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債権回収のために相手の財産を差し押さえることがあります。差し押さえできる財産にはいろいろなものがありますが給料もその一つです。高価な財産がない場合であっても債権回収の可能性があります。ただし給料の差し押さえは他の財産と異なる特徴があります。
この記事では、給料差し押さえの特徴や差し押さえの方法について解説していきます。
※給料を差し押さえられて困っている方はこちらの記事をご参照ください。
給料差押えとは
個人に対して売掛金や貸付金、養育費請求権などの金銭債権がある場合に、相手が支払いに応じないときに勤務先に対する給料から強制的に債権を回収する方法です。
裁判所を利用して強制的に権利を実現する手続きを強制執行といいます。差し押さえは相手の財産の処分を制限する手続きのことで強制執行の一部として行われます。
差し押さえの対象は給料だけでなく不動産や自動車、預金などがあります。給料の差し押さえは未払いが解消されるまで継続するという特徴があります。預金に差し押さえをしても一時的なため差し押さえ時に十分な預金がないときには別の財産を見つける必要があります。継続的に発生する養育費については給料差し押さえが特に有効な債権回収方法となります。ただし給料への差し押さえについては一定の金額までしか差し押さえできないという制限があります。
債務者は雇用主に対して給料債権を持っているため雇用主は第三債務者(債務者の債務者)ということになります。給料を差し押さえると債権者が雇用主から支払いを(一部)受けることになります。
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給料差押えの対象
月給のほかにボーナスや退職金も給料差し押さえの対象となります。ただし給料の全額を差し押さえることはできません。債務者にも生活があるからです。給料の差し押さえが許される金額は原則として税金や社会保険料等を除いた手取りの4分の1までです。例外的に手取りが44万円を超えるときは33万円を超える部分を全額差し押さえできます(民事執行法152条1項、同法施行令2条)。ボーナスも同様ですが退職金については33万円の適用はありません(民事執行法152条2項)。
これはあくまで原則であり差し押さえ範囲の拡張が認められることもあります(同法153条)。
養育費等の例外
養育費や扶養義務などの債権については給料の2分の1まで差し押さえが認められています。一方で退職金の中には差し押さえができないものもあります(中小企業退職金共済法等)。
給料差押えの方法と手順
給料差し押さえは債権執行として行われます。債権執行は以下のような流れで実施されます。給料差し押さえには前提として債務名義が必要です。
債務名義については、「債務名義とは? 取得方法と債権回収までの流れを分かりやすく解説」をご覧ください。
債権差押えの申立て
給料差し押さえをするには債務者の住所地を管轄している地方裁判所で手続きをとります。必要書類については裁判所や事案により異なることがありますが以下のような書類が必要です。
・債権差押命令申立書(当事者目録、請求債権目録、差押債権目録) ・債務名義の正本(執行文が付与されたものなど執行力があるもの) ・債務名義の送達証明書 ・法人の場合資格証明書 ・収入印紙(手数料4,000円分) |
当事者目録に第三債務者として勤務先を記載する必要があります。
※勤務先がわからない場合には財産開示手続(情報取得手続)によって調査できることがあります。
差押命令
申し立てに問題がなければ給料差し押さえ命令が出され債務者と勤務先に送付されます。勤務先は陳述書を返送することになります。陳述書には本当に勤務しているのか、給料がいくらなのかなどが記載されます。給料差し押さえは第三債務者に送達された時に効力が生じます。送達が完了するといつ勤務先と債務者に送達したかを記載した送達通知書が送られてきます。
取り立て・配当
金銭債権を差し押さえると債権者は第三債務者から直接取り立てることができます。送達通知書に記載された債務者に対する送達日から4週間または1週間経過すると取り立てできます。給料差し押さえについては原則4週間とされています(養育費など扶養関係については1週間)。勤務先に連絡して振り込みなどの対応をしてもらいます。
