裁判で勝訴したとしても相手が任意に支払いに応じてくれず強制執行をすることがあります。ところが強制執行しようとした矢先に裁判所により強制執行が停止されることがあります。強制執行の停止には様々な原因があります。

 

この記事では強制執行停止について債権回収の観点から解説します。

 

※借金などの債務の返済ができずお困りの方こちらの記事をご参照ください。

 

強制執行停止とは

強制執行停止とは、債権者が訴訟で勝つなどして強制執行できる状態にあるときに強制執行の開始を阻止し、または開始した強制執行手続きの続行をできないようにすることです。

第一審判決で勝訴して仮執行宣言が出されると債務名義となるため強制執行が可能となります。被告が第一審判決に不服があり控訴したとしても強制執行は可能です。強制執行を止めるには強制執行停止の申立てをして裁判所に認めてもらう必要があります。

また、債務者から財産が移転していたような場合に第三者から強制執行停止が申し立てられることもあります。

このように強制執行に対する債務者側の防御的手段として強制執行停止制度があります(単に時間を稼ぐためだけに強制執行停止の申立てがなされることもあります。)。

 

<関連記事>債務名義とは? 取得方法と債権回収までの流れを分かりやすく解説

 

強制執行停止の代表的なケース

強制執行の停止は執行裁判所に一定の文書の提出があったときなどに行われます(民事執行法39条1項各号)。控訴や債務整理などの際に強制執行の停止が問題となります。

 

仮執行宣言付判決への控訴

仮執行宣言付判決とは、確定前の判決に基づいて強制執行できる判決のことです。敗訴した被告は控訴することで判決を覆せる可能性があります。そのため原則として強制執行は確定判決に基づいて行いますが迅速な権利実現の必要性があるときには仮執行宣言をつけてもらうことで確定前に強制執行可能となります。

しかし預金口座や給料などが差し押さえられると信用を失うなどの影響が発生します。そこで下記の事情が疎明されたときには裁判所が強制執行停止を命じることがあります(民事訴訟法403条1項3号)。

 

・原判決の取消し又は変更の原因となるべき事情がないとは言えないこと

又は

・強制執行により著しい損害が発生する恐れがあること

 

仮執行宣言付き支払督促の場合にも強制執行の停止がされることがあります。

 

<関連記事>支払督促とは? 取引先にする場合のメリット・デメリット、手続きの流れを解説

 

執行文付与への異議訴訟

強制執行をするには原則として債務名義(確定判決書等)に執行文をつけてもらうことが必要です(民事執行法25条本文)。執行文というのは執行力が現存することを裁判所書記官や公証人が債務名義に付記する証明文言のことです。

執行文が付与された場合において下記事項に不服のある債務者は異議の訴えを提起することができます(同法34条1項)。

 

・債権者の証明すべき事実が到来したこと

・債務名義に記載のある当事者以外の者に対し、又はその者のために強制執行できること

 

そして異議のため主張した事情に法律上理由があると見え、かつ、事実上の点について疎明があるときは強制執行停止がされることがあります(同法36条1項)。

 

請求異議訴訟

債務名義に示された権利自体が実際には存在しないことがあります。このような場合には請求異議訴訟により債務名義の執行力が否定されることがあります(同法35条1項)。ただし仮執行宣言付き判決については上訴によって争うことができるため対象外です。

執行文付与に対する異議の訴えと同じで、請求異議訴訟を提起しても当然には強制執行は停止しません。強制執行停止は、異議のため主張した事情に法律上理由があると見え、かつ、事実上の点について疎明があるときになされることがあります(同法36条1項)。

 

第三者異議訴訟

差し押さえた財産が債務者のものではなく第三者が所有していることがあります。このように強制執行の目的物につき所有権などを有している第三者は自己の権利を守るために強制執行の不許を求めて第三者異議の訴えを起こすことができます(同法38条1項)。

第三者異議訴訟においても強制執行停止が可能であり、異議のため主張した事情に法律上理由があると見え、かつ、事実上の点について疎明があるときは強制執行停止がされることがあります(同法38条4項、36条1項)。

 

破産・民事再生手続きでの強制執行停止

破産や民事再生手続きの申立てがあった場合には、手続開始前であっても強制執行が中止される可能性があります(手続開始前の保全処分、破産法24条1項1号、民事再生法26条1項2号)。

 

破産手続開始決定がなされた場合において管財事件のときは、強制執行の効力が失われます(破産法42条2項、1項)。

同時廃止の場合には免責許可申立てについての裁判の確定まで強制執行は中止されます(破産法249条1項、民事執行法39条1項7号)。免責許可決定の確定により強制執行の効力が失われます(破産法249条2項)。

 

