貸倒懸念債権は、債権回収上の視点と会計処理の視点の2つの視点が問題となります。債権回収の視点からは時効にかからないように督促や法的手続きなどを行っていきます。会計上は貸倒引当金を適切に設定していくことになります。

この記事では、会計上の貸倒懸念債権について解説していきます。

 

貸倒懸念債権とは

売掛金などの債権は現金化できていないため将来において回収ができなくなることがあります。回収の見込みに不安がある債権については貸倒引当金として会計上の処理が必要となります。会計上の貸倒引当金を設定するためには貸倒見積高を算定する必要があります。会計上の貸倒見積高を算定する際は、債務者の財政状態や経営成績などに合わせて債権を、「一般債権」、「貸倒懸念債権」、「破産更生債権等」の3つに分けて考えるのが原則です(金融商品に関する会計基準27項)。

 

<債権の区分>(金融商品に関する会計基準27、28項)

債権の種類

定義

貸倒見積高の算出法

一般債権

経営状態に重大な問題が生じていない債務者に対する債権

過去の貸倒実績率等合理的な基準

貸倒懸念債権

経営破綻の状態には至っていないが、債務の弁済に重大な問題が生じているか又は生じる可能性の高い債務者に対する債権

①財務内容評価法

または

②キャッシュフロー見積法

破産更生債権等

経営破綻又は実質的に経営破綻に陥っている債務者に対する債権

財務内容評価法

 

ただし、一部の中小企業等については税法上の貸倒引当金が認められており、会計上も法人税法上の基準による貸倒引当金を算定する方法もあります(中小企業の会計に関する指針18項)。

 

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貸倒懸念債権に該当する条件・判断基準

貸倒懸念債権とは、経営破綻の状態には至っていないものの、①債務の弁済に重大な問題が生じている債務者に対する債権か、または②債務の弁済に重大な問題が生じる可能性の高い債務者に対する債権のことです(金融商品に関する会計基準27項(2))。

 

債務の弁済に重大な問題が生じている場合

債務の弁済に重大な問題が生じている場合というのは、債務の弁済がおおむね1年以上延滞しているケース、弁済期間の延長や弁済の一時棚上げをしているケース、元金や利息の一部を免除するなど弁済条件の大幅な緩和を行っているケースなどです(金融商品会計に関する実務指針112項第2段)。

 

債務の弁済に重大な問題が生じる可能性が高い場合

債務の弁済に重大な問題が生じる可能性が高い場合というのは、業況が低調もしくは不安定、又は財務内容に問題があって過去の経営成績や経営改善計画の実現可能性を考慮しても債務の一部を条件通りに弁済することができない可能性が高い状況のことです(金融商品会計に関する実務指針112項第3段)。ここでいう「財務内容に問題」があるというのは、債務超過に現に陥っている場合だけでなく債務者が持っている債権の回収可能性や資産の含み損を考慮すると実質的に債務超過の状態にあるときが含まれます(同項第4段)。

 

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貸倒懸念債権の貸倒見積高の算出方法

貸倒懸念債権に対する貸倒引当金を算定する方法としては、①財務内容評価法、または②キャッシュフロー見積法の2種類があります。

 

財務内容評価法

貸倒懸念債権に関する財務内容評価法は、債権額から担保の処分見込額及び保証による回収見込額を減額し、その残額について債務者の財政状態と経営成績を考慮して貸倒残高を算定する方法のことです(金融商品に関する会計基準28項(2)①、金融商品会計に関する実務指針113項(1))。

財務内容評価法によるときには債務者の支払能力を総合的に判断しなければなりません。債務者の支払能力は事業活動の状況や取引先金融機関などの支援の有無程度、今後の資金繰りの見通しなど多くの要因を検討しなければなりません。しかし通常の企業では各種資料を手に入れることは簡単ではないことから当初貸倒懸念債権を認定した期には担保による回収見込み額を控除した残額の50%を引き当て、次年度以降は毎期見直す等の簡便な方法も考えられます(同実務指針114項)。

