離婚慰謝料が約束通りに支払われないことがあります。家庭裁判所の調停や訴訟により相手が離婚慰謝料を支払うことになっているのに支払わないときには強制執行も選択肢となります。もっとも相手の財産によって強制執行の方法は変わります。

 

この記事では、未払いの離婚慰謝料について強制執行による回収方法について解説します。

 

離婚慰謝料とは

離婚慰謝料とは、離婚原因を作り出した配偶者が精神的損害を償うために支払う賠償金のことです。

離婚慰謝料はあくまでも相手に離婚原因があった場合に支払われるものであり不倫や暴力など不法行為がなければ請求することはできません。

ただし、相手が有責かどうかにかかわらず夫婦財産の清算が必要なときには財産分与を請求することは可能です。財産分与の際に慰謝料を考慮することはありますが慰謝料はあくまで不法行為に対して支払われるものです。

 

慰謝料が支払われない場合の回収方法

離婚慰謝料の支払い義務が確定していないときには家庭裁判所の調停手続きなどにより慰謝料を請求していきます。離婚調停の中で交渉することもできます。すでに調停や訴訟により慰謝料の支払い義務が確定しているときには以下の方法により回収をしていきます。

 

文書などで督促する

離婚慰謝料が期限までに支払われないときは早めに催告していきます。対処が遅れると相手の財産状況が悪化することがあります。早めに催告することで強制執行をするべきか判断もしやすくなります。相手に直接連絡したくないときには弁護士に頼む方法もあります。

 

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強制執行により慰謝料を回収する

強制執行により元配偶者の財産を差し押さえて強制的に離婚慰謝料を回収することもできます。預金や給料、不動産などから回収していきます。ただし強制執行をするにはいくつか条件があります。

 

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慰謝料が未払いの場合に強制執行ができる条件

離婚慰謝料が未払いであっても強制執行できるとは限りません。満たすべき条件があります。

 

債務名義があること

債務名義というのは権利があることを認めた執行力を持つ公文書のことです。離婚慰謝料の支払いを命じた確定判決書などのことです。債務名義には以下のようなものがあります。

 

確定判決

・仮執行宣言付判決

・和解調書、調停調書など確定判決と同一の効力をもつもの

・仮執行宣言付支払督促

公正証書(強制執行認諾文言付き)

 

債務名義がないときには調停や訴訟を申し立てて債務名義を取得する必要があります。

 

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慰謝料を回収できる財産があること

債務名義があっても十分な財産がなければ離婚慰謝料を回収することはできません。不動産のような高価な財産がなかったとしても給料から回収する方法もあります。

 

元配偶者の住所や財産を把握していること

相手に財産があることが分かっていても差し押さえるべき財産がどこにあるのかわからなければ強制執行することができません。裁判所が自発的に調べてくれるわけではありません。

また強制執行する際には債務者の住所が原則として必要です。住所不明の場合には戸籍の附票などを調査します。

財産の有無や種類、住所については財産開示手続きや弁護士による調査で判明することもあります。

 

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強制執行で差押えができる財産

離婚慰謝料を強制執行により回収する場合には以下のような財産が対象となります。

 

債権

銀行預金や給料、売掛金、貸金などの金銭債権は差し押さえの対象となります。

 

銀行預金

銀行預金を差し押さえると差押え時の残高を限度として離婚慰謝料の支払いを受けることが可能です。

 

給料

給料からも離婚慰謝料の支払いを受けられますが一定の制限があります。給料は差し押さえられると元配偶者が生活できなくなるおそれがあるため、原則として手取りの4分の1まで差し押さえできることになっています。ただし預金などの通常の債権と異なり継続して差し押さえの効力が生じます。

 

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不動産

不動産は価値が大きいため離婚慰謝料が高額な場合には検討したい財産です。しかし金銭債権と異なり競売などの手続きが必要なため時間や費用がかかりやすいことに注意が必要です。

 

動産

動産とは不動産以外の物のことを指します。貴金属など高価なものについては慰謝料回収の選択肢となります。一般的な動産執行の対象となるものには以下のものがあります。

 

・現金(個人の場合66万円を超える部分

・美術品

・高級時計

・貴金属

・裏書が禁止されていない有価証券(株券等)

・軽自動車など未登録自動車

 

自動車

自動車も強制執行の対象です。ただし動産ではありますが登録自動車については不動産に準じた取り扱いがされます。

 

強制執行で差押えができない財産

強制執行はすべての財産に認められるわけではありません。配偶者にも生活があるため離婚慰謝料であっても差押えが制限されることがあります。

 

