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慰謝料請求は求める側にとっても負担が大きいものです。勇気を出して慰謝料を請求したのに相手が自己破産してしまうことがあります。自己破産されると慰謝料の種類によっては回収が難しくなります。
この記事では慰謝料の相手方が自己破産した場合について解説します。
※債務の返済ができずお困りの方はこちらの記事もご参照ください。
慰謝料の回収方法
慰謝料は以下のような流れで回収していきます。
督促をする
慰謝料は相手の加害行為によって被った精神的損害に対する賠償金です。そのため慰謝料の支払いを相手が約束していないのであれば慰謝料の支払いをこちらから求めていく必要があります。慰謝料の支払いを約束しているのに約束の日を過ぎても支払ってくれない場合にも督促していくことが必要です。
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強制執行
相手が自分から慰謝料を支払うつもりがないケースでは法的な手続きにより強制的に回収していくことになります。具体的には裁判所に強制執行を申し立てることで相手方の財産を差し押さえて競売などにより処分換価して配当を受けることになります。差し押さえ財産としては不動産などの物ではなく預金や給料などの金銭債権も対象となります。その場合には競売を行う必要がなく直接銀行や勤め先などから支払いを受けることができます。
強制執行をするには事前に「債務名義」というものを取得しておく必要があります。詳しくは後述します。
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請求相手が自己破産した場合
自己破産すると通常は借金などの支払い義務が「免責」されます。
慰謝料も原則として免責される
不倫などにより精神的な損害を受けた場合には慰謝料請求権が発生します。相手が慰謝料の支払いを約束して公正証書など書面にしてあれば慰謝料の発生が確かなものとなります。調停や裁判で慰謝料が明確になっていることもあります。
ところが相手が支払い不能であるとして自己破産してしまうことがあります。ほかに借金を抱えているときや慰謝料が高額な場合には自己破産してしまうことがあるのです。
自己破産手続きが開始されて裁判所から「免責」決定というものが出されると、破産した人は原則としてお金を支払う義務(債務)を免れます。
免責されると借金やサービスの利用代金などお金を支払う責任が原則として免除してもらえるのです。そのため慰謝料も原則として免責により支払い責任が免除されることになります。
自己破産しても慰謝料請求できる可能性
自己破産しても必ず免責されるわけではありません。破産者に一定の事情があるときには原則として免責されないことになっています(免責不許可事由)。免責不許可事由はいろいろありますが、「財産を隠した」、「ギャンブルにより借金を作った」などが規定されています。ただし、免責不許可事由に該当しても必ず免責されないわけではなく、実際には裁判所の判断で免責されることも多くなっています。
免責決定が出されたとしても一部の債権(慰謝料などを請求できる権利)については免責されずに支払い義務が残ります。このような自己破産における例外となる債権は「非免責債権」と呼ばれ法律で規定されています(破産法253条1項)。非免責債権には租税(税金)などがありますが、慰謝料に関係するものとしては以下のものが挙げられます。
・破産者が悪意で加えた不法行為に基づく損害賠償請求権 ・破産者が故意または重大な過失により加えた人の生命または身体を害する不法行為に基づく損害賠償請求権 |
慰謝料発生の原因が加害者による悪意に基づくものや、故意またはそれと同視できる過失により生命や肉体を害したことに起因するのであれば、相手が自己破産したとしても慰謝料を請求できることになります
例えば、交通事故や犯罪被害により大けがをして後遺症が残ったような場合には自己破産をされたとしても慰謝料を回収できる可能性があります。
これに対して不貞行為が原因の場合の慰謝料は自己破産されてしまうと請求が難しくなります。不倫・浮気だけでは生命や身体を害することにはならないからです。悪意で加えた損害と言えれば請求できることになりますがハードルは高いと言えます。詳しくは後述します。
慰謝料ではありませんが離婚に関係する養育費や婚姻費用についても非免責債権とされています。そのためこれらの費用については相手が自己破産したとしても請求可能であり必要に応じて法的な手続きにより強制的に回収していくことも可能です。
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慰謝料が自己破産で免責されないケース
自己破産されて免責決定がされてしまうと原則として慰謝料も免責され支払い責任がなくなります。しかし非免責債権に当たるケースであれば慰謝料の支払い責任は免れません。以下では慰謝料に関係する非免責債権について詳しく解説していきます。
悪意ある不法行為の場合
