地上権は一般的にはあまり馴染みのない権利かもしれません。地上権は土地を利用する権利の一種ですが他にも賃借権や地役権というよく似た権利もあり違いがわかりにくくなっています。

この記事では、地上権の基本について賃借権や地役権と比較しながら解説します。

 

地上権とは

地上権とは、他人の所有する土地において工作物や竹木を所有するために、その土地を使用できる物権のことです(民法265条)。「工作物」というのは、建物や鉄塔、トンネル、道路など一切の建造物のことです。「竹木」というのは、杉やヒノキなどの樹木や竹類のことです。物権として稲や野菜など耕作を目的とするときは永小作権(270条)の範囲となります。建物を所有する目的で設定されるときは賃借権と共に借地権と呼ばれます(借地借家法2条1号)。

 

区分地上権

地上権は工作物を所有するために地下や空間にも範囲を指定して設定することができます(民法269条の2)。このように土地の上下の空間に設定する地上権のことを「区分地上権」と呼びます。地下であれば地下鉄を作ったり、地上であれば高架橋を作ったりといった目的で利用されます。通常の地上権であれば土地の全面的な使用が認められてしまいますが、区分地上権であれば所有権や他の地上権との調整がしやすくなり土地を有効に利用することができます。特に都市部では土地の需要が大きく地価が高いことからも区分地上権は土地の効率的運用に重要な役割があります。

 

賃借権との違い

地上権と土地賃借権は似ている部分もありますが以下のような違いがあります。

 

物権と債権

地上権と土地の賃借権は他人が所有する土地を利用する点で共通しています。しかし地上権は「物権」に分類されるのに対して、賃借権は「債権」に分類されます。物権とは、特定の物を直接支配する権利のことです。つまり地上権は設定した目的の範囲内で他人の行為を必要とせず直接土地を使用、収益することが可能となります。物を直接支配する権利のためすべての人に対して主張できる権利でもあります。

これに対して債権とは、特定の人に対して一定の行為を要求することができる権利です。つまり賃借権は物の利用のために設定者である所有権者等の協力が不可欠なものです。また、特定の人に対して一定の行為を要求できる権利にすぎないため原則として貸主に対してしか権利を主張することができません。

物権と債権との違いについて詳しくは、「物権とは?債権との違いを分かりやすく解説」をご覧ください。

 

登記手続請求権

物権は誰に対しても主張できる権利であり第三者にも対抗できることが重要です。ただし不動産に関する権利を第三者に対抗するためには「登記」が必要です(民法177条)。地上権者はその権利を物権として正当に行使できるように設定者に対して登記手続をするように請求することができます。一方で賃借権の場合には土地の利用を請求できる権利にすぎないため賃借人は特約がなければ賃貸人に対して登記手続を求めることができません。特約があれば登記して対抗要件を備えることができます(605条)。

 

権利の譲渡・処分

地上権は物に対する直接的な権利のため所有権者の許可を得なくても地上権や建物を誰かに譲渡したり、賃貸したり、抵当権などの担保権を設定したりすることができます。賃借権の場合には目的の範囲で物の利用を請求できる権利にすぎないため、賃貸人の許可無く賃借権の譲渡(賃借土地上の建物の譲渡)や賃借物を更に貸し出すこと(転貸)はできません(民法612条1項)。

 

地代・賃借料の支払い義務

地上権による土地の使用の対価を「地代」といいますが、地代は地上権の要素とはされておらず無償で設定することも可能です。これに対して賃借権の場合には賃借料の支払い義務があることは賃貸借契約の要素であり無償の賃借権は設定できません(民法601条)。無償とする場合には使用貸借契約(593条)となり借主の権利が弱くなります。

 

修繕義務

地上権は土地を直接使用収益するための権利であることから特約がなければ土地所有者は修繕義務を負いません。これに対して賃借権の場合、賃貸人は原則として賃借人が使用・収益するのに必要な修繕義務を負います(民法606条)。

 

建物所有目的の場合

民法上は物権である地上権の方が強力であり地主にとっては賃借権の方が利用しやすくなっています。しかし賃借人の保護が十分ではないことから建物所有を目的とした賃借権については特別法によって保護されています。現在は建物所有目的の地上権と賃借権は借地借家法(平成4年8月1日施行)により共に借地権(同法2条1号)として強く保護されています。例えば、借地権の登記がなくても土地上に登記されている建物を借地権者が所有していれば第三者に対抗することができます(10条1項)。賃借権の譲渡、転貸における設定者の承諾に代わる裁判所の許可制度もあります(19条1項)。