再生手続開始決定がなされた場合には、強制執行は中止されます(民事再生法39条1項)。

 

強制執行停止の申立ての流れ

強制執行停止手続きの基本的な流れについて見ていきます。ケースとしては仮執行宣言付き判決に対する控訴を想定します。

 

控訴の申立て

第一審で勝訴したとしても債務者が控訴をしてくることがあります。勝ち目がない場合であっても時間稼ぎのために行われることもあります。控訴状を第一審裁判所に提出して申し立てます。

 

強制執行停止の申立て

控訴しただけでは強制執行停止の効果はないため執行停止の申立てがなされます。申立ては訴訟記録が控訴審裁判所に移動する前であれば第一審裁判所に行います。強制執行停止は一刻を争うため通常は控訴提起とともになされます。

 

立担保命令と担保金の供託

強制執行停止は担保と引き換えに認められることが普通です。担保金の額は控訴審での勝訴見込みなどを考慮して定められるためケースによって異なりますが、第一審請求認容額の8割前後が目安と言えます。担保金は管轄の法務局で供託されます。

 

供託書正本等を裁判所に提出すると強制執行停止決定がなされます。強制執行停止決定正本を執行裁判所に提出することで執行が停止されます。

 

強制執行が停止された場合の債権回収

強制執行を迅速に行うことで執行停止を防ぐことが基本ですが強制執行が停止された場合には停止の原因に応じて債権回収の可能性を探ります。

 

控訴に伴う執行停止の場合

強制執行停止が控訴に伴う仮執行宣言付判決に対してのものである場合、独立した異議手続きがありません(民事訴訟法403条2項)。この場合、権利が確定していないため控訴審で勝訴する必要があります。

立担保のあるケースで勝訴が確定した場合には、相手に財産があることや差し押さえを嫌っていることから任意の支払いも期待できます。支払いがないときには債権執行等を検討します。

控訴の可能性がある場合には判決が出る前から迅速に強制執行ができるように準備をしておくことが大切です。

 

債権執行については、「強制執行による債権回収|手続きの流れを分かりやすく解説」をご参照ください。

 

民事執行法に基づく訴訟による執行停止の場合

執行文付与に対する異議の訴えや請求異議の訴えに関しては、裁判所が判決で強制執行停止を取り消すことがあります(民事執行法37条1項)。第三者異議の訴えについても同様です(同法38条4項)。そのためこれらの訴えが起こされた場合には訴訟に適切に対応することが肝要です。

また、執行文付与と第三者異議訴訟に関しては他の財産に強制執行していくことも検討できます。

 

破産・民事再生手続きに伴う執行停止の場合

控訴に伴う執行停止や民事執行法上の異議訴訟では独立した不服申立て手続きがありません。しかし破産や民事再生手続きの申立てにつき決定があるまでに行われた中止命令については即時抗告が認められています(破産法24条4項、民事再生法26条4項)。

即時抗告が認められない場合には倒産手続きの中で配当等を受けることになります。

 

強制執行が停止された場合には停止された原因を取り除くことが基本となります。強制執行停止の原因により具体的な対処方法が異なるため専門の弁護士に相談し指示に従うことが大切です。

 

まとめ

・強制執行停止とは、債務者等の財産を保全する必要がある場合に裁判所が一時的に強制執行を止める手続きです。

・強制執行停止が認められるのは法律で定められた場合であり、仮執行宣言付き判決への控訴、民事執行法上の異議訴訟、破産・民事再生手続き等に伴い停止(中止)されることがあります。

・強制執行停止が訴訟に伴うものであるときは当該訴訟での判決を待つか、訴訟の種類によっては別の財産への強制執行を検討します。

 

強制執行でお悩みなら弁護士法人東京新橋法律事務所

強制執行を停止されてしまうと債権回収に時間がかかります。

債権回収は迅速に行うことが基本であり強制執行停止のリスクを減らすためにも執行停止の可能性があるときには事前に準備を行い迅速に強制執行することで執行停止のリスクを減らすことが重要です。

そのためには専門の弁護士に事前に相談することが大切です。

 

弊所は事業で生じた債権の回収に強い事務所です。

 

当事務所では、未収金が入金されてはじめて報酬が発生する成功報酬制です。

「着手金0円(法的手続きを除く。)」、「請求実費0円」、「相談料0円」となっておりご相談いただきやすい体制を整えております。

※個人間や単独の債権については相談料・着手金がかかります。くわしくは弁護士費用のページをご覧ください。

 

少額債権(数千円単位)や債務者が行方不明など他事務所では難しい債権の回収も可能です。

「多額の未収債権の滞納があって処理に困っている」

「毎月一定額以上の未収金が継続的に発生している」

このような問題を抱えているのであればお気軽にご相談ください。