身近な権利として「物権」と「債権」があります。

世の中にはさまざまな財産や権利がありますが具体的な権利や財産を理解するためには物権と債権の基本的な内容を知っておくと分かりやすくなります。

 

この記事では物権とは何かを解説しますが、債権と比較することで理解しやすくなるため債権についても触れていきます。

 

物権とは

物権とは、物を直接支配する権利のことです。物権を理解する上で特に重要な部分が直接支配性です。物権は特定の物を直接支配できる権利であり権利者以外の第三者が干渉することは許されません。仮に第三者が不当に物権を侵害することがあればそれは違法であり物権を持っている人は侵害を除去するための権限が認められます。

物権の代表例は「所有権」です。所有権は包括的に物を支配する権利であり法令による制限の範囲内で使用、収益、破棄、他の物権を設定することなどが自由にできます。物権は他にも地上権や地役権、抵当権、質権など色々な種類があります。所有権以外の物権については限定的にしか物の支配性が認められていないため「制限物権」ともいわれます。

 

債権とは

債権とは、特定の人(債権者)が別の特定の人(債務者)に対して一定の行為を請求できる権利のことです。債務者から見ると特定の人に一定の行為をする義務のことを債務といいます。

物権が自分の力だけで目的物を使用できるのに対して債権の場合には目的を達するために他人の行為が必要となります。法的にも物権の方がより強く保護されており債権よりも強力な権利といえます。

 

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物権と債権の違い

市民生活における相互関係を規律した法律を「民法」といいますが、民法で規定されている財産法は「物権法」と「債権法」に大別されています。そのため物権とは何かを理解するには対となる債権と対比すると分かりやすいといえます。

物権と債権の主な違いは次の通りです。

 

支配権と請求権

物権について

物権とは物を直接支配することで利益を受けられる権利です。そのため第三者がある人物の物に対する直接支配性に不当に干渉した場合には排除できることになります。直接支配性を回復するための物権に基づく権利を「物権的請求権」または「物上請求権」といいます。民法上は直接規定されていませんが解釈上認められています。物権が侵害された場合に直接支配を回復できる手段が用意されていなければ物権は有名無実なものとなってしまうからです。

例えば、Aの土地にBが無断で産業廃棄物を廃棄した場合、Aの土地に対する直接支配性が侵害されていることになります。Aはその土地を自由に使用することができ建物を建てたり駐車場として利用したりすることができますがBの行為によって自分の土地を自由に利用できなくなっているからです。そこでAはBに対して土地所有権に基づく妨害排除請求権としてBに対して廃棄物の除去を請求することができます。

 

債権について

これに対して債権の場合には直接支配性はなく人に対して何かを請求できる権利にすぎません。

例えば、AがBに対して代金後払いで商品を100万円で売却した場合には100万円の売掛債権が発生します。つまりAはBに対して100万円を支払うという行為を請求できる権利を取得したことになります。Bが支払いに応じないときには訴訟を行いBの財産を差し押さえることで強制的に債権を実現することもできます。

 

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絶対性と相対性

物権について

物権は物を直接支配する権利であることから誰に対しても主張でき保護されるという点で絶対性がある権利です。

 

債権について

債権は特定の誰かに対して一定の行為を請求できる権利にすぎないため相対的な権利といわれます。

 

排他性

物権について

物権は物を直接支配する権利ですから一つの物に対して同じ内容の物権は複数成立しません。これを排他性といいます。もしも同じ内容の物権が成立するなら物を直接支配するという物権の性質と矛盾してしまいます。例えば、ある土地についてAが所有権を持っている場合には同じ土地について別の人が所有権を持つことはありません。一つの物を共有することはありますがこれは持分の割合で権利を取得しているのであり矛盾するものではありません。

 

