重大な過失があったりするときには支払いを拒まれることがあります。
ただし、譲渡禁止特約がついていても取引先が破産した場合や強制執行により差し押さえしてしまえば回収することが可能です。
<関連記事>取引先が倒産・破産した場合の対応は?回収不能を防ぐための事前準備と対応を弁護士が解説
担保をとる
担保をとることで売掛金の回収可能性が上がります。たとえ倒産したとしても担保物や保証人から回収することができるからです。大きな取引や継続的な取引を行う場合にはなるべく担保を設定できないか検討することが大切です。
少額や単発の取引では約定担保をとることは難しいかもしれませんが取引の内容によっては法律上当然に発生する法定担保権もあります。
担保の対象は基本的にどんなものであっても構いません。もちろん法令で禁止されているものは別ですが経済的価値があれば担保として意味があるからです。
代表的なものは不動産や動産、債権、有価証券、知的財産権があります。
不動産
多額の売掛金が生じる場合には不動産を担保にとることを検討します。不動産は経済的価値が高く処分や隠匿などもしにくいため担保の代表格です。単発での取引の場合には抵当権を検討しますが継続的な取引を予定している場合には根抵当権を利用します。抵当権は個別の債権が弁済されると消滅してしまいますが根抵当権の場合には一定範囲の債権を継続して担保し続けることができるからです。
ただし、不動産を担保にするときには登記が必要となり手続きや費用がかかります。
また、いざ回収をしようとした段階では換価のために競売や任意売却が必要となり手間や時間がかかるデメリットがあります。
そのため、ある程度大きな売掛金が生じるときに向いている担保といえます。
不動産担保の特殊性として登記をすることが挙げられます。これにより一つの不動産に対して複数の担保権が成立することもあります。その場合、基本的に先順位の担保権者が優先することになります。
そのためすでに先順位の担保権者がいるときには不動産としては十分な価値があったとしても売掛金の回収が難しいことがあります。
対策として、事前に登記事項証明書の乙区欄(抵当権など所有権以外の権利が記録されている部分)に先順位の担保権がないかあるとしていくらの債権額が記録されているかに注意します。
担保権を実行するときには競売ではなく任意売却も検討します。競売になると時間や費用がかかりますがこれらを節約できることがあります。
<関連記事>消除主義・引受主義とはなにか?債権回収にまつわる競売の基本
債権(売掛金など)
取引先が第三者に持っている金銭債権を担保にとることもできます。質権を設定したり債務不履行時には債権を譲渡する契約(譲渡担保)をしたりする方法が考えられます。
債権を担保にとると直接第三債務者から取り立てることができます。
将来の債権を担保にとることや、複数の売掛金をまとめて担保にとる「集合債権譲渡担保」も可能です。
債権を担保にとる場合には対抗要件に注意が必要です。
直接関係のない第三者に請求していくわけですから正当な権利者であることを第三債務者に証明できないといけないからです。
また、債権が二重に譲渡されることもあるため他の債権者に対抗するためにも必要です。
方法としては、内容証明郵便の送付と、債権譲渡登記の2つの方法があります。
内容証明郵便の送付
取引先から売掛先である第三債務者に債権を譲渡した旨の内容証明郵便を送ってもらう方法です。取引先から通知してもらうことで正当な権利者であることを対抗できます。
内容証明郵便を使うことで通知の日付が確定するため二重譲渡されたときに他の債権者に対抗することもできます。
債権譲渡登記
内容証明郵便の場合には担保設定者から送付する必要があるため将来債権の担保には不向きです。
債権譲渡について法務局に登記すると内容証明で通知したのと同じように対抗要件を備えることができます。債権譲渡が必要になった時に取引先の協力がなくても回収していくことが可能となります。
特に多数の債権を一括して譲渡するようなときに内容証明で通知すると手続きや費用がかかりすぎるため債権譲渡登記が向いています。
動産(自動車や商品など)
自動車などの高価な動産や商品を担保にとることもできます。
抵当権や質権、譲渡担保権を設定する方法があります。
商品一つ一つの価値が低い場合であっても倉庫や店舗にある商品のようにまとめて担保をとることもできます(集合動産譲渡担保)。
その場合、個々の商品は販売や仕入れによって常に変動しますが担保権を実行した時点の商品が最終的な担保となります。
知的財産権
企業が持っている財産は「物」や「債権」だけではありません。たとえ不動産や物体としての商品を持っていなかったとしても著作権や特許権などの知的財産権を持っていることがあります。
例えば、コンピューターのプログラムや特殊な技術に特許権が設定されていれば担保価値があります。これらについても質権や譲渡担保権の設定が可能です。
保証人
保証契約をする際には必ず書面でしなければなりません。
保証人には普通の「保証人」と「連帯保証人」の2種類があります。
特に理由がない限り「連帯保証人」にしてください。
普通の保証人の場合には売掛金の回収の難易度が上がることになります。
