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事故に遭ったり契約を守ってもらえなかったりして損害が発生することがあります。発生した損害については賠償金を求めていくことが大切です。
この記事では、損害賠償金債権の種類や時効などを解説していきます。
損害賠償請求権とは
誰かに損害を与えられたときには損害賠償金を請求できることがあります。損害賠償請求権とは賠償金を請求できる債権のことです。損害賠償の目的は違法な行為により発生した損害を回復させることです。賠償の方法は原則として金銭賠償であり損害の種類によっては損害がない状態に完全に戻すことはできませんが、損害を金銭に換算して賠償金という形で請求していくことになります。
賠償金債権は損害が生じた場合に生じるものですが、損害の発生原因には2種類あり、「債務不履行」と「不法行為」に基づくものに分かれます。
債務不履行による賠償金
債務不履行とは、契約などで求められている債務(義務)を履行しないことです。つまり契約違反などにより損害を受けることで賠償金債権が発生します。例えば医療ミスがあったような場合には病院と患者さんとの間で結ばれた診療契約に病院が違反したものとして債務不履行による賠償金債権が発生することになります。
不法行為による賠償金
故意や過失(不注意)によって他人の権利等を侵害して損害を生じさせることを不法行為といいます。不法行為によって生じた損害についても賠償金債権が発生します。
債務不履行による賠償金債権と不法行為による賠償金債権は法的な性質に違いがあり時効期間も異なります。
損害賠償請求権の時効
権利には通常時効が存在します。一定期間権利を行使せずにいると権利の行使が制限されます。賠償金債権についても時効が存在するため注意が必要です。
時効期間は債務不履行による賠償金債権と不法行為による賠償金債権とで異なります。債務不履行による賠償金債権については、「権利を行使することができることを知った時から5年」または「権利を行使できる時から10年」です。
これに対して不法行為による賠償金債権については、「損害および加害者を知った時から3年」または「不法行為の時から20年」です。
ただし、人の生命や身体侵害による賠償金債権については例外があります。
賠償金債権の発生原因 |
起算点 |
時効期間 |
債務不履行 |
権利を行使できることを知った時 |
5年 |
権利を行使できる時 |
10年 |
|
不法行為 |
損害と加害者を知った時 |
3年 |
不法行為の時 |
20年 |
※人身損害を除く。
例えば、債務不履行による賠償金債権であれば権利を行使できることを知らなかったとしても権利行使できる時から10年で時効にかかる恐れがあります。
損害によって異なる時効期間と起算点
損害の種類によって時効期間や時効の起算点が異なります。
ここでは交通事故による賠償金債権(不法行為)を想定して解説します。なお、加害者は当初から特定できているものとします。
時効期間をいつから数え始めるかという問題がありますがこれを「起算点」といいます。起算点はその日が午前0時から始まるときを除き初日ではなく翌日とされています。そのため不法行為による賠償金債権の時効期間の起算点は事故などの翌日となりその日を1日目として数えます。
物損事故
物損事故であれば事故発生日の翌日を起算日として3年が時効期間となります。
人身事故(後遺障害なし)
人身事故の場合には起算点についての見解が分かれています。「事故日の翌日とする見解」や「治癒時(症状固定時)の翌日とする見解」があります。被害者としては事故日の翌日を起算点と考えて早めに行動した方がいいでしょう。
ただし時効期間については通常の不法行為とは異なります。
賠償金債権の発生原因が人の生命・身体の侵害によるときには損害および加害者を知った時から「5年」または権利を行使できる時から「20年」となっています。債務不履行による賠償金債権も同様です。生命や身体は特に保護の必要性が高いため期間が長くなっています。
賠償金債権の発生原因 |
起算点 |
時効期間 |
人の生命、身体の侵害 |
権利行使できること(損害及び加害者)を知った時 |
5年 |
権利を行使できる時から |
20年 |
人身事故(後遺障害による損害)
人身事故により後遺障害が発生することもあります。後遺障害は事故発生時点では明確にわからないため損害を知ったといえるためには後遺症の症状固定日の翌日が起算日と解されます。
人身事故(亡くなった場合)
人身事故により亡くなったケースでは損害は死亡時に確定することになります。したがって、起算日は死亡時の翌日となり5年間の経過により時効にかかる恐れがあります。
<加害者が当初から判明しているケース>
損害の種類 |
起算点 |
時効期間 |
物損 |
事故の翌日 |
3年 |
人身(傷害) |
事故の翌日 ※治癒時の翌日とする見解もある |
5年 |
人身(後遺障害) |
