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民事裁判は多くの方にとってはできれば関わりたくないものです。しかし権利が侵害されている場合にはやむを得ず訴訟を起こさざるを得ないこともあります。民事裁判が利用しづらい理由はいくつかありますが手続きにかかる期間も挙げられます。一般的に民事裁判は長期間かかるイメージがあるからです。しかし実際の期間について知っている方は多くありません。実態を知ることで民事裁判が身近に感じられるようになるかもしれません。
この記事では、民事裁判にかかる期間がどのくらいなのか、訴訟の流れも含めて解説します。
民事裁判にかかる期間
民事裁判の期間は長くかかると一般的に思われています。最高裁判所が公表している「令和4年司法統計年報概要版(民事・行政編)」によると、地方裁判所の民事第一審通常訴訟事件(既済事件)の平均審理期間は令和4年のケースで平均10.5月とされています。他の年度もおおむね同じような期間となっています。これだけを見るとやはり裁判は長くかかると思われるかもしれません。しかしこれはあくまでも平均であって事案によって期間は大きく変わります。「裁判の迅速化に係る検証に関する報告書(第10回)(令和5年7月28日公表)」によると、建物明け渡しのケースでは平均審理期間は4か月、貸金返還請求については8.2か月と全体よりも短期間となっています。一方で建築瑕疵(欠陥住宅等)の平均審理期間は27か月、医療ミスの平均審理期間については26.6か月となっています。相手が争うなど事案が複雑なケースほど時間がかかるということです。事案が複雑なケースでは5年を超えるようなケースも少数ではありますが存在します。
ただし、上記の期間は地方裁判所の事案であり簡易裁判所の平均審理期間は3.4か月と短くなっています(前記司法統計)。簡易裁判所は事案が単純なケースが多いためと考えられます。
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民事裁判の流れ
民事裁判は以下のような流れで行われます。
原告が訴状を裁判所に提出
民事裁判は原告が訴状を作成して管轄の裁判所に提出することで行います。訴状のほかに重要な書証の写しや登記事項証明書(不動産事件の場合)(民事訴訟規則55条)や委任状(代理人いる場合)が必要となります。他に手数料を納めるために収入印紙が、文書のやり取りをするため郵便切手も必要となります。
裁判所の訴状受付
訴状の提出を受けた裁判所は訴状に不備がないか審査を行い問題がなければ手続きが進められます。不備があれば補正を命じられます。不備がなければ1か月後くらいに期日が指定されます。
訴状の送達
被告には裁判所書記官から訴状や証拠の副本が送付されます(民事訴訟法138条1項、98条2項、規則58条1項)。
口頭弁論期日の指定・呼び出し
裁判長は訴えの提起があったときは、口頭弁論の期日を指定して当事者を呼び出します(民事訴訟法139条)。被告を呼び出すために呼び出し状の送達が行われます(94条1項)。最初の口頭弁論期日は特別の事由がない限り訴えを提起した日から30日以内に指定されます(規則60条2項)。
答弁書の提出
民事裁判を起こされた側を被告といいますが被告の言い分を記載した最初の準備書面を答弁書といいます。原告の言い分に対して反論があればその旨を記載した答弁書を期限までに提出します(162条、規則79条1項)。答弁書には原則として立証を要する事由について重要な書証の写しも添付します(同80条2項前段)。準備書面は郵送やFAXなどで相手方に直送しますが(規則83条、47条1項)、相当な理由があるときは裁判所書記官に依頼することもできます(47条4項)。
審理
最初の期日では答弁書を提出していれば被告が欠席しても答弁書に記載した事項を陳述したものとみなし手続きを進めることができます(法158条)。本人の代わりに弁護士が出頭することもできます。基本的に民事裁判の手続きは書面のやり取りで進みます。第1回の期日では訴状と答弁書の記載を陳述し、必要に応じて2回目以降も準備書面を提出・陳述を行います。実際には公開の法廷ではなく準備室で争点の整理を行い、証拠調べなどを経て判決に至ります。審理の間隔は1~2か月程度となっています。
ただし、民事裁判は判決で終わるとは限りません。途中で和解が成立することも多くあります。和解が成立すると和解調書が作成されますが確定判決と同等の効力があるため強制執行をすることも可能となります。
