取引先の信用に不安があるときに担保を提供してもらうことがあります。しかし適当な不動産がない場合や信用力のある連帯保証人が見つからないことがあります。このようなケースでは取引先の保有する債権を担保に取れないか検討できます。債権譲渡担保をうまく活用できれば債権回収の可能性を高めることができます。

 

この記事では、債権譲渡担保についてメリットや注意点などを解説します。

 

債権譲渡担保とは

債権譲渡担保とは、担保目的で債権譲渡することです。つまり債務者が支払ってくれるか不安があるときに債務者が別の第三者に対して持っている債権を担保にすることです。債権譲渡担保は法律で規定されているわけではありませんが一般的に認められています。本質的には債権譲渡にあたるため権利者は第三債務者(債務者の債務者)から直接支払いを受けることが可能となります。ただし、あくまで担保目的であるため債務者の支払いがないときに直接回収することになります。債権譲渡担保の対象となる債権は既発生のものに限らず将来具体的に発生するものも含まれます。

 

例えば、医療機器リース会社が病院に対するリース料金を担保するため、病院の持つ診療報酬債権を担保に取るケースがあります。病院がリース料の支払いができなくなったときは、リース会社は診療報酬の支払い義務を持つ者から回収していきます。

 

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債権譲渡担保のメリット

債権譲渡担保は不動産などの物的担保や連帯保証人が確保できない場合にも利用できるメリットがあります。仮にこれらの担保が用意できる場合であっても債権譲渡担保の方が心理的な抵抗が少ないケースもあります。ほかにも以下のようなメリットがあります。

 

第三債務者からの直接回収

債権譲渡担保の大きなメリットの一つが第三債務者から直接支払いを受けられる点にあります。契約の内容にもよりますが債務者の支払いが滞った際には契約条件に従って第三債務者に直接支払いを請求することが可能となります。本来であれば債務者が第三債務者から支払いを受けて、その金銭を債権者に支払うことになりますがタイムロスが生じるだけでなく支払いをいつ受けられるか見通しがつきにくくなります。特に債務者の支払いが遅れている状況では別の債権者への支払いを優先される恐れもあり、確実な回収が難しくなります。

債権譲渡担保を利用することで支払いを受けられる可能性を高め、タイムロスを減らし自社の資金繰りへの影響を減らせるメリットがあります。

 

債務者が破産しても回収が期待できる

債権譲渡担保により債務者が破産した場合における債権の回収可能性が上がります。債務者が破産など倒産状態となった場合には支払い能力に問題が生じているため債権回収は難しくなります。担保がないと普通は破産手続きなど倒産手続きの中で配当を受けることになりますが満足な回収は期待できません。

債権譲渡担保を設定することで倒産状態であっても第三債務者から回収できる可能性があります。

 

債権譲渡担保契約の注意点

債権譲渡担保は設定上の注意点があり失敗すると契約が無効になるなどの不利益が生じます。特に以下の点には注意が必要です。

 

対象債権を明確に特定する

どの債権を守るためにどの債権を担保に取るのか明確に特定する必要があります。特に債権譲渡の対象となる債権は慎重に特定する必要があります。この点最高裁判所は、債権譲渡の目的債権は、①発生原因、②譲渡の対象となる債権金額等により特定される必要があり、将来一定期間内に発生する債権については、③期間の始期と終期を明確にするなどして特定されるべきとしています(最高裁平成11年1月29日判決)。

①債権の発生原因(契約当事者や債権の種類等)

②譲渡の対象となる債権金額

③期間の始期と終期を明確にする(将来債権の場合)

 

将来分の債権譲渡担保については、期間があまりに長期間に及ぶ場合には無効になる可能性があります。期間は一概には言えませんが設定者の活動や他の債権者に不当な不利益を与えるかが判断基準となります。一般的には5年程度が上限と考えられますが設定者の資産状況等により変わるため顧問弁護士に相談する必要があります。

 

債権譲渡禁止特約の確認

債権譲渡担保を設定する際は、目的の債権について譲渡禁止特約がないか確認することも重要です。この特約があると第三債務者が素直に支払いに応じてくれないことがあるからです。債権譲渡禁止特約とは、取引をする際に発生した債権の譲渡を制限する特約のことです。債権譲渡禁止特約があっても原則として債権譲渡担保は有効です。しかし担保権者が譲渡禁止特約を知っていた場合や知らないことに重過失があるときは、第三債務者は支払いを拒否することが可能となっています。

