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連帯債務者や保証人として弁済した場合、本来支払うべき人に対して求償権を行使できることがあります。
この記事では、求償債権が発生するケースや求償の範囲などについて解説していきます。
求償権とは
求償権(きゅうしょうけん)とは、弁済した人が、他人に対して、弁済した金銭を求める権利のことをいいます。例えば、連帯債務者の一人が債務を弁済した場合に他の連帯債務者が債務を免れたときは他の連帯債務者に求償していくことができます。保証人が債務者の代わりに弁済したときにも求償債権が発生します。
求償権も債権ですので時効によって消滅することがあります。2020年4月1日以降に発生した求償権については5年で時効にかかる可能性があります(2020年3月31日以前に発生した求償債権など10年の可能性もあります。)。
ただし期間が経過したとしても当然には求償債権は消滅しません。時効消滅には援用手続きが必要であり、また支払いの約束をしたなどの事実があれば時効期間がリセットされます。
時効のリセットについては、「消滅時効援用における「債務の承認」とは?分かりやすく解説」をご参照ください。
求償権の行使でよくあるケース
求償債権は連帯債務者の一人が弁済した場合や保証人による弁済がされた場合に発生することが一般的です。身近なケースとしては不倫による慰謝料や借金の保証人による弁済があります。
不貞行為(不倫・浮気)による慰謝料
不貞行為の被害者は精神的な損害を受けるため不法行為を理由に賠償金を請求することができます。このような精神的な損害賠償金のことを「慰謝料」といいます。加害者が複数いる場合には「(不真正)連帯債務」となり加害者は被害者に対してそれぞれが慰謝料全額の支払い義務があります。被害者は加害者の誰に対しても全額を請求できるため被害者が厚く保護されることになります。
不倫・浮気の場合に配偶者と浮気相手双方が不法行為責任を負うときはそれぞれ慰謝料全額の支払い責任を負うことになります。
例えば、慰謝料が100万円の場合には不倫の当事者は各自が100万円の支払い責任を負います。
この場合に一方の当事者が支払ったときは弁済した人が不倫相手に相手の負担部分を請求できることになります。これが慰謝料の求償権です。
例えば、前例で不倫関係の当事者の慰謝料の負担部分が50%である場合に、一方の当事者が100万円全額を支払ったときは、不倫相手に50万円の求償をすることができます。
慰謝料の負担割合についてはケースによって異なりますが不貞行為をした配偶者の責任が重くなることが多いです。ただし、負担割合は債務者間で合意することができます。
住宅ローンの保証
住宅ローンを利用する際に保証会社や連帯保証人が必要となることがあります。一般の住宅ローンでは保証会社の有無にかかわらず連帯保証人は不要のことが多いといえます。仮に支払いを滞納したとしても不動産に設定した抵当権を実行して競売代金から債権を回収できるからです。ただし、収入合算での借入やペアローンの利用の際には連帯保証人が必要となり求償権の問題が生じることもあります。
保証会社が入っているときにはローンを滞納した際に保証会社から求償されることがあります。
このように連帯保証人や保証会社が債務者に代位して弁済したときは債務者に対して求償権を行使することができます。住宅ローンの場合には抵当権が設定されていることが通常であるため抵当権を保証会社が行使することも可能となります。
求償権で返還を求めることができる金額
連帯債務者や保証人が求償債権を持った場合、実際にいくら求償していけるかはケースによって異なります。
連帯債務の場合
連帯債務者の一人が債権者に弁済をした場合、他の債務者に対して負担割合に応じて求償していくことができます。負担割合は特約があればそれに従いますがなければ利益を受ける割合により、それでも決まらないときには平等の割合と推定できます。
例えば、Aに対してBとCが200万円の連帯債務を負っている場合(負担割合平等)において、Bが全額をAに弁済したときは、BはCに対し100万円を求償することができます(法定利息なども請求可能)。
ただし、弁済にあたり事前の通知または事後の通知を怠った場合に求償権が制限されることがあります。これについては後述の保証人についての記述をご参照ください。
債務者に依頼されて保証人になった場合
保証人が債務者から頼まれて保証人となり代わりに弁済したときは、消滅させた債務の額について求償権を行使することができます。連帯債務の場合と同じように弁済の日以後の法定利息や必要な費用、その他の損害についても求償できます。
また、債務が弁済期にあるなど一定の事由があるときには保証人が弁済する前であっても求償権を行使できることがあります。
