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債務者が預金や不動産などの財産を持っていないことがあります。一方で債務者が仮想通貨を取引していることがあります。このような場合に仮想通貨を差し押さえできないか問題となります。
仮想通貨は法的には「暗号資産」と呼ばれますが、この記事では従来から使われていた「仮想通貨」という表現を使うことにします。
この記事では債権者の立場から仮想通貨の差し押さえ可能性について解説します。
※借金などの債務の返済ができずお困りの方はこちらの記事をご参照ください。
仮想通貨の法律上の定義
仮想通貨とは、インターネット上で利用できる通貨に似た性質をもった電子記録のことをいいます。つまり商品やサービスを利用する際に日本円や米ドルなどの法定通貨の代わりに支払いに利用できるものです。
法定通貨の場合には日銀などの中央銀行や公的機関が発行管理しており基本的に強制通用力が認められています。
強制通用力とは、支払い手段として通用する力のことであり原則として受取人は通用力のある通貨での支払いを拒否できません。日本では紙幣については無制限に通用力が認められています(貨幣については一定の制限があります。)。
仮想通貨は強制通用力がないため、「通貨」の呼称は誤解を招くことから法的には「暗号資産」と呼ばれます。
暗号資産は「資金決済に関する法律」2条14項で定義されています。要約すると次のようなものです。
1号暗号資産 |
・物品やサービス提供の代金の支払いのために不特定の者に対して使用することができ ・不特定の者を相手に売買でき ・電子情報処理組織により移転できる財産的価値 ※法定通貨、通貨建資産(プリペイドカード等)、電子決済手段を除く |
2号暗号資産 |
・不特定の者を相手に1号暗号資産と相互に交換でき ・電子情報処理組織により移転できる財産的価値 |
差し押さえにおいて注意すべきなのは「財産的価値」との表現です。資産としての価値を認めているものの「財産権」とはしていません。後述するように強制執行は財産権を対象としているため疑義が生じます。
※2号暗号資産はビットコインなど一般的な暗号資産そのものではないものの1号暗号資産と交換できるものです。仮想通貨の差し押さえについては通常は1号暗号資産が念頭にあるといえます。
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仮想通貨保有者への強制執行
法的手段をとり判決書等の債務名義を取得した場合には強制的に債権を回収していくことができます。債務者が任意に支払いに応じない場合には所有する財産に対する強制執行を検討します。対象となる財産は原則として債務者に権利のあるすべての財産です。大きく「不動産執行」、「動産執行」、「債権及びその他の財産権に対する執行」に分かれます。
仮想通貨は実体がないため「物」ではなく不動産執行や動産執行の対象ではありません。また債権は特定の人に対して一定の行為を請求できる権利であり、管理者の存在しない仮想通貨そのものは債権にもあたりません。
「その他の財産権」(民事執行法167条1項)にあたるかが問題となりますが、この規定は責任財産に漏れがないようにする趣旨であることや仮想通貨は排他的な「財産的価値」をもち他の財産権に類似するため対象になると解することができます。
一方で仮想通貨を交換業者に預託している場合には仮想通貨交換業者に対し返還請求権を有しているため債権執行できる可能性があります。
このように仮想通貨を預託しているか否かにより取り扱いが異なることになります。
個人のウォレットで管理している場合
仮想通貨は「秘密鍵」と呼ばれるもので管理されています。秘密鍵は簡単に言えば預金口座における暗証番号にあたるものです。これをなくしてしまうと保有者も仮想通貨を実質的に失うことになります。つまり債権者が仮想通貨を差し押さえたとしても秘密鍵が分からなければ債権の回収ができないことになります。
「その他の財産権」に対する強制執行は基本的に債権執行と同じ方法で行われます。債権執行は執行裁判所が差し押さえ命令を出して行います(民事執行法143条、145条)。仮想通貨には第三債務者がないため債務者に差押命令が送達したときに差し押さえの効力が生じます(同167条3項)。
通常の金銭債権であれば差押債権者は一定期間経過後に直接第三債務者から取り立てることも可能ですが仮想通貨は金銭債権ではないため譲渡命令や売却命令等により換価することが考えられます。
しかし、秘密鍵を交換業者ではなく債務者個人が保管している場合には債務者が協力しない限り債権者に対し譲渡することは困難であり、売却命令についても秘密鍵のない状態では現実的とは言えません。
