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取引信用保険を利用することで売掛金の未回収リスクを低減させ経営を安定させることができます。一方で対象取引先の選定などに制限があることからリスクに対してコストが割高にならないように注意する必要があります。
この記事では、取引信用保険のメリットなどについて解説していきます。
取引信用保険とは?
取引信用保険とは、取引先から倒産などを理由に売掛金の支払いを受けられなくなった場合に、保険会社から一定の割合で保険金を受け取れる商品のことです。破産などの法的倒産や夜逃げ等の債務不履行が生じた場合に未回収のリスクを低減することができます。
売掛金を回収できないことで自社の資金繰りが急速に悪化して連鎖倒産することがありますが、このようなリスクに備える保険といえます。
取引信用保険の補償内容
取引信用保険はすべての売掛金が対象となるわけではありません。保険契約によって対象とされる債権が決められています。
取引信用保険の種類にもよりますが一般的には継続的な取引契約が対象となります。
取引信用保険の主な対象 |
売買契約や請負契約等を主とする継続的な取引契約 |
<保険金が支払われる主なケース>
1.取引先が以下のような状態で債務不履行をしたとき
・破産手続開始、民事再生手続開始、会社更生手続開始または特別清算開始の申立てがあったとき ・取引金融機関、手形交換所、電子債権記録機関から取引停止処分を受けたとき ・財産について強制換価手続きが開始されたとき、仮差押え命令または保全差押え通知が発せられたとき ・相続人のすべてが相続の限定承認もしくは相続放棄の申述をしたとき、または財産分離の請求がなされたとき ・債務者が自己の財産につき管理人を置かずにその住所または居所を去ったまま一定期間経過しても生存が確認できないとき |
2.債務不履行から一定期間経過した場合に、履行の見込みがないと保険会社が判断したとき
※実際の保険金の支払い条件は加入する保険の内容によって異なります。
<関連記事>取引先が倒産・破産した場合の対応は?回収不能を防ぐための事前準備と対応を弁護士が解説
取引信用保険の保険料・保険金相場
取引信用保険を利用する場合には保険料がリスクに見合っているか慎重に検討する必要があります。
保険料の相場
取引信用保険の保険料は保険会社により算定方法が異なります。また保険料の算定には取引先企業の信用状況の他に社会情勢や保証契約の内容などが考慮されるため絶対的な基準がありません。しかしある程度の目安があります。
取引信用保険の保険料(目安) |
1%~4% ※合計支払限度額を基準にした場合。 |
保険金の支払いには限度額があるため支払限度額を基準に保険料を算定する方法や(限度額方式)、取引先の売上高をベースに算定する方法があります(売上高方式)。
例えば、限度額方式で保険料率が3%の場合に支払限度額合計が3,000万円のケースでは、90万円の保険料となります。
保険金額(補償額)
取引信用保険に加入したとしても売掛金の全額の保証を受けられるわけではありません。取引信用保険の主な目的は原価部分を補償することで損失を抑えることにあるからです。そのため縮小支払割合(縮小率)というものが設定されています。つまり回収できなかった金額または与信限度額のうち少ない金額に縮小率を乗じた金額が支払保険金額となります。縮小率は一般的に85%~95%くらいです。
※実際の保険料や保険金額の算定方法は保険会社や商品によって異なります。
取引信用保険とファクタリングとの違い
ファクタリングには買取型ファクタリングと保証型ファクタリングの2つあります。
買取型ファクタリングとは、支払期日前の売掛金を買い取ってもらい現金化するサービスです。基本的に支払期日前に現金が欲しいときに利用されます。これに対して取引信用保険は売掛金が債務不履行により回収できなかった場合に損害を填補してもらうものです。保険料をあらかじめ支払って万が一の事故に備えるものです。買取型ファクタリングは資金調達が必要になったときなどに手数料を支払って買い取ってもらうことになります。
保証型ファクタリングについては取引信用保険に類似しています。もっとも取り扱っている企業が損害保険会社かファクタリング会社かの違いや取引先の選択などに違いがあります。
|
保証型ファクタリング |
取引信用保険 |
提供会社 |
ファクタリング会社 |
損害保険会社 |
取引先の選択 |
選択可能 |
選択できないことが多い |
保証料 |
1%~8% |
支払限度額の1%~4% |
※あくまで目安であり商品や契約内容によって異なります。
<関連記事>売掛金が回収が不能・困難な場合の仕訳・対応をわかりやすく解説
取引信用保険のメリット