症状固定日の翌日 |
5年 |
人身(死亡) |
死亡した日の翌日 |
5年 |
※加害者が後日明らかとなったときは3年(5年)の時効は知った日の翌日が起算点となります。ただし20年の時効にも注意が必要です。
<関連記事>慰謝料の時効とは?時効の期間や中断方法など詳しく解説
時効を延長する方法
時効期間が経過したとしてもそれだけで賠償金債権が消滅するわけではありません。権利を消滅させるには「時効の援用」が必要です。
また、時効による消滅を阻止する方法もあります。消滅時効を阻止する方法としては、時効の「完成猶予」と時効の「更新」の2つがあります。
<関連記事>消滅時効援用における「債務の承認」とは?分かりやすく解説
時効の完成猶予
時効の完成猶予とは、一定の事情がある場合にしばらくの間時効の完成を猶予してもらえる仕組みです。いくつか種類がありますが以下のような方法があります。
催告
加害者に賠償金を請求することで時効の完成が6か月間猶予されます。証拠に残すため内容証明郵便を用いた方がいいでしょう。ただし催告を繰り返したとしても再度の猶予はされないため猶予が認められている間に訴訟など時効の更新につながる方法をとることが大切です。
<関連記事>内容証明郵便を出す方法や費用は?弁護士に依頼するメリットも解説
調停の申立て
裁判所に調停を申し立てることでも完成が猶予されます。調停の実施中または調停が終了しても6か月間猶予されます。
裁判上の請求
訴訟を起こすことでも完成が猶予されます。訴訟継続中は完成が猶予され、訴えの取り下げがあったとしても6か月間猶予されます。
支払督促
簡易裁判所で支払督促の手続きをしたときにも猶予されます。
時効の更新
時効の更新とは、一定の事実があると時効期間がリセットされ始めから時効期間を数え直す仕組みのことです。いくつか種類がありますが以下のようなものがあります。
確定判決による権利の確定
訴訟を起こすと時効の完成が猶予されますが勝訴判決を得られれば賠償金債権を裁判所に認めてもらえたことになります。判決が確定することで賠償金債権の存在が確定的になるため時効期間がリセットされることになっています。この場合、時効期間は10年となります。本来不法行為による賠償金債権は「3年」または「5年」の時効期間ですが権利の存在が明確になったため長めになっています。
また裁判上の和解や調停が成立した場合にも確定判決と同等の効力があるため時効期間が10年になります。
加害者による賠償金の承認
加害者自身が賠償金債権の存在を認めたときにも時効の更新が認められています。この場合には10年に時効期間は伸びませんが期間がリセットされるため賠償金を求めやすくなります。不法行為の時から3年以上経過していたとしても賠償金の支払いを約束していれば時効期間が経過していない可能性があります。証拠で確認できることが重要であるため書面に署名押印をしてもらうなどの対策が有効です。また一部弁済をしてもらうことでも賠償金の承認となりえます。
加害者が任意保険を契約しているケースでは保険会社から病院や被害者に対して直接治療費や通院費等が支払われることがあります。このような場合には加害者の代理人として保険会社が支払いをしていると考えることができます。したがって加害者による賠償金の承認として時効がリセットされると解されます。
完成猶予や時効の更新について詳しくは、「債権回収、借金には、時効がある!消滅時効とその対処方法について解説!」をご覧ください。
まとめ
・損害賠償請求権とは、不法行為や債務不履行により生じた損害の填補を求める債権のことです。
・賠償金債権には時効があり不法行為と債務不履行で時効期間が異なります。
・債務不履行の時効期間は、原則として「権利を行使できることを知った時から5年」または「権利を行使できる時」から10年です。
・不法行為の時効期間は、原則として「損害と加害者を知った時から3年」または「不法行為の時から20年」です。
・人の生命、身体の侵害による賠償金債権は「権利行使できること(損害及び加害者)を知った時から5年」または「権利を行使できる時から20年」です。
・時効期間が過ぎても賠償金を請求できなくなるわけではありません。時効期間は猶予されることやリセットされることがあります。
・加害者が賠償金の支払いを約束したり一部弁済をしたりすると時効期間はリセットされます。
損害賠償金の回収でお悩みなら弁護士法人東京新橋法律事務所
不法行為や契約違反により損害を受けた場合には損害賠償金を請求していくことができます。
賠償金を請求していくためには損害額を合理的に算出する必要があります。損害の範囲や損害額を客観的に証明するために証拠の収集も重要です。法的に意味のある証拠を収集するためには早い段階から専門の弁護士に相談することが大切です。
当事務所は債権回収に強い事務所であり交通事故などの損害賠償金回収にも力を入れています。
加害者や保険会社の提示した賠償金額が適切か判断するためにも専門の弁護士に相談されることをおすすめします。