ほかにも給料差し押さえをしている債権者がいる場合に勤務先が法務局に給料を預けることがあります(供託)。供託されているときには取り立てできないため裁判所から配当してもらいます。
取立(完了)届の提出
給料の差し押さえに成功して取り立てができたときには毎回裁判所に取り立て届を提出します。債権全額の回収ができたときには完了届を提出します。
給料差押えを回避されてしまうケース
給料の差し押さえをすると継続的に取り立てることが可能となりますが以下のような事情があると差し押さえがうまくいかないことがあります。
相手が頻繁に職を変えている
給料の差し押さえは勤務先を第三債務者として手続きをしています。勤務先が変更になれば第三債務者も変わるため新たに差し押さえをする必要があります。
債務者が破産を申請
管財事件の場合、破産手続き開始決定があると給料差し押さえはできず、すでになされたものについても効力がなくなります(破産法42条1項、2項)。
同時廃止の場合にも給料差し押さえができず、すでになされたものについても中止され免責が確定すると失効します(同法249条1項、2項)。
ただし、養育費など非免責債権については免責されないため改めて給料を差し押さえることは可能です。
個人再生手続きが行われた場合
自己破産以外にも債務整理の方法として個人再生手続きというものがあります。個人再生手続きの開始決定があったときにも給料差し押さえが中止され(再生債権、民事再生法39条1項)、再生計画認可決定の確定により失効します(同法184条)。
再生手続が行われると3~5年かけて再生計画で定められた金額を債権者に支払うことになります。
滞納養育費など一部の債権については減免されませんが(非減免債権)、再生期間中は計画で定められた金額しか支払ってもらえません。弁済期間満了時に残額を支払ってもらうことになります。
個人再生手続開始後に生じる養育費は共益債権(同法119条2号、7号)となり再生手続とは関係なく支払ってもらえ給料差し押さえも可能です。ただし再生に著しい支障がありほかに換価の容易な財産があるときは取り消されることがあります(同法121条3項)。
給料差押えを弁護士に依頼すべき理由
給料の差し押さえを弁護士に相談・依頼するメリットには次のようなものがあります。
相手方に心理的プレッシャーを与えることができる
給料差し押さえの目的は債権の回収にあります。給料の差し押さえをするには訴訟等の法的な手続きが必要になります。法的な手続きは時間や費用が掛かるため交渉によって回収できるほうが望ましいといえます。
弁護士に債権回収を依頼することで相手方との交渉を任せることができるため相手に心理的なプレッシャーをかけることができます。弁護士が間に入ることで話し合いや支払いに応じてもらえることがあります。弁護士からの請求を無視してしまうと法的な手続きをとられるかもしれないという実感がわきやすくなるからです。
書類作成や手続きの負担が減る
給料差し押さえのためには裁判所に提出する書類の作成が必要です。専門的な書類が多いため用意するのに時間や手間がかかります。裁判所での手続きも簡単とは言えません。弁護士に依頼することで専門的な手続きを任せることができます。
回収の可能性が高まる
債権の回収は簡単なことではありません。特に給料差し押さえなどの法的な手続きについては一般の方にはなじみが薄いため難易度が高いといえます。法的な手続きをせずに済むのであればそれに越したことはありませんが、相手の資産状況などから早めに仮差押え等の法的な手続きに着手した方がいいケースもあります。具体的な状況により最適な債権回収方法が変わります。専門の弁護士であればケースに合わせて柔軟に債権回収方法を選ぶができます。給料差し押さえが適切と判断すればそれを実施し、それ以外の方法が適切と判断すれば別の債権回収方法を選択することができます。
まとめ
・給料差し押さえとは、相手の給料を差し押さえて債権者が代わりに受け取ることで債権を回収する方法です。差し押さえると基本的に債権全額を回収するまで差し押さえの効果が継続します。これに対し預金などの通常の債権については継続した効果はありません。
・給料差し押さえのデメリットとして差し押さえできる金額に制限があります。
・債務者が勤務先を変えると手続きをやり直す必要があります。
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