取引信用保険を利用すると以下のメリットがあります。
資金繰りの安定化
売掛金の回収ができなくなると資金繰りが悪化するリスクがありますが取引信用保険に加入しておくことで保険金により損失をカバーすることができます。売掛金全額には及びませんし保証料の負担もありますが突発的な損失を平準化することができるため経営を安定させることができます。
与信管理の強化
取引信用保険の内容にもよりますが保険会社による審査を通すことで自社の与信管理の補強につながります。
新規取引や取引拡大がしやすい
取引先が倒産したとしても保険金によりある程度損失がカバーできるため、新規の取引や既存の取引を拡大しやすくなります。
信用力が向上する
売掛金が保全されることにより経営が安定するため仕入先や金融機関、株主などからの信用が向上しやすくなります。
節税
取引信用保険によって負担する保険料は損金処理することで税金面での負担を軽くできる可能性があります。
<関連記事>滞留債権とは?不良債権との違いや回収方法を解説
取引信用保険のデメリット
取引信用保険にもデメリットがあるため慎重に検討する必要があります。
保険料の負担
保険料は債務不履行の有無にかかわらず発生するため未回収のリスクに見合うかバランスを考えることが必要です。
加入条件がある
取引信用保険はすべての売掛金が対象となるわけではありません。商品によって異なりますが加入者の業種や取引先、取引内容、取引先企業の数などによっては契約できないことがあります。
任意の取引先のみの加入ができない
倒産リスクの高い企業のみを対象としたいところですが、取引信用保険は全取引先や債権残高上位〇社のように包括的に契約することが一般的です。
保険金を受け取れない場合がある
保険内容にもよりますが以下のようなケースでは保険金を受け取れないことがあります。
・被保険者の故意、重大な過失又は法令違反によって生じた損害 ・戦争、外国の武力行使、革命、政権奪取、内乱、武装反乱その他これらと類似の事変または暴動などに起因した社会的もしくは経済的混乱によって生じた損害 ・災害に起因した社会的もしくは経済的混乱によって生じた損害 ・核物質に起因する事故に基づく社会的または経済的混乱によって生じた損害 ・未成年者その他制限行為能力者と契約した場合に法定代理人等の追認を受ける時までに生じた事故による損害 ・商品に瑕疵があったことにより生じた損害 ・被保険者が、取引先が債務を履行していないことを知りながら、その取引先と実施した取引により生じた損害など |
※あくまで一般的なケースであり契約内容によって異なります。
つまり、自社に責任があるときや災害などが原因のときは保険金を受けとることが難しくなります。
取引信用保険を利用するには保証料の負担や加入条件などの問題からすべての企業に向いているわけではありません。しかし売掛金の回収業務が日常的に生じている企業や不良債権の割合が多い企業、売掛金額が大きい企業の場合には経営を安定させるための重要な選択肢となります。
他にも例えば外国との貿易が多い企業の場合には売掛金の回収が難しくなりやすいため輸出取引信用保険を利用することで外国企業との取引のリスクを減らすこともできます。
ただし、あくまで売掛金は回収することが基本であることに変わりはありません。保険によって売掛金の損失をカバーできるといっても全額ではありませんし取引先などによっては補償対象外となるため保険に頼りすぎないことが大切です。
<関連記事>顧問弁護士の費用・顧問料相場と顧問弁護士を雇うメリットを解説
まとめ
・取引信用保険とは、取引先が倒産などにより売掛金の支払いが困難となった際に一定の割合で保険金を受け取れる保険のことです。外国企業を対象とした輸出取引信用保険など種類があります。
・取引信用保険の対象は売買契約などを主とした継続的な取引契約です。スポット契約は対象外です。
・支払いを受けられる保険金額は売掛金の全額ではありません。
・保証型ファクタリングと違い取引信用保険では対象取引先を任意に選べないことが多いです。
・取引信用保険のメリットとして、「保険金による損失の平準化」、「与信管理の強化」、「信用力の向上」、「資金繰りの安定」があります。
・取引信用保険のデメリットとして、任意の取引先を選べないことから保険料の負担が割高になる可能性があります。
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売掛金は効率よく回収していくことが大切です。取引信用保険は万が一の場合に対する備えとして有効ですが、万が一の事態を起こさないために迅速な回収を実施することが大切です。
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