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取引先が経営に行き詰まり倒産してしまうことがあります。倒産手続きの代表例は破産ですが再起を図るために民事再生手続きを利用することもあります。民事再生されると債権者は大きな影響を受けることになります。
この記事では、民事再生手続きが開始された場合の債権回収方法について解説していきます。
民事再生とは
民事再生手続きは返済が困難な状況にある場合に債務を大幅に減らしたり返済期間を伸ばしたりすることで破産せずに経済的再生を目指すものです。裁判所に再生計画を認可してもらい計画に従って返済していくことになります。
債権者の立場から見れば破産よりも回収できる金額が多くなりやすいというメリットがあります。ただし債権額が大きく減ることに加え返済完了が何年も先になるため経営に支障をきたすこともあります。
裁判所を利用した強制力のある手続きであることから対応は慎重にする必要があります。対応を誤ると回収の機会を逃すことにもなります。
民事再生された売掛金はどうなる
民事再生手続きが行われると債権の回収に大幅な制限がかかります。特に以下の点に注意が必要です。
弁済の禁止
民事再生が申し立てられると手続開始決定の前に裁判所が弁済を禁止する保全処分をすることが大半です(民事再生法30条1項)。これにより弁済が基本的にストップすることになります。民事再生と無関係に弁済されると手続きに支障が出るからです。
不正のないように普通は監督委員(弁護士)も選任されます。破産手続と異なり民事再生では原則として債務者が引き続き業務執行や再生手続を担うため監督委員が置かれるのです。監督委員の同意がなければできない行為なども指定されます。
債権額が減額される(権利の変更)
民事再生手続きでは債権額が大幅に減額されることになります。
もっとも民事再生では「清算価値保障原則」というものがあります。破産手続きで財産を清算したときよりも返済額を多くする必要があるということです。破産よりも配当額が少ない再生計画は不認可となります。そのため破産手続きよりも配当額が多くなることが期待できます。ただし、再生計画がうまくいかず結果として民事再生の方が少なくなることはあります。
再生債権の弁済制限
再生債権とは、民事再生手続き開始前の原因に基づいて生じた債権のことです。債権者は原則として再生手続によらなければ弁済を受けられません。債権回収に時間がかかることになります。
ただし例外があり、裁判所の許可を受けることで適宜弁済を受けられることになっています。具体的には中小企業が返済を受けられないと事業継続ができなくなるようなときに認めてもらえることがあります。また少額の債権であるときにも許可をもらえることがあります(具体的な許可の可否は裁判所の運用やケースによって異なります。)。
対策1:再生計画に従った弁済を受ける
民事再生手続きが行われると原則として再生計画に従って弁済を受けることになります。
債権届出
民事再生の決定通知書が届いたら同封された届出書を利用して指定の期間内に債権を届け出る必要があります。これを怠ると権利がなくなることがあります。
再生計画案の決議(債権者集会)
民事再生をするには一定の債権者の同意が必要となります。債権者集会において、議決権者の過半数であり、かつ、議決権者の議決権の総額の2分の1以上の議決権を有する者の同意が必要です。議決権者というのは集会出席債権者(書面投票者含む。)のことであり、頭数だけでなく債権額も要件となっています。
債権者集会で可決されれば裁判所の最終的な認可により再生計画に基づいた返済がなされていくことになります。
手続が開始される前の原因により取得した債権(再生債権)は認可された計画どおりにしか原則として返済してもらえません。
対策2:再生計画外での回収
弁済は民事再生計画に沿って行われるのが基本ですがいくつか例外的な方法もあります。計画どおりに返済されるのを待っていたのではとても時間がかかってしまいますし回収金額が大きく減ってしまいます。そのため再生計画外での回収方法も検討します。
別除権行使
ある程度まとまった債務がある場合や継続的な取引がある場合には支払いが滞ったときに備えてあらかじめ担保をとることがあります。
例えば根抵当権を債務者や第三者(物上保証人)の不動産に設定しておけばそこから回収することができます。
民事再生が行われているときにも担保権の実行は可能であり「別除権」と呼ばれます。
