保証契約は債権者にとって債権回収の可能性を高める重要な手段です。一方で保証人にとっては安易に保証契約を結ぶことで予期しない大きな負債を抱える恐れがあります。

 

この記事では、保証契約とは何かについて根保証や連帯保証契約などと比較して解説します。

 

保証契約とは

保証契約とは、債務者が債務を履行しない場合に代わりに債務を履行する約束をすることです。つまり本来の当事者が義務を果たせなかったときに代わりに責任をとる(とらせる)契約です。保証債務を負う人のことを「保証人」といいます。

保証契約は重要な契約をする際によく利用されています。アパートの賃貸借やお金の貸し借り、就職する際などに行われます。保証人は債務者が問題を起こしたときにお金を請求されることになりますが一定の権利があります。通常の保証人には「分別の利益」、「催告の抗弁権」、「検索の抗弁権」というものが認められています。

 

分別の利益

分別の利益とは、保証契約をした人が数人いるケースでは頭数で割った金額だけ責任を負うことです。例えば、Xに対する120万円の債務についてA、B、Cが保証契約をしたときはそれぞれの保証人は40万円について責任を果たせば足ります。債権者にとっては不利益となるため分別の利益が認められない「連帯保証契約」を結ばせることが一般的です。

 

催告の抗弁

催告の抗弁とは、債権者が保証契約をした人に対して支払いを求めたときに「先に債務者に請求してください」といえる保証人の権利です。保証人はあくまでも主債務者が責任を果たさなかった場合に補充的に責任を負う人です。そのため債権者が保証人にいきなり請求してきたときには保証人としてはまず本来の義務者に支払いを求めるように言えるのです。ただし、債権者としてはとりあえず債務者に請求しさえすればいいわけですから催告の抗弁の力は強くありません。また債務者が破産手続きを受けているときや行方不明のときには認められません。連帯保証人には催告の抗弁権が認められていません。

 

検索の抗弁

検索の抗弁とは、債権者が保証契約をした人に対して支払いを求めたときに「まず債務者の財産を差し押さえてください」といえる保証人の権利です。保証人がこの権利を行使するときは債務者に執行が容易な財産があることを証明する必要があります。連帯保証人には検索の抗弁権がありません。

 

連帯保証契約とは

通常の保証契約のほかに連帯保証契約というものがあります。むしろ保証契約を結ぶときには一般的に連帯保証契約にすることが多いと言えます。保証契約の目的は債権の担保であり問題が起こったときに容易に債権を回収したいからです。普通の保証契約では分別の利益や検索の抗弁権などがあるため債権回収が難しくなってしまいます。

連帯保証契約とは、保証人が主たる債務者と連帯して債務を負担する約束のことです。つまり連帯保証人は責任の上では主債務者と変わらないことになります。そのため「分別の利益」がなく保証人が複数いても各々に対して全額の請求が可能であり、「催告の抗弁」や「検索の抗弁」をすることができないため主債務者の前に請求することができます。

債権者の立場としては通常の保証契約ではなく連帯保証契約を結ぶことが大切です。

 

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根保証契約とは

根保証契約とは、一定の範囲に属する不特定の債務を目的として保証する契約のことです。つまり保証契約をする段階ではどのくらいの金額を請求され得るのか具体的にはわからない場合です。自動車ローンの保証人になるときには契約時点でローン金額が分かっていますが、アパートの賃貸借の保証契約の場合には滞納が長期間及ぶ可能性もありあらかじめ金額がはっきりしません。

しかし最終的な債務額がはっきりしないのでは保証人が思っていたよりも高額な請求を受けることがあります。そこで個人根保証契約では極度額の定めなど通常の保証契約とは異なる約束事があります。

 

根保証契約の条項

根保証契約は保証債務が際限なく広がる恐れがあります。そこで個人が保証人となる個人根保証契約はルールが厳しくなっています。

現行法では個人根保証契約については極度額の設定が必要です。極度額とは保証人の責任の上限額のことです。極度額は書面で明確に定める必要があります。

また個人根保証契約の主たる債務に貸金等債務(貸金債務や手形割引)が含まれるときには元本確定期日(保証期間)に制限があり5年が上限とされています。この場合に元本確定期日を定めないときには3年とされ、5年を超える期間を定めたときは定めがなかったことになります。

 

 

極度額の定め

元本確定期日

貸金等債務あり※

必要

5年が上限

貸金等債務なし※

必要

制限なし

※主債務の範囲に含まれるか

 