債権について

債権に排他性はありません。債権は特定の人が特定の人に対して行為を請求する権利ですから同じ内容の債権が複数成立することがあります。例えば、AがBに対して所有する土地の売買契約を結んだ場合にはBはAに対し土地の引渡請求権(債権)を取得することになります。AがCとの間で同じ土地の売買契約を結ぶとCもAに対する土地引渡請求権を取得します。もちろん物権の排他性からその土地の所有権者は一人しかなれないため対抗要件を先に備えた方が最終的な所有権者となります。不動産の第三者対抗要件は登記であるため(民法177条)、先に所有権移転登記をした方が物権を取得することになります。民法上、不動産以外の物を「動産」といいますが動産の第三者対抗要件は引渡しです(同178条)。

 

物権的請求権

物権について

物権には直接支配性があるため物権の侵害があったときにはこれを排除できる力が認められています(物権的請求権)。前記のように物権的請求権を直接規定した条文はありません。しかし条文上まったく根拠がないわけではなく民法197条~202条に占有権に基づく物に対する直接支配性を回復する権利が認められています。占有権というのは物を占有するだけで生じる物権の一種です。占有権は所有権のように占有を正当化する権利の有無に関係なく占有している事実を一応保護するものにすぎず物権としては弱いものです。その弱い占有権にも物権的請求権が認められていることから本権としての所有権などにも物権的請求権が認められると考えられます。

物権的請求権には種類があり、「返還請求権」、「妨害排除請求権」、「妨害予防請求権」に分かれます。

返還請求権は、権限なく物を占有している者に対し目的物の返還を請求する場合に使います。例えば、Aが所有する土地をBが無権限で建物を建て占有している場合にはAはBに対し土地所有権に基づく返還請求権の行使としてBに対して土地の明け渡しを請求できます。

妨害排除請求権は、他人が物を占有以外の方法で妨害している場合に妨害の除去を請求する場合に使います。

妨害予防請求権は、物件が侵害される恐れがあるときに妨害が生じないように請求できる権利です。例えば、隣地が今にも崩れて所有する土地が被害を受けそうなときに使います。

 

債権について

原則として物権的請求権は認められません。例外的に対抗要件を備えた不動産賃借権については妨害停止請求が認められています(民法605条の4)。

 

優先的効力

物権について

物権の排他性から同じ物に同じ内容の物権は複数成立しません。このことから抵当権について疑問に感じるかもしれません。一つの不動産について複数の抵当権が設定されることがあるからです。しかしこれは排他性に反するものではありません。抵当権には順位があるからです。抵当権は物の交換価値を直接支配する権利ですが先順位の抵当権者から優先して弁済を受けられることになっています。つまり第1順位の抵当権と第2順位の抵当権は別の権利であり排他性に反しないのです。

 

債権について

同一物について物権と債権が発生することがあります。この場合には成立の順序に関係なく物権が優先することが原則です(不動産における請求権について仮登記を備えた場合など例外はあります。)。

賃借権も債権ですが不動産賃借権については登記など対抗要件を備えたときは物権にも対抗できます。

 

物権の特徴で特に重要なものが直接支配性です。排他性など他の特徴もそこから導かれます。そのため直接支配性に着目すると債権など他の権利も理解しやすくなります。

 

 

物権

債権

定義

物を直接支配する権利

人に一定の行為を請求できる権利

直接支配性

ある

※利益の享受に他人の行為が不要

ない

※権利の実現に他人の行為が必要

排他性

ある

※同一物について同内容の物権は複数成立しない

ない

※同じ内容の債権が複数成立することがある

 

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まとめ

物権とは物を直接支配する権利のことです(直接支配性)。そのため同じ物に同じ内容の物権は複数成立しません(排他性)。

・債権とは人に対して一定の行為を請求できる権利のことです。

・物権には直接支配性があるため第三者の侵害があると侵害をやめさせる権利が発生します(物権的請求権)。

・不動産賃借権は債権ですが登記など対抗要件を備えたものについては物権に類似するため物権的な権利が認められることがあります。

 

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