債務者からの依頼なく保証人になった場合
一般的に保証人は債務者から依頼を受けてなりますが保証契約はあくまで債権者と保証人との間で結ばれるものであるため債務者からの委託がないケースもあります。
債務者から委託を受けていない保証人が弁済した場合には、依頼されて保証した場合よりも求償権の範囲が制限されています。具体的には弁済等の債務の消滅行為をした当時債務者が利益を受けた限度でしか求償することができません。つまり、利息や費用などの求償はできません。
債務者の意思に反して保証人になった場合
債務者からの委託がなくても保証人になれるため債務者が望んでいないのに保証人になってしまうこともあります。この場合にはさらに求償できる範囲が制限されます。具体的には、債務者が現在利益を受けている限度でしか求償権がありません。そのため債務者が求償以前に債権者に対し反対債権を取得していたときには保証人の求償権と相殺できます。この場合、保証人は債権者に対して相殺によって消滅するはずの債務の履行を請求できます。
保証人が支払うことを事前に伝えなかった場合
保証人が弁済するときに事前に債務者に通知しておかないと二重弁済のおそれがあります。そのため保証人が事前通知をしなかったときは求償権が制限されます。
委託を受けた保証人が債務者に事前に通知せずに債務の消滅行為をした場合に、債務者が債権者に対抗できた事由があったときは保証人に対抗することができます。
ただし、このとき対抗した理由が相殺であるときには保証人は債権者に相殺により消滅するはずだった債務の履行を求めることができます。
保証人が支払ったことを事後に伝えなかった場合
保証人が弁済したが債務者にそのことを通知していなかった場合に、債務者がそのことを知らずに弁済等の債務の消滅行為をしたときは、債務者は自身の行為が有効であったとみなすことができます。つまり、保証人は債務者に求償権を行使することができません。債権者に返還を求めていくことになります。
求償権を無視された場合の対処法
求償権を行使したのに支払いに応じてもらえないことがあります。このような場合には時効にかからないうちに迅速に回収行動をとることが必要です。
内容証明郵便の送付
求償権を無視されるような場合には相手にプレッシャーをかける必要があります。内容証明郵便は通常の郵便とは異なり証拠として残ることや手間や費用がかかるため相手に心理的な圧力をかけることが可能です。仮差押えの際に資料として使うこともできます。ただし効果が期待できないケースでははじめから法的手段を検討すべきです。
<関連記事>内容証明郵便を拒否・無視された場合の対処法|内容証明郵便の効力を弁護士が解説
法的手段をとる
求償権を無視される場合には最終的に訴訟などの法的手段をとることになります。法的手段には訴訟以外にも種類があるため状況に応じて適切に選択することが必要です。相手に財産が残っている場合には処分や隠匿を避けるための仮差押えや、勝訴後でも支払いに応じてもらえないときには強制執行が必要なこともあります。
求償権が問題となるケースは債務者の資力に問題があるケースも多いため初期の段階から法的手段を検討することが大切です。
<関連記事>債権回収の裁判(民事訴訟)知っておきたいメリットとデメリット、手続き、流れを解説
まとめ
・求償権とは、弁済した人が、他人に対して、支払ったお金の返還を請求できる権利のことです。求償権も債権であるため時効によって消滅することがあります。時効期間は求償権の発生時期などにより異なります。
・求償権は連帯債務者の一人が弁済した場合や保証人が弁済したときなどに発生します。よくあるケースとしては不貞行為の慰謝料の支払いを一方の当事者が行った場合や、ローンの保証人が弁済した場合です。抵当権などの担保権がついている場合には求償権を持つ人は担保権を行使できることもあります。
・求償権が発生しても弁済した一部しか請求できないことがあります。保証人が委託を受けていたか、弁済の前後に債務者に通知していたか等により求償債権の範囲が異なります。
・求償権について支払いをしてもらえないときには迅速に回収を行うことが大切です。債務者の資力に問題があることも多いため初期の段階から法的手段も検討します。
債権回収でお悩みなら弁護士法人東京新橋法律事務所
求償権を行使しても支払ってもらえずお困りの方へ。
求償権が問題となるケースでは相手が身近な人であることが多くなります。そのため求償しづらいことから長期間請求できずに時効によって債権が消滅してしまうこともあります。弁護士に依頼することで交渉を任せることが可能です。時効を止める方法もありますし期間が経過したとしても直ちに求償権が消滅するわけでもありません。不安を解消するためにも専門の弁護士に相談されることをおすすめします。
※借金などの債務の返済ができずお困りの方はこちらの記事をご参照ください。