普通の保証人に請求をしていくと、「まずは債務者に請求してください」と支払いを拒むことができます(催告の抗弁権)。
債務者に対する請求を済ませても、「まずは債務者の財産に強制執行してください」と支払いを拒むこともできます(検索の抗弁権)。
そのため、債務者に対して裁判を起こして強制執行までしなければ保証人から回収できないおそれがあるのです。
連帯保証人の場合にはこのような理由で支払いを拒否することができません。直ちに連帯保証人から回収することが可能となります。
保証も根抵当権と同様に不特定の債権を保証する根保証が可能です。この場合一定の限度額(極度額)を定めることが必要です。
<関連記事>取引先が倒産・破産した場合の対応は?回収不能を防ぐための事前準備と対応を弁護士が解説
担保物権の性質と効力
担保物権について少しくわしく解説しておきます。
担保物権の性質
担保権にはいくつかの共通した性質があります。ただし、それぞれの担保権がすべての性質を持っているわけではありません。
付従性
債権がなければ担保権は必要ありません。言い換えれば債権がなければ担保権も存在しないのです。
付従性とは、「担保権は被担保債権が存在することで成立し、債権が消滅すると同時に消滅する」という性質のことです。
例えば、売掛金の担保として抵当権を設定したものの契約が無効となり商品も提供しなかったときには抵当権も無効となります。
どの債権を担保するのか確定する前の根抵当権には付従性がありません。つまり、根抵当権については個々の売掛金が弁済されても消滅しません。
随伴性
随伴性とは、「債権が移転すると担保権も一緒に移転する」という性質です。
例えば、取引先が第三債務者に持っている売掛金に抵当権がついているときには、その売掛金を取得すると抵当権も行使できることになります。
確定前の根抵当権には随伴性もありません。
不可分性
不可分性とは、「債権の全額の弁済を受けるまで対象物全体に権利があり担保権を実行できる」という性質です。
例えば、売掛金1,000万円を担保するために抵当権を設定した場合に、900万円が弁済されたとしても抵当権を実行することができます。
物上代位性
物上代位性とは、「担保物権の対象物が金銭などに変わったときに担保物権の効力がその変化した物に及ぶ」という性質です。
例えば、抵当権を設定した建物が火災により消失した場合に、火災保険に入っていたときは、保険金請求権に抵当権の効力が及ぶので保険金から売掛金を回収できます。
<関連記事>担保権の随伴性とはなにか?被担保債権の移転に伴う法律関係
担保物権の効力
担保物権の代表的効力として、優先弁済的効力と留置的効力の2つがあります。
優先弁済的効力
優先弁済的効力とは、「担保目的物から他の債権者に優先して弁済を受けられる」効力です。担保物権の本質的な機能といえます。
留置的効力
留置的効力とは、「担保目的物を債権者の手元におき使用権を取り上げる」効力です。
物理的に目的物を取り上げることにより債務者に心理的な圧力を加えることで事実上の優先弁済を受けられる機能です。留置権と質権にある機能です。
公正証書を作成
物的担保や人的担保をとることができない場合には公正証書の作成を検討します。
公正証書があれば売掛金の支払いが滞納しても、訴訟を起こさずに取引先の財産に強制執行をして回収できます。
公正証書とは
公正証書とは、公証人が作成する事実を証明する文書です。
文書の内容には、金銭の支払債務がある場合に、債務者が支払義務を怠ったときには「直ちに強制執行を受けて構わない」との文言を入れることが重要です。
強制執行を受け入れる内容を記載した公正証書を「執行証書」といいます。
通常は財産に対し強制執行を行うには訴訟を起こし勝訴判決を得なければならないのですが、執行証書は確定判決書と同様の効果が認められているため公正証書により強制執行が可能となるのです。
そのため公正証書を作成してしまえば取引相手は滞納しないように優先的に弁済してくれるようになります。
公正証書を作成する注意点
公正証書は売掛金の回収に効果的ですが公証人に対する手数料がかかります。
債権額によって異なりますが5,000円からとなっています。
また、取引先としては訴訟もせずに強制執行を受けることになるため作成になかなか協力してもらえないという問題があります。滞納しない限り差押えを受けることがないとしてもかなりのプレッシャーとなるからです。
そのため、相手からの支払い猶予の申し出があったときなどに公正証書の作成を交換条件にすることが考えられます。
物的担保と異なり優先弁済権がない点には注意が必要です。
<関連記事>売掛金回収のための法的手段とは?具体的な手順を解説
まとめ
・売掛金の回収に備えるため財産を調査することが大切です。担保価値の高いものや回収が容易なものがないか探します。決算書の閲覧が効果的です。
・担保にできるものは不動産や商品などの動産、売掛金などの債権、保証人などがあります。
・公正証書を作成することで訴訟をせずに強制執行していくことができます。差し押さえをするためには財産の調査が必要ですが知識と経験が必要なため弁護士に相談されることをおすすめします。
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