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給料の未払いがあると生活が苦しくなります。ローンなどの支払いが遅れれば家や車を失う恐れがありクレジットカードも利用できなくなることがあります。給料には時効もあるため早めに行動することが大切です。
この記事では、給料の未払いについて会社が存続しているケースでの債権回収方法を解説していきます。
※ローンなどの債務の返済ができずお困りの方はこちらの記事をご参照ください。
給料未払いとは
給料やボーナス、手当など名称に関係なく労働の対価として使用者が労働者に支払うものを「賃金」といいます(労働基準法11条)。
労働者は労働契約や就業規則により約束された給料について支払いを求める権利(債権)を持っています。給料など未払いの賃金があると労働基準法違反となります。
具体的な未払い賃料としては次のようなものがあります。
・給料、賞与、ボーナスその他労働の対価として使用者が支払うべきもの(労働基準法11条) ・退職金 ・解雇予告手当(同法20条)※ ・休業手当(同法26条)※ ・時間外労働などによる割増賃金(同法37条)※ ・年次有給休暇に関する賃金(同法39条9項)※ ※労働者の請求によって未払いの給料等と同額の付加金の支払いを裁判所に命じてもらうこともできます(同法114条) |
退職した労働者の未払い賃金(退職金を除く。)については、退職の日の翌日から支払い日まで年14.6%を超えない範囲内で、政令で定める遅延利息を請求できることがあります(賃金の支払いの確保等に関する法律6条1項)。通常の遅延分については原則年3%です。
給料未払いは違法
賃金支払いについては労働基準法24条により大切な原則が定められています。
<賃金支払いの5原則>
通貨払いの原則 |
日本の紙幣及び貨幣での支払いが原則です。 |
直接払いの原則 |
労働者本人に直接支払う原則です。 |
全額払いの原則 |
税金や社会保険料等法令で定められたものや労使協定で認められたものを除き全額を支払うという原則です。 |
毎月払いの原則 |
賃金は毎月1回以上支払うという原則です。 |
一定期日払いの原則 |
支払日は明確にする必要があります。 |
給料の未払いは、これら原則に違反した状態であり労働基準法24条に違反することになります。
給料未払いは犯罪
賃金や休業手当の未払いについては30万円以下の罰金に処せられます(労働基準法120条1号、24条、26条)。「罰金」は刑罰の一種であり給料の未払いは犯罪にあたることになります。
解雇予告手当や残業代などについては保護の必要性が高いため6か月以下の懲役刑も規定されています(同法119条1号、20条、37条等)。
給料の減額も違法の可能性
賃金の全額払いの原則により給料は全額を支払うことが基本です。しかし税金など一定のものについては給料から控除することが可能です。
<給料からの控除が認められる例>
・所得税の源泉徴収 ・社会保険料の控除 ・労使協定による組合費控除など |
損害賠償金を給料から天引きすることは原則として違法です。雇い主が損害賠償債権を根拠に給料を天引きすることは法的に相殺という手段をとったことになります。使用者側からの相殺はできないとされています。例外的に労働者との合意があれば認められる余地はありますが要件が厳しいため合意が無効となる可能性があります。
減給制裁
給料が減らされる点においては控除(天引き)と共通ですが、減給制裁は懲戒処分としてなされるもので種類が異なります。就業規則で減給制裁を定めることができますが(労働基準法91条)、1回の額が平均賃金の1日分の半額を超えることはできません。また総額が
給料の10分の1を超えることもできません。
ホストクラブやキャバクラでは店により罰金制度が設けられていることが多いようです。ホストやホステスが労働者にあたれば罰金を理由に天引きすることは労働基準法違反の疑いがあります。労働者にあたるか否かは業務内容にもよりますが店の指揮監督下にあるなどの事情があれば認められる可能性があります。
<関連記事>ホストの売掛を回収する方法とは?法的手続きや注意点について解説
給与未払い請求時の注意点
未払いの給料はいつまでも請求できるわけではありません。債権には時効があるからです。
給料未払いには時効がある
給料債権の時効期間は以下のようになっています(労働基準法115条、143条3項)。債権発生が2020年4月1日以降か否かにより時効期間が異なります。
<労働基準法の消滅時効期間>
|
2020年3月31日以前 |
2020年4月1日以降 |
賃金 |
2年 |
5年(当面の間3年) |
退職金 |
5年 |
5年 |
災害補償その他の請求権 |
2年 |
2年 |
時効期間が過ぎたとしても当然には給料債権は消滅しません。一定の事由があると時効期間はリセットされたり停止されたりするからです。特に使用者が給料の支払い義務を認める「債務の承認」があると時効期間はその日から数え直すので重要です。
<関連記事>消滅時効援用における「債務の承認」とは?分かりやすく解説