秘密鍵を提供するように求めた上で間接強制をすることも考えられますが難しいといえます。間接強制とは債務者が債務を履行しない場合に遅延期間に対するペナルティとして金銭の支払いを命じ心理的に圧力を加えて自発的な履行を促す強制執行方法です。しかし資産が他にない状況では金銭の支払いを命じても効果に疑問があります。
したがって個人のウォレットで仮想通貨を管理している場合には強制執行は難しいといえます。
取引所に預託している場合
仮想通貨を暗号資産交換業者に預託している場合には状況が異なります。この場合には仮想通貨の秘密鍵を交換業者が管理しているため交換業者に対する債務者の仮想通貨の返還請求権(債権)を差し押さえて換価できる可能性があります。
仮想通貨保有者は交換業者を利用する際に契約によって仮想通貨の返還請求権を取得します。その法的性質としては以下のようなものが考えられます。
・寄託契約(消費寄託) ・準委任 ・非典型契約(無名契約) |
民法上の寄託契約は有体物を前提としているため実体のない仮想通貨は寄託そのものとはいえませんが(東京地判平成27年8月5日、令和2年3月2日等)、これに準じた無名契約と考えることができます。つまり預けた仮想通貨の返還を請求できる権利が債務者にあるためこれを差し押さえられないかということです。
この返還請求権は金銭債権ではないため「その他の財産権」として債権執行の方法で執行することになります。
暗号資産交換業者によって対応が異なる可能性がありますが国内大手交換業者の利用規約には差し押さえがあった場合に利用者の登録取り消し等が可能であること、その際に保有している暗号資産を売却し銀行口座に払い戻すことなどが規定されていることがあります。このような規約がある場合には仮想通貨を売却した金額の支払いを受けられる可能性があります。
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仮想通貨の差し押さえに関する問題点
仮想通貨の差押えが難しい理由をまとめると次のようになります。
管理者がいない
強制執行の対象財産として代表的なものに預金債権があります。預金の場合にはこれを預かり管理している者(金融機関)が存在します。そのため金融機関に対して債務者の持っている預金返還請求権を差し押さえて債権者が代わりに支払いを受けることで債権を回収できます。
これに対し仮想通貨の場合には管理者が存在しません。利用者相互で取引履歴を保管しあう仕組みだからです。そのため債権を差し押さえるという方法が使えないのです。
秘密鍵の差し押さえが難しい
仮想通貨は秘密鍵を使って送金などを行います。秘密鍵が分からなければ換価することができないため債権回収ができません。秘密鍵を債務者個人で管理しているケースでは秘密鍵を債務者から入手できる可能性が低いため仮想通貨の差し押さえは難しいといえます。
これに対し仮想通貨を交換業者に預けている場合には交換業者が秘密鍵を保有しているため交換業者に対する仮想通貨の返還請求権を差し押さえて回収できる可能性はあります。
※仮想通貨に関する強制執行手続きは法律で直接規定されているわけではなく方法が確立されているわけではありません。交換業者が海外の業者などケースによっても異なります。くわしくは弁護士に直接ご相談ください。
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まとめ
・仮想通貨とは、インターネット上で利用可能な通貨に類似した電子データのことです。資金決済法では「暗号資産」と呼ばれており、不特定多数の者に対して代金の決済手段ととなり売買ができるもので電子情報処理組織を用いて移転できる財産的価値などと定義されています(法定通貨等を除く。)。
・仮想通貨は秘密鍵によって管理されています。秘密鍵を仮想通貨の交換業者が管理している場合と個人で管理している場合の2つのパターンがあります。
・秘密鍵を交換業者が管理している場合には仮想通貨の保有者は交換業者に対し仮想通貨の返還請求権をもっています。そのため債権執行の方法により返還請求権を差し押さえることで債権回収できる可能性があります。
・秘密鍵を債務者個人が管理している場合には差し押さえは困難です。秘密鍵を債務者に教えてもらわなければ換金できないからです。
債権回収でお悩みなら弁護士法人東京新橋法律事務所
仮想通貨の差し押さえでお困りの方へ。
債務者が預金や給料など差し押さえ可能な他の財産を持っているかもしれません。
仮想通貨は送金に時間がかかることや使用できる店舗が限られていることからすべての財産を仮想通貨に変えているとは限りません。また仮想通貨に変えてあったとしてもリスク分散の観点から個人ウォレットと交換所を併用している可能性もあります。
債権額や債務者の財産総額にも関わってきますが債務者が仮想通貨を利用しているケースでもあきらめずに債権回収を専門にした弁護士に相談されることをおすすめします。
当事務所は債権の回収に強い弁護士法人です。
多額の債権や日常的に発生する売掛金などの回収にお困りの方はお気軽にご相談ください。