少額の売掛金や貸金などを回収するために「少額訴訟」という選択肢があります。しかし少額訴訟にもデメリットがあるため通常訴訟を選択したり弁護士に回収してもらったりした方がいいケースもあります。債権回収方法を選択する際に大切なことは費用や労力に効果が見合うかということです。そのために債権回収方法のデメリットを知ることも必要です。

この記事では少額訴訟のデメリットについて解説します。

 

少額訴訟とは

少額訴訟とは、60万円までの金銭請求をする場合に利用できる簡易的な訴訟手続きで、原則として1回の期日で終了させるものです。

通常の訴訟は手続きが複雑であり一般の方が利用することが難しい面がありますが、単純かつ少額の請求であることから一般の方が利用しやすいように手続きが簡略化されています。

具体的には、①1回の期日で解決を目指すため即時に調べることのできる証拠に限定されていること、②控訴の禁止、③分割払いなど支払猶予判決があることなど通常の訴訟よりも簡易、迅速、弾力的という特徴があります。

このように少額訴訟には通常訴訟には見られない特徴があることからデメリットをよく理解した上で利用するかどうかを判断する必要があります。

 

少額訴訟のデメリット

少額訴訟には以下のようなデメリットが存在します。通常訴訟を選択した方が良いケースもあるため十分注意する必要があります。

 

必要書類の作成を自分で行わなければならない

少額訴訟は費用面を考慮して弁護士に依頼せず本人訴訟として行うケースが多くなっています。ご自身で手続きをとる場合には必要書類の準備も自力で行うことになります。例えば以下のような書類が必要となります。

 

・訴状

・証拠書類(契約書、見積書、納品書、交渉記録、借用書など)

・登記事項証明書(当事者が法人の場合の代表者の資格証明書)

 

訴状については、「債権回収の裁判(民事訴訟)知っておきたいメリットとデメリット、手続き、流れを解説」をご参照ください。

 

弁護士から請求することで訴訟に至らず支払いに応じてもらえることもあるため、請求額や債権の数によっては無理をせず弁護士に相談することも大切です。

 

判決に不服があっても控訴することができない

少額訴訟の大きなデメリットが控訴できないことです。控訴とは、一審の判決に不満がある場合に上級の裁判所に不服を申し立てることです。つまり少額訴訟では判決が不利なものであっても上の裁判所に判断してもらえないのです(異議を申し立てることで審理を再開してもらうことはできます。)。

訴訟は必要な主張・立証を行わないと敗訴してしまいます。自分がいくら正しくても裁判官を納得させられる証拠を提出できなければ負けてしまいます。

「令和5年司法統計(最高裁判所事務総局)」(令和6年5月31日)によれば、令和5年に少額訴訟が判決で終了したケースのうち、訴えが一部でも認容された判決は約88%となっています。言い換えると判決まで争ったケースのうち1割以上が訴えを認められなかったことになります。

通常の訴訟であれば控訴することで別の裁判所に審理してもらい判断を覆せる可能性があります。

 

原則として審理は1回しかされない

少額訴訟のデメリットとして1回の期日で原則終了することが挙げられます。少額訴訟は迅速な問題解決のため1回の審理で判決を出すことを目指します。問題が早期解決できる点ではメリットといえますが事前準備を完璧にする必要がある点でデメリットにもなります。1回の期日ですべて終えなければならないため証拠もその場で取り調べることができるものに制限されています。例えば証人尋問も行うことができますが裁判期日に確実に証言してもらえるように調整する必要があります。控訴できないことと併せるとミスが許されません。

 

相手が拒否すると通常訴訟に移行する

少額訴訟はさまざまな制限があるため被告にとってもデメリットがあります。そのため被告の希望があれば通常訴訟に移行することになっています。少額訴訟により1回で解決できると思っていたのに思惑が外れることになります。

また、被告の申出がなくても少額訴訟にふさわしくないケースでは裁判官が通常訴訟に移行させることもあります。

 

不利な判決が出される可能性もある

少額訴訟のデメリットの一つは、通常訴訟の判決よりも不利な判決が出る可能性が挙げられます。原告の言い分が認められたにもかかわらず分割払いや支払いを一定期間猶予されることがあるのです。また訴え提起後の遅延損害金が免除されることもあります。

分割払いや支払いが猶予されるとその間に被告の経済状況が悪化するなどして債権回収が困難となる恐れがあります。

 