 

地役権との違い

地役権とは、ある土地の利便性を高めるために他人の土地を利用する権利のことです(民法280条)。例えば、他人の土地を通行する権利を自分の土地の便益のために設定する通行地役権、電気事業者が自社の電力施設用地のために送電線を通す電線路敷設地役権、自分の土地に水を通すために送水管などを設置する引水地役権などがあります。地役権は自分の土地の使用価値を高める目的で設定される点で、それとは無関係に設定可能な地上権とは異なります。また地上権は一筆の土地の一部を対象に登記することができませんが、地役権は一筆の土地の一部に設定して登記することができます。

 

地上権のメリット・デメリット(土地所有者側)

地上権のメリットとデメリットは土地所有者側と土地を利用する側に分けて考える必要があります。

土地所有者側にとってのメリットとデメリットには以下のようなものが考えられます。

 

メリット

地上権を設定するメリットとしては以下のようなものがあります。

 

・継続して地代収入が得られる

・土地の有効活用ができる

 

地上権は無償で設定することもできますが多くのケースで地代が支払われています。特に建物使用目的の地上権の場合には長期にわたり継続して地代収入が得られるメリットがあります。

区分地上権の場合には所有者による土地使用と両立可能であるため土地の経済的な価値を最大限に活用することが可能となります。

 

デメリット

地上権を設定するデメリットとしては以下のようなものがあります。

 

・地上権者の自由度が高く制限するのが難しい

・譲渡等に伴う承諾料が得られない

 

地上権は設定目的の範囲内で土地を直接使用収益できる物権であるため、地上権者は建物の譲渡や転貸などが自由にできるため地主にとって気に入らない人に自分の土地を使われるリスクがあります。賃借権であれば勝手に譲渡や転貸等の行為をすることができません。賃貸人の承諾が必要な場合には承諾料が支払われることが多くありますが地上権の場合にはその収入もないことになります。

 

地上権のメリット・デメリット(利用者側)

土地を利用する側にとっての地上権のメリットとデメリットには以下のようなものが考えられます。

 

メリット

地上権を利用するメリットには以下のようなものがあります。

 

・地上権者の自由度が高い

・建物の譲渡などの際に承諾料が必要ない

・抵当権を設定することができる

・固定資産税の負担が原則ない

・地下や空間を安く利用できる可能性

 

地上権は物権であることから設定目的の範囲で比較的自由に土地を使用することができます。建物の譲渡や賃貸の際に土地所有者の許可が不要でありそこにかかる承諾料もかからないことになります。地上権は抵当権の対象となることから融資を受ける際の担保となります。固定資産税の納税義務者は所有者であり原則として直接負担しません(地方税法343条1項。100年より永い期間の地上権については地上権者が義務者です(同括弧書き)。)。固定資産税については地代に考慮されるからです。

区分地上権であれば土地そのものを購入するよりもコストを抑えて目的を達成できる可能性があります。

 

デメリット

地上権を利用する場合のデメリットには以下のようなものがあります。

 

・地代の支払い義務がある

・地上権の設定自体がまれである

 

所有権を取得した場合にはローンで購入した場合の返済義務はともかく、地代としての支払い義務はありません。しかし地上権はあくまで他人の土地の利用権にすぎず通常は地代の支払い義務が長く続きます。また地上権自体が強力な権利であることから普通は賃借権が利用されており通常の地上権はあまり利用されていません。

 

<関連記事>立ち退き料の相場はいくら?ケース別に分かりやすく解説

 

まとめ

地上権とは、他人の所有する土地で工作物や竹木を所有できる物権です。建物所有目的の地上権は賃借権とともに借地権と呼ばれます。

・地上権は工作物を所有する目的で空間や地下の一定範囲に設定することもできます(区分地上権)。

・地上権と賃借権の違いは物権と債権の違いにあります。建物を処分する際の地主の承諾や対抗要件の有無などに影響します。建物所有目的の場合には賃借権と地上権は共に借地権として強く保護されます。

 

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※記事の内容は執筆された当時の法令等に基づいております。借地権はケースによっては古い法律が適用されることがあります。細心の注意を払っておりますが内容について保証するものではありません。お困りのことがあれば弁護士に直接ご相談ください。