債務者が支払不能となっているのに自己破産しないケースがあります。このような場合には税務上の損金処理に支障が出ることもありますし、消費者被害が生じているケースでは被害拡大の恐れもあります。貸金や売掛金などの債権回収であれば訴訟を行い強制執行することが通常ですがケースによっては破産も選択肢となります。

 

この記事では、債権者破産の要件や手続きなどを解説していきます。

 

債権者破産とは

債権者破産とは、債権者から債務者の破産を裁判所に申し立てる手続きのことです。第三者破産ともいいます。破産とは、債務者が経済的に破綻してしまった場合に全財産を清算して総債権者に公平に分配するための制度です。

破産手続きは一般的には債務者自身が裁判所に申し立てを行って手続きを進めていきます(自己破産)。しかし破産は債権者も申し立てることが認められています(破産法18条1項)。破産手続きはもともと簡単ではありませんが、債権者破産は資料収集が難しいことや自己破産よりも費用がかかるなど債権者にとって負担は小さくありません。また破産は総債権者のための手続きであり申し立てをした債権者が他の債権者に比べて回収に特に有利となるわけではありません。

 

債権者破産のメリット

債権者破産には以下のようなメリットがあります。

 

税務上の損金処理が可能

売掛金も課税対象となるため何もしないと経営上の負担が大きくなってしまいます。破産手続きが行われることで売掛金を回収不能とすることができるため貸倒損失として処理することが可能となります。債務者が自己破産手続きをとってくれることが望ましいわけですが自己破産してくれない場合には債権者破産を検討することができます。

 

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債務者の全財産が回収対象

訴訟を起こして強制執行により債権回収をしていく場合には、事前に財産を調査して差し押さえ対象の財産を絞っていくことになります。しかしめぼしい財産が見つからないケースもあります。破産手続きが開始されると破産管財人が選任されるため全財産に対して調査・管理・換価といった手続きが行われることから、通常の手続きでは判明しにくい財産が見つかることがあります。

 

不正な財産処分を取り消せる

債務者が財産を隠匿することがあります。物理的に隠してしまうだけでなく贈与や二束三文で処分してしまうこともあります。破産管財人はこのような財産減少行為を一定の要件の下で否認して原状に復させることができます(破産法160条以下)。その結果、配当に充てられる財産が増える可能性があります。

※破産手続きを利用しないときには「詐害行為取消権」という手段もあります。詐害行為取消権については、「債権回収における詐害行為取消権とは?要件や行使する際の注意点を解説」をご覧ください。

 

債務者の経営次第で民事再生も可能

債権者破産では事前に債務者の経営や財産状況について正確に把握することは困難です。破産申立てをきっかけとして債務者の経営状況が明らかとなり経営を立て直せる可能性が見えてくることがあります。このようなケースでは民事再生手続きへの切り替えも考えられます。民事再生とは、債務者による返済が難しい場合に債務を減らしたり返済期間を延長したりして経済的な再生をしていく裁判所の手続きです。再生計画を裁判所に認可してもらう必要があります。債権がカットされてしまいますが破産よりも回収金額が多くなる可能性があります。

 

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債権者破産の申立て要件

破産申し立ては誰でもできるわけではなく債務者と「債権者」が申立てできることになっています(破産法18条1項)。債権者破産の申立てをするには、「債権の存在」と「破産手続開始の原因となる事実」(破産原因)を疎明しなければなりません(同条2項)。「疎明」は証明とは異なります。証明とは事実の存否について確信を抱かせる程度に立証することですが、疎明とは一応確からしいと思わせる程度に立証することです。破産原因は「支払不能」(15条1項)と「債務超過」(法人の場合、16条1項)があります。

 

債務者の支払不能の疎明

支払不能とは、支払能力を欠くために弁済期にあるものについて一般的かつ継続的に弁済することができない状態のことです(破産法2条11項)。一時的に返済ができないだけでは足りません。

 