控訴
民事裁判の結果は必ずしも望んだものとは限りません。敗訴した場合には判決送達日の翌日から起算して2週間以内であれば控訴することができます。
上告
控訴審判決にも不服があるときには上告できることがあります。しかし上告審は法令違反を取り扱うため要件が厳しくなっており、憲法違反や重大な手続違反などに限定されています(法312条)。
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裁判が長引くケース
民事裁判は事案によって期間が大きく異なります。民事裁判が長引く典型的なケースは以下のような場合です。
和解の不成功
訴訟手続きの途中で和解が成立すれば裁判をする理由がなくなるため判決を待つよりも期間が短くなることが期待できます。しかし和解交渉がうまく進まず最終的に和解が成立しなければ和解交渉をしなかったケースよりも民事裁判の期間は長くなることになります。
争いが複雑な場合
民事裁判で争っている内容が複雑な場合には争点が多くなるため審理期間が長くなります。お互いの事実や法律上の主張が必然的に多くなり証拠の量や証拠調べの必要性なども高くなるからです。建築瑕疵や医療ミス、株主代表訴訟など専門性の高いケースで審理期間が長くなるのは争点が多くなるからです。
訴訟手続きに当事者が協力的でない
民事裁判は当事者と裁判所が協力して進めていきます。当事者が適切な時期に準備書面や証拠を提出しなければ訴訟が遅滞する原因となります。仮に勝訴した場合であっても期間が延びた責任があれば訴訟費用の負担を命じられることもあります(法63条)。
弁護士を付けていない
民事裁判は弁護士に依頼しなくても手続きをとることができます。しかし民事裁判は専門的であり弁護士が代理しなければ準備書面を適切に作成することも難しいといえます。裁判所でのやり取りについても効果的に行うことが難しいため手続きが遅延する理由となります。
裁判所の休みと重なった
裁判所にも休廷期間が存在します。年末年始も休廷となりますが特に長期の休廷期間が設けられているのが7月下旬ごろから8月末ごろまでの夏季休廷期間です。裁判所が完全に閉まっているわけではなく刑事手続きなどは行われますが通常の民事裁判は開かれません。休廷期間直後も混雑するため期日が入れづらくなります。
裁判期間が短くなるケース
民事裁判の期間が短くなるのは以下のようなケースです。
和解の成立
民事裁判では最終的に判決が下されますがそのためには争点整理や関係者への尋問など手続きに時間がかかります。途中で和解が成立すれば必要な手続きが省かれるため期間が短縮されます。また相手が義務を自分から果たしてくれるケースも多いことから強制執行をせずに済みトラブル全体の解決が早くなることもあります。
事案がシンプルである
事実や証拠が明白なケースでは争う余地がほとんどないため裁判期間は短くなります。前記した建物明け渡しのケースが短期間で済むのは賃料未払いなど争う余地が少ないからです。
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請求の認諾
被告が原告の請求を認める意思表示を弁論期日で行うと調書に記載され確定判決と同一の効力が生じます(法266条1項、267条)。つまり民事裁判は当然に終了します。
双方に弁護士がついている
民事裁判の専門家である弁護士が代理人となっていれば効果的に訴訟が進められるため準備書面の作成や争点整理、証拠調べなどが効率的に行われます。
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まとめ
・民事裁判の平均審理期間は、第一審通常訴訟(地裁)では10.5か月とされています(令和4年司法統計年報)。事案によって大きく異なり建物明け渡しであれば平均4か月、建築瑕疵については27か月が平均審理期間となっています。事案が複雑なケースほど期間が長くなり2年以上かかるケースもあります。
・簡易裁判所での民事裁判は事案がシンプルなものが多いことから平均審理期間は3.4か月と短めとなっています。
・民事裁判は、訴状の提出、訴状や呼び出し状の送達、答弁書の提出、審理、終結(判決、和解)のように進みます。判決に対して上訴すれば期間が延びることになります。
・民事裁判の期間が長くなりやすいケースは事案が複雑で争点や証拠が多くある場合です。相手が争ってこないケースでは早く終了します。
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