慰謝料発生の原因である不法行為が加害者による悪意に基づく場合には免責されません。ここでいう「悪意」とは何かが問題となります。この「悪意」は一般的な不法行為の要件である「故意」よりも悪質な、「積極的な害意」とされています。つまり積極的に危害を加えようとする意欲が必要です。
この要件に当てはまるケースとしては詐欺や横領、窃盗などの犯罪行為に対する損害賠償請求権が考えられます。
一方で不倫の場合の慰謝料については認められにくいといえます。このような不貞行為は、通常は配偶者に対して積極的に危害を加えようとして行われるものではないからです。不貞行為が長年行われていたなどの事情があったとしても直ちに「悪意」があったとはいえません。
したがって、不貞行為による慰謝料については自己破産されてしまうと回収が難しくなります。
生命・身体への故意/重過失の場合
人の生命や身体を害する不法行為について生じた損賠賠償請求権について、破産者に故意や重大な過失があったときには非免責債権となります。このケースでは「悪意」は要件となっていません。
例えば、傷害事件によって後遺症が残る重傷を負ったようなケースでは、加害者が自己破産したとしても免責対象外であるため慰謝料を支払う責任は消えません。交通事故のような故意のないケースであっても重大な過失が認められれば免責対象外となります。
離婚に伴う慰謝料のケースであればドメスティック・バイオレンス(DV)がこの要件に該当する可能性があります。
債権者一覧表に記載しなかった場合
自己破産を申し立てる際に破産者は債権者一覧表を作り提出します。その際、一部の債権者を除外するために債権者一覧表に記載しないことがあります。このような場合にはその債権者は免責対象外となり慰謝料を請求していくことができます。その債権者は自己破産について意見を言う機会がなかったからです。そのため債権者が自己破産手続きの開始を知っていたときには保護されません。
意図的に債権者名簿に記載しなかった場合だけでなく単純ミスで記載しなかった場合も同様です。
請求相手が自己破産した場合の対処法
慰謝料請求権を持っていても相手が自己破産した場合には基本的に破産手続きの中で配当を受けることになります。しかし財産が不十分であるため別の方法による回収も考えることになります。
債務名義があるとき
相手の財産を差し押さえるためには判決書等の強制執行の許可書が必要です。この許可書のことを「債務名義」といいます。判決書以外にも「執行証書(執行認諾文言付き公正証書)」、「調停調書」、「家事審判書」などがあります。
このような債務名義を持っている場合には裁判所に申し立てをして預金や給料、不動産など相手の財産を差し押さえて強制的に回収していくことができます。
もっとも相手は自己破産をしているため慰謝料は免責されているとして争ってくる可能性があります。その場合には請求異議訴訟が提起され強制執行が停止されることがあります(民事執行法36条1項)。訴訟の中で非免責債権に当たるか否かが争われることになります。
債務名義について詳しくは、「債務名義とは? 取得方法と債権回収までの流れを分かりやすく解説」をご覧ください。
債務名義がないとき
債務名義をもっていない場合には慰謝料の支払いを求めて訴えを起こす必要があります。その訴訟の中で「悪意」に基づく不法行為であるかなど非免責債権に当たるか否かが争われることになります。
支払いを求めている慰謝料請求権が非免責債権に当たると判断されれば判決書をもとに強制執行を検討することになります。
もっとも相手は自己破産しているためめぼしい財産がない可能性もあります。
※自己破産のケースでは破産債権者表も債務名義となりうるため非免責債権については訴訟をしなくても執行文の付与を受けて強制執行できる可能性があります。
話し合い
慰謝料が自己破産の免責対象となる場合でも話し合いによって支払いに応じてもらえる可能性はあります。非免責債権に当たるかは最終的に裁判所で判断されますが、法的な手続きで争うことは相手にとっても時間や労力、費用がかかります。「免責」は支払いをしてはいけないという意味ではないので、自己破産手続き終了後であれば相手の自由意思により支払ってもらえる可能性があるのです。
まとめ
・慰謝料を請求しても支払いに応じてくれないときには訴訟などの法的手続きを検討します。
・自己破産すると慰謝料の支払い責任も基本的に免責されます。しかし免責不許可事由があると免責されないことがあります。
・免責決定があっても一部の債権は支払い責任が残ります。不法行為に悪意があったときや故意や重過失により生命、身体を害されたような場合には非免責債権となります。
・慰謝料が非免責債権にあたれば自己破産されても回収できる可能性があります。
慰謝料でお悩みなら弁護士法人東京新橋法律事務所
慰謝料は精神的な損害に対する賠償金です。そのため交通事故や犯罪、不倫による慰謝料などさまざまなケースがあります。
交通事故の場合には慰謝料以外にも経済的な損害に対して賠償請求していくことになります。
不倫による慰謝料の場合には財産分与や養育費が同時に問題となることがあります。いずれの問題も債権回収を専門にしている弁護士に相談されることをおすすめします。