1年間に提起できる回数が決まっている

少額訴訟のデメリットとして利用できる回数に制限があります。少額訴訟の利用は同一の裁判所に対して年に10回までと決まっています。個人では特にデメリットにならないかもしれませんが事業者にとっては十分注意する必要があります。例えば、病院が未収金処理に少額訴訟を利用することがありますが未収金がたまっている場合や、大規模な医療機関の場合には回数制限にかかる恐れがあります。

未収金処理は後回しにせず滞納が発生してから時間を空けずに対処することが大切です。

 

<関連記事>病院が患者から未収金を回収する方法と注意点を弁護士が解説

 

少額訴訟を利用すべき理由

少額訴訟にはデメリットもありますが一般の方がお金を回収する手段として現実的な方法でもあります。債権回収は費用対効果を考えることが必要であり、同時に自力で可能なのか弁護士に依頼すべきか見極めることがポイントです。

 

少ない費用で訴えることができる

少額訴訟は手続きが簡易であるため弁護士に依頼せずにご自身で手続きをとる方が多くなっています。本人訴訟で済ませることができれば弁護士費用が掛からなくて済みます。裁判所も期日前の事情聴取などにより裁判所になるべく足を運ばなくて済むように配慮しています。

 

令和4年における簡易裁判所での民事既済事件の平均審理期間は以下の通りです。

 

全事件

対席判決

通常訴訟

3.4月

5.1月

少額訴訟

2.5月

2.6月

※令和4年司法統計年報概要版(民事・行政編)(令和6年9月10日更新版)参照

 

「対席判決」というのは相手方が出席しまたは欠席しても答弁書を提出して争ったケースです。相手方が答弁書を出さずに欠席した場合には通常訴訟でも早く審理が終わります。

データを見る限り少額訴訟の方が短い傾向にありますが、少額訴訟は事案が単純なものが多いことに注意が必要です。少額訴訟として提起しても複雑な事案は通常訴訟に移行したり1回の審理では終わらなかったりします。

 

<関連記事>少額訴訟の費用相場は?費用倒れを回避する方法も解説

 

自分個人でできる

少額訴訟のメリットとして手続きが簡易化されていることも挙げられます。費用面の問題から弁護士に依頼できないケースでも一般の方がご自分で権利を実現できるように特に手続きが簡略化されています。また心理的なハードルを下げるためラウンドテーブル(円卓)に裁判官や書記官などと並んで座り手続きが進められます。

少額訴訟の提起が相手と和解するきっかけとなることもあります。少額訴訟の約18%(令和5年)が和解で解決しています。

 

勝訴が十分に見込める

訴訟は弁護士に依頼しなければ勝てないと一般的に思われています。確かに訴訟は一般的に手続きが複雑であり専門的な知識経験がなければ必要な主張立証がなされず正当な権利を持っていても敗訴してしまう恐れがあります。しかし少額訴訟に関する司法統計(令和5年)を見る限り原告の訴えを認める判決が出る割合が8割以上(一部認容含む。)となっており、一般の方がご自分の力で権利を実現できる可能性があります。原告に法律家代理人が付いていたケースは約9%にすぎません。

ただし通常訴訟でも原告勝訴の割合は高くなっています。通常訴訟(簡易裁判所)での原告側法律家代理人選任率は約14%と高くなりますが本人訴訟率が高いことに変わりはありません。少額訴訟だから勝訴しやすいというわけではなく適切な主張立証の有無が結果を左右します。原則1期日審理の中で証拠を適切に提出することは十分可能ということです。

 

少額訴訟はデメリットもあるためトラブルの解決に必ずしも適切とはいえませんが、債権回収の有力な選択肢となります。

 

<関連記事>少額訴訟とは?向いているケースや成功させるポイントを詳しく解説

 

まとめ

・少額訴訟は60万円以下の金銭請求をする際に利用できる簡易な訴訟手続きです。1回の期日での解決を目指します。

・少額訴訟のデメリットには、①控訴の禁止、②審理が原則1回、③通常訴訟に移行されることがある、④分割払いになる可能性などがあります。

・少額訴訟のメリットは、手続きが簡略化されていることから弁護士に依頼せずに権利を実現しやすいことなどがあります。

 

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特に事業者の場合には日々発生する売掛金や未収金の回収に少額訴訟で対抗し続けることは難しいかもしれません。少額の債権であっても毎月多数の未払いが生じるときは専門の弁護士に相談されることをおすすめします。

 

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