 

債権譲渡担保契約書に「債権譲渡禁止特約の不存在保証」条項を入れておくことも効果的です。担保提供者(債務者)が、債権譲渡禁止特約がないことを債権者に約束することで債権者が特約の存在を知らなかったことを示す根拠の一つとなります。

 

債権譲渡禁止特約について詳しくは、「債権譲渡禁止特約とは?民法改正で変わったことを分かりやすく解説」をご覧ください。

 

取立権の定め

債権譲渡担保は、債権譲渡の形式はとりますがあくまで担保目的であるため問題が生じるまで取立権は担保権設定者にしておきます。問題はいつまで設定者の取立権を認めるかです。どのような事由が発生したら設定者の取立権が喪失するか明確にする必要があります。

被担保債権を発生させた契約内容によりますが債務不履行や期限の利益の喪失まで取立権を認めることが考えられます。

 

期限の利益については、「債権回収を見越した契約書の内容と作成方法」をご参照ください。

 

既に弁済済みの債権か確認

債権譲渡担保に取ろうとしている債権が支払い済みのことがあります。支払いが済んでいれば消滅しているため担保に取ることができません。

将来債権については残額などを設定者に定期的に報告させるため必要に応じて報告書提出義務を契約条項に入れておきます。

 

また第三者対抗要件を備えることも必要です。対抗要件については、「債権譲渡とは?流れや対抗要件を分かりやすく解説」をご参照ください。

 

債権譲渡担保手続きの流れ

債権譲渡担保の設定は以下のように行われます。

 

担保にする債権の検討

自社の債権を担保するのに適切な債権があるのか調査する必要があります。既発生の債権なのか将来債権なのか、債権の発生可能性や回収可能性などを検討します。対抗要件の取得方法(内容証明、債権譲渡登記等)も考えておきます。

 

担保契約書を作る

債務者(設定者)との間で基本的な合意に達したら債権譲渡担保契約書を交わします。契約書の作成の際には、譲渡債権を特定するために債権の発生原因等を明記する必要があります。また設定者の取立権をいつまで認めるか被担保債権の内容に合わせて記載します。ほかにも対抗要件協力義務や、譲渡禁止特約不存在保証条項、設定者の債権状況報告義務など必要に応じて規定します。

 

対抗要件の具備(内容証明や登記等)

債権譲渡担保の落とし穴として第三者対抗要件があります。債権譲渡担保においては担保権者が支払いを請求する際に必要な債務者対抗要件と、他の債権者などに対抗するための第三者対抗要件の2つの対抗要件があります。このうち第三者対抗要件は確定日付ある証書による通知または承諾が原則として必要です。これを忘れるケースがあります。通常は内容証明郵便を使います。

債権譲渡担保の事実を第三債務者に知られたくないというケースでは内容証明郵便の代わりに債権譲渡登記を利用する方法もあります。

 

担保権の実行

債務不履行等により債権譲渡担保契約の要件を満たしたときは、第三債務者に対して支払いを請求していきます。債権譲渡登記を利用しているときは登記事項証明書の交付を伴う通知などが必要です。

 

債権譲渡登記については、「債権譲渡通知書とは?作成方法や債権譲渡登記制度の活用について詳しく解説」をご参照ください。

 

まとめ

・債権譲渡担保とは、担保目的での債権譲渡のことです。取引先の信用に不安があるときに取引先の持っている売掛金などの債権を担保に取ります。法律上の規定があるわけではありませんが解釈上認められています。

・債権譲渡担保を設定している場合に取引先が支払いをしてくれないときは、担保に取った債権を取引先に代わって行使して第三債務者から直接回収していきます。

・債権譲渡担保は、不動産などの物的担保や連帯保証人を利用できなくても担保に取れるメリットがあります。

・取引先が破産した場合にも第三債務者から回収できる可能性があります。

・債権譲渡担保を設定する際は、①債権の発生原因、②譲渡の対象となる債権額、③期間の始期と終期を明確にするなどによりできるだけ特定する必要があります。また第三者に対抗するには内容証明郵便による通知、承諾や登記が必要となります。

債権譲渡担保は契約内容や対抗要件の取得方法によっては効力が否定されることがあります。利用する際は顧問弁護士に相談されることをおすすめします。

 

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顧問弁護士については、「顧問弁護士とは?役割や弁護士との違いを解説」もご参照ください。