差押禁止債権

離婚慰謝料について給料を差し押さえる場合、税金等を差し引いた手取り額の4分の1までしか原則として差し押さえできません。ただし手取りが44万円を超えるケースでは33万円を超える部分を全額差押え可能です。

公的年金(国民年金、厚生年金、共済年金)は全額差押えが禁止されています。退職金などほかにも制限があるため弁護士とよくご相談ください。

 

差押禁止動産

生活や仕事に支障が出ないように下記のような動産も差し押さえが制限されます。

 

・日常生活に欠かすことのできない物(衣服、寝具、家具、家電、実印等)

・職業に欠かせない道具

・66万円までの現金

・仏像や位牌など礼拝に欠かせない物

・勲章など名誉を表章する物

・発明、著作に係るもので未発表のものなど

※具体的に禁止される範囲は裁判所やケースにより異なることがあります。

 

強制執行の流れ

離婚慰謝料の強制執行について不動産、動産、債権に分けて流れを見ていきます。

 

不動産の強制執行手続

不動産強制執行は競売した代価から回収する強制競売と、賃料収入等から回収する強制管理の方法があります。競売が大半であるため強制競売の流れを見ていきます。

 

1.競売申立て(不動産所在地を管轄する地方裁判所)

2.開始決定、差押え

3.不動産の調査

4.売却(入札)

5.配当

 

不動産執行は費用や時間が多くかかる点に注意が必要です。東京地裁では80万円以上の予納金が必要とされます。離婚慰謝料が高額な場合や他に執行が容易な財産がないような場合には選択肢となります。

 

不動産競売について詳しくは、「強制競売とは?強制競売の流れをわかりやすく解説」をご覧ください。

 

動産の強制執行手続

動産から離婚慰謝料を回収するには以下の流れで行います。

 

1.動産執行の申立て(目的物の所在地を管轄する地方裁判所の執行官)

2.執行官との面接(執行日時や鍵屋の手配などの打合せ)

3.差押え

4.売却(競り売り)

5.配当

 

不動産と違い具体的な動産を指定する必要はありません。申立時に予納金として2万円以上(東京地裁は3万5,000円~)が必要となります。建物に立ち入る際に施錠されていると執行できないため必要に応じて鍵屋に同行してもらいます。その場合別途費用(1万円~)がかかることになります。

動産執行は差押制限などにより執行不能となることがめずらしくありません。費用倒れにならないように弁護士とよく相談することが大切です。

 

動産執行について詳しくは、「動産執行とは?手続きの流れや費用を解説」をご覧ください。

 

債権の強制執行手続

離婚慰謝料の回収は基本的に預金などの債権執行を検討します。回収の流れは以下の通りです。

 

1.債権執行の申立て(債務者の住所地を管轄する地方裁判所)

2.差押命令

3.第三債務者への差押命令正本の送達

4.第三債務者への送達後に債務者(元配偶者)にも送達

5.債権者(あなた)に送達通知書の郵送

6.第三債務者から支払いを受ける

 

差押えの効力は第三債務者に送達されたときに生じます。第三債務者というのは債務者の債務者のことです。預金の差押えであれば金融機関、給料であれば元配偶者の勤め先のことです。申立費用として4,000円分の収入印紙が必要であり郵便切手も必要となります。

 

差し押さえから一定期間経過したら第三債務者に依頼して支払いを受けることになります。第三債務者が法務局にお金を供託してしまったときは裁判所の指示に従います。取り立てをしたときは取り立て届を裁判所に提出します。

 

強制執行について詳しくは、「強制執行による債権回収|手続きの流れを分かりやすく解説」をご覧ください。

 

まとめ

・離婚慰謝料は離婚原因となった有責配偶者が支払うべき精神的損害賠償金です。夫婦財産の清算のために行う財産分与の際に請求することもあります。

・離婚慰謝料の支払い義務が確定していないときは調停手続きなどで請求していきます。

・離婚慰謝料の支払い義務が調停などにより確定している場合には強制執行を検討します。預金や給料などを差し押さえて回収します。

 

離婚慰謝料でお悩みなら弁護士法人東京新橋法律事務所

配偶者に不貞行為などの不法行為があったときは慰謝料を請求していくことが大切です。離婚原因を作り出した有責の配偶者には離婚慰謝料を支払う義務があります。放置してしまうと時効にかかる恐れもあります。早めに離婚慰謝料に強い弁護士に相談されることをおすすめします。

弊所は離婚慰謝料など家族問題にも力を入れております。お困りのことがあればお気軽にご相談ください。

 

※不倫や慰謝料についてはこちらのサイトもご参照ください。