質権は抵当権とともによく知られている担保権です。抵当権は登記が必要なため主に不動産に設定されますが質権の場合にはもっと広い財産を担保にすることができます。

この記事では、質権とは何かを抵当権の違いなどを含めて解説します。

 

質権とは

質権とは、債権を担保するために債務者や第三者から財産を預かり、弁済がないときにはその財産から優先して弁済を受けられる担保権です(民法342条)。担保権というのは債務不履行(約束違反)があったときに担保として提供された財産の売却代金などから優先して債権回収できる仕組みです。担保権は抵当権など他の種類もあるので状況に合わせて適切なものを選択します。質権は財産を預かって支配下に置く(占有する)点に特徴のある担保権です。担保権の設定者(所有者)は目的物を使用できなくなるため心理的なプレッシャーが掛かることから間接的に弁済を強制する効力もあります(留置的効力)。一方で質権者は預かった質物を適切に保管する義務を負うことになります。質権は譲渡できないもの(麻薬や扶養請求権など)に設定することはできません(民法343条、362条2項)。換価して債権を回収できないからです。

 

質権の種類

質権はさまざまな財産を対象に設定することができます。質権は対象となる財産によって内容が異なります。

 

不動産質

土地や建物を対象に設定する質権のことを不動産質といいます。不動産質権も目的物の引渡しにより効力が生じます(民法344条)。物権は第三者にその権利を対抗するためには対抗要件を備える必要があり、不動産の場合には登記が対抗要件となります(177条)。不動産質の対抗要件も登記ということになります。不動産質権者は預かった不動産の用法に従って使用・収益することができます(356条)。動産質や権利質と異なり存続期間が10年までと規定されています(360条1項)。更新可能ですが更新時から10年を超えることはできません(2項)。長期間所有者以外の者に使用・管理させると不動産価値の減少を招きやすいからです。

 

動産質

動産を対象に設定する質権のことを動産質といいます。動産というのは、民法上は不動産以外の物のことです(民法86条2項)。ただし、自動車や登記した船舶、製造中の船舶、航空機など特別法によって質権の設定が禁止されているものがあります。動産質も目的物の引渡しがなければ効力が生じません(344条)。動産質権の第三者対抗要件は質物の継続占有です(352条)。

 

権利質

財産権を対象に設定する質権のことを権利質といいます(民法362条1項)。具体的には債権、株式、知的財産権などです。効力要件や対抗要件は具体的な財産権によって異なります。債権を目的に設定する質権のことを債権質といいますが債権質は合意により効力が生じます。対抗要件については債権譲渡の規定(民法467条)に従い、第三債務者に対抗するには質権設定の通知または第三債務者の承諾が必要であり、その他の第三者に対抗するには確定日付のある証書によることになります。債権質権者は質に取った債権を直接取り立てることができます(366条1項)。

記名式所持人払証券や無記名証券に質権を設定する場合には証券の交付により効力が生じます(民法520条の17、13)。記名式所持人払証券とは、証券上債権者が指名されているが所持人に弁済すべき旨も付記されているものです(520条の13)。記名式持参人払小切手がこれに当たります。無記名証券は商品券や乗車券などです。

 

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抵当権との違い

抵当権も契約によって生じる担保権として質権と共通しています。しかし質権が目的財産の占有の移転が必要であるのに対し、抵当権では占有の移転が不要である点で本質的に異なります。質権では占有を設定者から質権者に移転させるため設定者が目的物を利用し続けたい場合には利用することができません。一方で抵当権は登記による公示が対抗要件とされるため登記できない財産に設定できないのに対して、質権の場合には財産の引渡しを要素とするためより広範な財産を担保にすることができます。不動産は抵当権と質権ともに担保とすることができますが質権は使用収益権があることやその関係で存続期間に制限があることにも違いがあります。

 

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質権が消滅するケース

質権が消滅するのは担保権に共通した理由によるものとその他のものがあります。

 