給料未払い請求の事前準備
未払いの給料について債権回収をする際には事前準備が必要です。「給料債権が発生していること」を証明するために証拠を集めることになります。
以下のような証拠により未払いの給料金額を算定し請求していきます。
・給与明細、源泉徴収票、預金通帳 ・就業規則(給与規定、退職規定) ・タイムカードなど労働時間を確認できるもの ・賃金台帳 ・業務日誌 ・労働協約 ・雇用契約書 ・シフト表 ・労働者個人作成のメモ、記録 など未払い給料の発生の証拠 |
※原本または写し。全部の資料が必要なわけではありません。
未払い給料を回収する方法
給料の未払いがあった場合の一般的な債権回収方法は次の通りです。
会社と交渉する
給料の未払いがあったときは話し合いにより解決を行うことが基本です。労働組合がある場合には組合に協力してもらうことも検討します。
労働基準監督署に届け出る
労働基準監督署は労働基準法等に違反していないか監督を行っている行政機関です。労働基準監督官は労働基準法違反に対する捜査権限を持っています。
給料未払いについては犯罪にもあたる重大な法令違反のため行政指導等により違反を是正してもらえる可能性があります。ただし必ず対応してもらえるわけではありません。相談する際には給料の未払いを示す証拠をあらかじめ用意しておきます。
会社に文書で請求する
直接の交渉に応じてもらえないようなときには書面で未払い給料の支払いを求めていきます。時効期間が迫っているような場合など請求した事実を証拠として残す必要があるときには内容証明郵便を利用することも検討します。
<関連記事>【弁護士監修】支払催促状の書き方と送付方法{テンプレート付}
民事調停を利用する
裁判所の民事調停手続きを利用する方法もあります。調停は話し合いで解決を目指す手続きで裁判官と調停委員にも加わってもらい裁判所で交渉するものです。
<関連記事>債権回収における民事調停とは?手続きの流れを分かりやすく解説
支払督促を裁判所に申し立てる
支払督促は簡易裁判所の書記官から会社に対し未払い給料の支払いを命じてもらう方法です。書面審査のみで利用できるので比較的利用しやすいといえます。ただし相手から異議が提出されると訴訟に自動的に移行してしまうので注意が必要です。
<関連記事>支払督促とは? 取引先にする場合のメリット・デメリット、手続きの流れを解説
簡易裁判所で少額訴訟を提起する
未払い給料の債権額が60万円以下の場合には少額訴訟という簡易な訴訟手続きが利用できます。原則として1日で審理をしてその日のうちに判決も出してもらうことができます。
<関連記事>少額訴訟の費用相場は?費用倒れを回避する方法も解説
労働審判または民事訴訟を起こす
労働審判は裁判官1名と専門知識を持った審判員2名で構成された労働審判委員会に紛争解決を求めるものです。話し合いでの解決かその見込みがないときには審判により解決を図ります。原則として3回の期日で終結するため比較的早期の解決が期待できます。ただし3回の期日で終了するためには争点を整理し適切な主張立証をすることが必要なため弁護士に相談されることをおすすめします。
労働審判への異議申し立てがあったときや通常訴訟が適切なときは民事訴訟を利用します。途中で和解できることもありますが譲歩できないときには判決で問題を解決します。
弁護士に相談する
ケースによって給料の未払いへの対処法は異なります。弁護士に相談することで適切な解決法を示してもらうことができます。証拠の収集も弁護士のアドバイスを受けて行う方が安全です。
まとめ
・給料、賞与、ボーナスなど名称に関係なく労働の対価として支払われるものを「賃金」といいます。賃金の未払いは違法です。
・給料の減額も法令や労使協定による正当な範囲内でなければ違法となります。
・給料債権には時効があり2~3年で時効にかかる恐れがあります。期間が経過したとしても当然に権利が消滅するわけではありません。一定の事由があると時効期間はリセットされます。
・未払い給料を回収するためには証拠を集めることが大切です。未払いや労働の事実を示す証拠をできるだけ集めます。個人的な記録であっても証拠となることがあります。
・未払い給料の回収方法は交渉が基本となりますが支払いに応じてもらえないときには、「労働基準監督署への相談」、「民事調停」、「少額訴訟」などがあります。手続きが分からないときには弁護士にご相談ください。
債権の回収でお悩みなら弁護士法人東京新橋法律事務所
給料未払いでお困りの方へ。
給料債権には時効が存在します。一定期間が経過すると未払いの給料が請求できなくなる可能性があります。また時効期間内であっても時間の経過により給料の未払いを証明する証拠を集めるのが難しくなることがあります。勤め先の経営状況が悪化して回収できなくなる恐れもあります。
給料の未払いが生じた場合には早い段階で債権回収を専門にしている弁護士に相談されることをおすすめします。
当事務所は債権回収に強い事務所です。
給料未払いなどでお困りの場合にはお気軽にご相談ください。
※借金などの債務の返済ができずお困りの方はこちらの記事をご覧ください。