また元本は債務者の死亡など一定の事由があると確定します(民法465条の4)。

 

2020年民法改正のポイント

2020年4月1日に改正法が施行されておりこの日より前に保証契約が締結された保証債務は基本的に旧法に従います(改正民法附則21条)。

 

個人根保証契約では極度額の定めが必要

2020年改正前から貸金等債務に関する保証契約をする際には極度額を定める必要がありました。改正法施行後の個人根保証契約ではすべて極度額が必要となります。極度額の定めは書面で行う必要があり定めがないときは根保証契約が無効とされます(民法465条の2)。

 

根保証契約締結日

貸金等債務あり※

貸金等債務なし※

2020年3月31日以前

極度額の定めが必要

極度額の定めが不要

2020年4月1日以降

極度額の定めが必要

極度額の定めが必要

※主債務の範囲に含まれるか

 

改正法施行後に根保証契約が更新される場合、契約の内容によっては新法の適用がされる可能性があるため顧問弁護士にご相談ください。

 

公証人による保証意思確認手続きの新設

事業用融資の際に親せきや友人などが保証契約を結び多額の負債を抱えて生活が破綻することが問題となっていました。そこで多額の保証契約を安易にさせないために事業上の貸金等債務に関する保証契約をする際は公証人による意思確認が原則必要とされました(民法465条の6第1項)。

ただし、経営に深くかかわっている下記の者については対象外です(同465条の9)。

 

主債務者

公証人の意思確認が不要な人

法人の場合

理事、取締役、執行役等、総株主の議決権の過半数を有する者等

個人の場合

共同事業者、主債務者が行う事業に現に従事している主債務者の配偶者

 

保証の意思は公正証書によって表示する必要があり保証契約締結の日前1か月以内に作成されたものが必要です。保証意思の確認は原則として公証役場で行われ代理人によることはできません。

 

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保証人に対する情報提供義務の新設

保証契約を結ぶ際には保証のリスクを正しく判断する必要があります。また保証契約後も主債務者が支払いをきちんと行っているかを知る必要もあります。そこで保証人に対する情報提供義務が定められています。

 

保証契約締結時の情報提供義務

事業上の債務について個人に保証を委託する場合、主債務者は委託を受ける人に下記の事項に関する情報を提供する必要があります。

 

・財産及び収支の状況

・主たる債務以外に負担している債務の有無とその額及び履行状況

・主たる債務の担保として他に提供し又は提供しようとしているもの

※事業のために負担する債務であればよく貸金等債務に限られません。

 

もし情報提供を正しく行わずに保証契約がされた場合に債権者がそのことを知り又は知ることができたときは、保証人は保証契約を取り消すことができます(民法465条の10第2項)。この情報提供義務は保証人が法人であるときには対象外です。

 

履行状況に関する情報提供義務

保証人が主たる債務者の委託により保証契約をした場合には、保証人の請求により債権者は保証人に下記事項を遅滞なく情報提供する必要があります。

 

・主たる債務の元本

・利息

・違約金

・損害賠償

・その債務に従たるすべてのものに関する不履行の有無や残額、弁済期が到来しているものの額

※個人保証人だけでなく法人も対象です。

 

期限の利益喪失時の情報提供義務

期限が来るまでは支払いをしなくて済みますがそのような利益を「期限の利益」といいます。分割払いで支払いを遅滞すると期限の利益がなくなり一括払いを求められることがあります。このような場合には遅延損害金が大きくなり保証人の負担が過大なものになりがちです。そこで主債務者が期限の利益を喪失したときは、債権者は喪失の事実を知った時点から2カ月以内に保証人に通知する義務が課せられています(民法458条の3)。

もし期間内に通知しないときには債権者は期限の利益を喪失した時から通知を実際にするまでに生じた遅延損害金の請求ができなくなります。この通知義務は保証人が法人の場合には対象外です。

 

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まとめ

・保証契約とは、債務者が債務を履行しない場合に代わりに債務を履行する約束をすることです。代わりに責任を負担する人を保証人と呼びます。

・保証人には、「分別の利益」、「催告の抗弁権」、「検索の抗弁権」があります。

・連帯保証契約では、分別の利益、催告の抗弁権、検索の抗弁権が認められません。債権者としては連帯保証契約にすることが大切です。

・根保証契約とは、一定の範囲に属する不特定の債務を目的として保証する契約のことです。法改正により個人根保証契約では極度額の定めが必要となりました。

 

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