動産売買先取特権
あらかじめ担保をとっていなかったとしても法律上の規定により生じる担保権もあります。
特に使い勝手のいいものとして動産売買の先取特権があります。これは取引先に商品を売却した場合に代金の支払いがないときにはその商品や転売代金から優先弁済を受けられる権利です。
例えば、AがBに商品甲を売却したが代金の支払いが滞った場合に、Bが商品甲をCに転売していたときにはAはBのCに対する売買代金請求権を差し押さえることができます。
ここで注意すべきなのはCの支払いがなされる前でなければならない点です。
<関連記事>担保による売掛金回収の方法を徹底解説
保証人
連帯保証人となっている人がいる場合にはその人から回収することも検討します。
よくある誤解として破産や再生手続がなされると保証人にもその効果が及び免責されてしまうのではないかというものがあります。しかし債務者の支払いが滞った場合に備えて保証契約を結んでいる以上破産や民事再生が行われたとしても保証人自身の債務には影響がありません。保証人自身の債務を軽減するためにはその人自身が破産などをしなければならないのです。
したがって民事再生が行なわれていてもそれとは関係なく保証人から回収することも可能です。
相殺
自社も取引先の商品やサービスを利用していることがあります。このような場合に代金の支払いをまだしていないのであればその状況を利用して回収する方法もあります。
自らの売掛金債権と相手方の売掛金債権を相殺してしまうのです。これにより事実上優先弁済を受けたのと同じ状態となります。
気をつけるべきことは債権届出期間が満了するまでにしなければならない点です。そのため民事再生通知が来たときには未払いの債務がないか速やかに調査しもし見つかった場合にはすぐに行使することが必要です。相殺を行なった証拠がいるため配達証明付き内容証明郵便で行います。
<関連記事>自働債権と受働債権とは?相殺について分かりやすく解説
共益債権
共益債権とは、関係者の共同の利益になるものとして随時弁済を受けられる債権のことです(民事再生法121条1項)。
民事再生の申立てから開始決定がなされるまでにはそれなりの期間を要します。民事再生は債務者の経済的な立て直しが目的であるため企業であればこれまでと同じように事業を続けていかなければなりません。そのためには商品を作るために原材料を仕入れたり運転資金を借り入れたりすることが必要です。ですが再生計画に従ってしか返済してもらえないのであれば誰も民事再生の申立てをした企業と取引をしたいとは思わないはずです。そこで裁判所や監督委員が許可したこのような取引に係る債権は共益債権となります(同120条)。共益債権は再生債権に優先して弁済を受けられます(同121条2項)。
再生手続開始後に業務上の取引をした場合の債権についても共益債権となるため民事再生手続によらず請求することができます(同119条2号)。
訴訟
一般的に債務者が支払いを滞らせたときには最終的に訴訟を行い、債務名義を得て強制執行をすることになります。しかし再生手続開始決定等があると訴訟は中断されてしまうため(民事再生法40条1項)、破産や再生手続の準備をしている可能性があるときには気をつける必要があります。せっかく費用をかけても無駄になりかねないからです。そのため相手方の資金繰りが悪化している兆候があればどのような対応をとるべきか早めに弁護士に相談することが大切です。
<関連記事>取引先が倒産・破産した場合の対応は?回収不能を防ぐための事前準備と対応を弁護士が解説
まとめ
・民事再生により原則として債権額が大きく減らされ返済も猶予されてしまいます。
・手続を進めるには債権者集会で再建案が承認され裁判所が認可する必要があります。否決されると破産する可能性が高くなります。
・債権届出を行わないと回収が難しくなり集会での議決権も失います。
・担保権があれば再生手続によらずに回収することができます。保証人がいればその人から回収することもできます。
・自社も取引先に金銭債務を負っているときには相殺ができます。ただし期間制限があります。
・事業継続に支障があったり少額の債権であったりするときには裁判所の許可を受けて弁済を受けられることがあります。
・再生手続開始後の取引債権など他の債権者にも有益な費用については随時弁済を受けることができます。
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