被担保債権の弁済

質権は債権を担保するための権利であるため債務が弁済されると質権も消滅します。このような主たる権利と運命を共にする担保権の性質を「付従性」といいます。

 

目的物の滅失・混同

質権の目的物が滅失すれば原則として質権も消滅します。ただし質権には物上代位が認められるため(民法350条、304条)、経済的に代替するもの(保険金請求権等)に対しても一定の要件を満たせば行使可能です。また質権者が質物を譲り受けたような場合には権利が同一人に帰属するため物権混同により質権は消滅します(179条1項本文)。ただし質物または質権が第三者の権利の目的となっているときには消滅しません(同項ただし書)。

 

質権の放棄

質権者が質権を放棄したときにも質権は消滅します。

 

質権消滅請求(設定者)

質権者は善良な管理者の注意を持って質物を保管する義務があります(民法350条、298条1項)。また質権者は設定者の承諾がなければ質物を利用することが原則できません(350条、298条2項本文。保存に必要な場合(同項但書)や不動産質除く(356条)。)。これらの義務に違反したときには設定者は質権の消滅を請求可能です(350条、298条3項)。

 

質権消滅請求(不動産質)

質権の設定された不動産を取得した第三者は自ら指定した金額を質権者に提供して質権の消滅を請求することができます(民法361条、379条)。消滅請求は所定事項を記載した書面によって行い(383条)、一定期間内に質権が実行されないときは承諾したことになります(384条)。もっとも主たる債務者、保証人とそれらの承継人は消滅請求することができません(380条)。

 

代価弁済(不動産質)

質権の設定された不動産について所有権や地上権を買い受けた第三者が、質権者から代価の請求を受けて弁済した場合、その第三者のために質権は消滅します(民法361条、378条)。

 

存続期間の経過

不動産質権には存続期間があり存続期間の経過により消滅します(民法360条)。

 

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質権設定の手続き・流れ

質権設定の流れは以下のようなものです。

 

質権設定手続き

質権を設定する場合には質権設定契約書を作成することが基本です。登記手続をする際に必要なものであり、どの債権をどのような条件で担保しているのかを明確にする必要があるからです。

質権は第三者対抗要件を具備することも重要です。不動産質であれば登記申請手続が必要となります。管轄の法務局に対して以下のような書類を用意して手続きをとることになります。

・登記原因証明情報(質権設定契約書)

・不動産所有者の印鑑証明書(交付から3ヶ月以内)

・登記義務者の登記識別情報(登記済証)

など

 

登記をするには登録免許税が必要であり不動産質では債権金額に1000分の4を乗じた金額が必要です。

債権質であれば第三債務者に対する対抗要件はその者への通知またはその者の承諾であり、それ以外の第三者への対抗要件は通知または承諾を確定日付のある証書(内容証明郵便等)によって行います。債権質については法人の金銭債権に限りますが登記による方法もあります(動産及び債権の譲渡の対抗要件に関する民法の特例等に関する法律14条、4条1項)。動産質については質物の継続占有が対抗要件です(352条)。

 

質権の実行

不動産質であれば裁判所に登記事項証明書等を提出して担保不動産競売等の申立てを行い競売代価等から回収します。

動産質であれば執行官に質物を提出して動産競売の申立を行うのが原則とされます。しかし正当な理由がある場合には鑑定人の評価に従って質物を弁済として取得できるように裁判所に請求することができます(民法354条前段、非訟事件手続法93条)。質流れは原則として禁止されています(民法349条)。ただし、商行為によって生じた債権を担保する場合や営業質屋については例外的に認められています(商法515条、質屋営業法18条)。債権質については直接第三債務者から取り立てます(民法366条)。

 

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まとめ

質権とは、担保のために債務者などから受け取った財産を債務の弁済があるまで留置して、弁済がないときにはその財産から優先弁済を受ける担保権です。

・質権には、動産質、不動産質、権利質があります。

・抵当権は不動産質と似ていますが占有の有無や存続期間の有無などに違いがあります。

・質権の実行方法は対象となっている財産によって異なります。

 

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