債務者の債務超過の疎明

債務超過とは、資産の合計を負債が上回り完済できない状態のことです(破産法16条1項かっこ書き)。一部人的会社(同条2項)を除く法人の破産原因です。自己破産の場合には資料を集めることは難しくありませんが、債権者破産の場合には債務者の財産状況に関する資料を入手することは簡単ではありません。事前に決算書を入手できていれば重要な疎明資料となります。確定判決書や執行証書(公正証書の一種)などの債務名義を取得できていれば財産開示手続きをとり資産の疎明資料とすることが考えられます。負債については不動産登記事項証明書が資料として考えられます(乙区欄に担保権があれば登記された債権額から負債額をある程度推認できます。)。

 

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債権者破産手続きの流れ

債権者破産手続きの流れは以下のようになります。

 

破産の申立て

破産申立書を作成して管轄の裁判所に提出します。債権者破産の場合には申立権を有する疎明資料として債権者であることを示す資料もいります。支払いを命じた確定判決書や公正証書、契約書、その他売掛金など債権を持っていることを推認させるものです。管轄の裁判所は債務者の住所地(本店所在地)を管轄する地方裁判所です。申立費用も必要となります。

 

債務者・債権者に対する審尋

債権者破産の申し立てを行うと手続きを進めるべきか判断するために債権者と債務者から話を聞く審尋という手続きが行われます。自己破産であれば破産審尋は行われないこともありますが債権者破産の場合には審尋が行われる可能性が高くなっています。債務者が破産を望んでいないことが多いことから争いとなりやすく確実に手続きを進めるためです。

 

保全処分

裁判所は職権や利害関係人の申立てによって債務者の財産が勝手に処分されないように処分禁止の仮処分など必要な保全処分をすることがあります(破産法28条1項等)。

 

破産手続きの開始決定

破産原因が認められ特に問題がなければ破産手続開始決定がなされます(破産法30条1項)。破産管財人が就任して破産手続きが開始されます。債務者から不服申立ての手段として即時抗告がなされることもあります(破産法33条1項、9条)。

 

財産の換価処分

破産手続きは破産管財人により進められ債務者の財産を管理・処分(換価)されます。しかし債権者破産の場合には債務者の協力が得られないため財産の調査、管理、処分といったことが自己破産よりも難しくなるケースが多く手続きに時間がかかりやすくなっています。

 

配当手続き

財産の処分などにより配当原資ができれば債権者への配当手続きが行われます。しかし税金など優先的に支払われる債権者がいることや支払不能や債務超過の状態であることから配当額は多くはなく配当を受けられないこともあります。

 

債権者破産の申立てにかかる費用

債権者破産の申立てには以下のような費用がかかります。

 

費用内訳

金額

申立手数料(収入印紙代)

20,000円

予納金

70万円~

予納郵券

6,000円~

 

予納金は破産管財人の報酬など破産手続きの費用として必要なものです。予納金額は負債総額が大きいほど高額となり5,000万円未満のケースで東京地裁の場合70万円が基準額とされます。しかし事案によって異なり裁判所によっては最低100万円以上とされていることもあります。自己破産手続よりも債権者破産の方が高くなっていますが債権者破産のケースでは債務者の協力が得られず財産の調査や処分などが困難であることが考慮されています。

このほかに弁護士に依頼する場合には弁護士費用も必要となります。

結論として債権者破産は費用倒れの恐れも大きいことから利用は慎重に行う必要があります。訴訟や強制執行など他の手段による債権回収ができないか財産調査を含めて弁護士に相談されることをおすすめします。

 

まとめ

・債権者破産とは、自己破産と異なり債権者から債務者の破産を裁判所に申し立てることです。第三者破産とも呼びます。

・債権者破産のメリットには、税務上の損金処理ができることや不正な財産処分を防ぐことなどがあります。

・債権者破産を申し立てるには、債務者の支払不能や債務超過(法人の場合)の疎明が必要です。

・管轄裁判所に債権者が破産を申し立てることで手続きが行われます。債務者と債権者に対する審尋が行われ破産原因があれば原則として破産手続開始決定がされます。破産管財人が選任され財産の調査、管理、換価が行われ配当原資が確保できれば法律上の順位や債権額に応じて分配されます。

・申立費用は自己破産よりも高額であり申立手数料のほかに予納金が数十万円以上必要となります。

 

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