 

キャッシュフロー見積法

貸倒懸念債権に関する貸倒見積高の算出方法としてはキャッシュフロー見積法もあります。債権の元本の回収及び利息の受け取りに係るキャッシュフローを合理的に見積もることができる債権について、債権の元本及び利息について元本の回収及び利息の受け取りが見込まれるときから当期末までの期間にわたり当初の約定利子率で割り引いた金額の総額と債権の帳簿価額との差額を貸倒見積高とする方法のことです(金融商品に関する会計基準28項(2)②、金融商品会計に関する実務指針113項(2))。

将来キャッシュフローを合理的に見積もれる場合において、担保処分による回収ではなく債務者の収益を回収原資とする方針のときにはキャッシュフロー見積法を採用することが望ましいとされます(金融商品会計に関する実務指針299項)。将来キャッシュフローを合理的に見積もれない場合や回収原資が担保処分によるときは財務内容評価法を利用することになります。

 

貸倒懸念債権の仕訳方法

貸倒懸念債権について貸倒見積高を算出したら貸倒引当金として仕訳をしていきます。

 

財務内容評価法

Xに対して100万円の売掛金を有している場合において弁済期間の延長があったことから貸倒懸念債権として担保による回収見込み額を控除した残額の50%を貸倒引当金とする。担保による回収見込み額が30万円のケースでの仕訳は以下のようなものです。

 

(100万円-30万円)×50%=35万円(貸倒見積高)

 

借方

借方金額

貸方

貸方金額

貸倒引当金繰入

350,000円

貸倒引当金

350,000円

 

キャッシュフロー見積法

Xに対して貸付金を有している場合において利率を引き下げる弁済条件の緩和があったことから貸倒懸念債権として貸倒引当金を定めることになった。債権の帳簿価額が100万円、当初利率による割引後の金額が90万円とした場合の仕訳例は以下のようなものです。

 

借方

借方金額

貸方

貸方金額

貸倒引当金繰入

100,000円

貸倒引当金

100,000円

 

貸倒懸念債権が企業に与える影響

貸倒懸念債権は必ずしも債権回収が不可能になるわけではありません。しかし元本や利息の一部を免除したり延滞期間が長期化していたりすると資金繰りが悪化することになります。貸倒懸念債権が多ければ与信管理能力に疑問を持たれることになり金融機関の融資審査が厳しくなります。また取引先から取引の見直しや支払条件の変更を求められたり、投資家からの信頼の低下によって株価が下落したりするなどの問題が生じることもあります。貸倒懸念債権が実際に回収不能となった場合には貸倒損失を計上することになりますがこれにより資産が減少することにもなります。

貸倒懸念債権が増えてしまうことによりキャッシュフローが悪化することで経営の柔軟性が失われ、企業の経営戦略を見直さざるを得なくなります。

貸倒懸念債権の発生を防ぎつつ、既存の貸倒懸念債権については不良債権化する前に確実に回収することが大切です。

 

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まとめ

貸倒懸念債権とは、経営破綻の状態には至っていないが債務の弁済に重大な問題が生じているか又は生じる可能性の高い債務者に対する債権のことです。

・回収の見込みに不安がある債権については、「一般債権」、「貸倒懸念債権」、「破産更生債権等」の3つに区分して貸倒見積高を算出します。

・貸倒懸念債権の貸倒見積高の算出方法には種類があり、「財務内容評価法」と「キャッシュフロー見積法」をケースに応じて使い分けます。

・貸倒懸念債権は企業経営に影響します。キャッシュフローの悪化や融資審査の厳格化、取引の見直し等による資金繰りの悪化、株価の下落などの問題が生じます。

 

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※記事の内容は執筆された当時の法令等に基づいております。細心の注意を払っておりますが内容について保証するものではありません。事案も単純化していることから実際に会計等の事務処理をする際は必ず専門家にご相談ください。