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動物病院における診療費の未払いが問題となっています。ペットと暮らす人やペットを家族の一員として考えている人が増えていることから未払いの問題をはじめ様々な問題が起こりやすくなっています。
この記事では、動物病院における診療費未払いの対策について解説します。
動物病院の診療費未払い問題とは
動物病院における医療費の未払い問題については人間の医療費未払いとは異なる特徴があります。人間の場合には健康保険に加入していることが通常であり自己負担額が制限されますが、動物病院における診療費については全額自己負担となるのが原則です。そのため診療費が高額となりやすく窓口での支払いにあたり手持ちのお金が足りず未払いが生じやすくなります。例えば、犬が足を骨折した場合の治療費は20万円程度かかりますが多くの人にとって簡単に支払える金額ではありません。
ペット保険に加入している場合であっても保険契約の内容によっては保険金支払いの対象外となることもあり診療費が高額となり未払いにつながることがあります。
また、傷ついた野生動物など飼い主以外の方が診療を申し込むこともありますが、このようなケースでは治療費まで負担する意思がないことも多いため未払いが生じやすくなります。
獣医師には応召義務があることから正当な理由がなければ診療を拒否することができません(獣医師法19条1項)。悪質なケースなどは別ですが基本的に診療拒否することは難しいことから未払いの問題を完全になくすことは困難です。
そのため動物病院における診療費未払い対策としては、未払いをけん制しつつ未払いが生じた際の対応がカギとなります。
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診療報酬請求権の時効
動物病院における診療報酬請求権にも時効が存在します。しばらく未払いの状態が続くと請求できる権利が消滅するおそれがあります。時効について基本的な内容を定めている民法という法律がありますが、これまで獣医師による診療報酬債権については医師の診療報酬債権と同様に3年で時効にかかると考えられていました。しかし2020年4月1日に改正法が施行されておりこの日以降に生じた債権については、原則として「権利を行使できる時から10年」、または「権利を行使できることを知った時から5年」が時効期間とされます。動物病院の報酬請求権については支払期日から権利を行使することができ、かつ期日も知っているはずですから通常は5年で時効の可能性があります。ただし、時効期間は更新するための方法があり、また民法改正前に発生した債権など従前の時効期間が適用されるケースがあるなど複雑なため一度弁護士に相談されることをおすすめします。
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未払いの診療費を回収する方法
動物病院における診療費未払いが発生した場合の基本的な対応は以下のようなものとなります。
相手との協議
動物病院における未払いの診療報酬額は数十万円以内のものが多いことから相手との交渉により任意に支払いに応じてもらうことが基本となります。債権回収は費用対効果を意識することが大切であり、回収額に対して回収費用の方が高くならないように気を付ける必要があります。基本的には電話やメール、郵便を利用した督促状の送付などにより支払いを促すことになります。高額な診療費の場合には分割払いを提案することも検討します。分割払いなどを約束した場合には合意書を作成してサインをもらうようにします。
合意書の書き方については、「合意書の法的効力とは?作成時の注意点を解説」をご参照ください。
民事調停
動物病院の未払いについては民事調停も選択肢となります。民事調停は裁判所を利用した話し合いの手続きです。調停委員に加わってもらい交渉をしてお互いが納得する解決策を見つけます。訴訟よりも費用が安く自力でも利用しやすい手続きです。ただし話し合いがまとまらなければ訴訟など別の手続きが必要となります。
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支払督促
動物病院の未払いについては支払督促も検討できます。支払督促は裁判所書記官から未払いの診療費の支払いを督促してもらう手続きです。相手から異議が出されると訴訟に移行してしまうデメリットがありますが書面審査で利用できることや費用が訴訟の半分で済むメリットがあります。
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民事訴訟
動物病院の未払いについて最終的には訴訟を利用することになります。未払い額が140万円以下であれば簡易裁判所が管轄の裁判所となります。また未払いが60万円以下であれば少額訴訟という制度を利用することもできます。少額訴訟は判決に不服があっても控訴することができないなどのデメリットもありますが、通常の法廷とは異なり円卓に裁判官などと並んで座って手続きが進められるなど一般の方でも利用しやすい工夫がされています。
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強制執行
訴訟で勝つことができたり調停が成立したりしても相手が未払い金を支払ってくれないことがあります。このような場合には相手の持っている財産を差し押さえて強制的に回収することも必要です。例えば、飼い主が利用している金融機関と支店が分かっていれば預金を差し押さえることで未払い金を回収していきます。
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未払いの診療費が発生しないようにするための対策
動物病院における未払い対策の基本は未払い自体を抑制することにあります。未払い診療報酬額は1件当たりでは少額のことが多いため費用や時間のかかる回収業務はなるべく減らす必要があるからです。
基本となる対策は飼い主など診療を依頼した方の本人確認です。偽名などを使われてしまうと法的な手続きによる回収も困難となります。そのため健康保険証や運転免許証などの公的な身分証明書の提示を求めてコピーをとらせてもらいます。身分証がない場合であっても電話番号やメールアドレスは取得しておきます。弁護士であれば電話番号などから住所等を調査できることがあります。
また署名入りの問診票や治療の同意書を取得しておくことも重要です。飼い主の中には診療契約をした事実を否定される方もいらっしゃいますが、署名入りの問診票等があれば診療の申し込みをしたことが推認されるため未払いの言い訳が難しくなります。
また、連帯保証人を付けてもらうことも効果的です。連帯保証人は本人と同じ責任を負うことから連帯保証人に迷惑を掛けたくないという気持ちから未払いを抑制することにつながります。万が一未払いが生じたとしても連帯保証人からも回収可能となります。
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動物病院が治療費未払いに対応するための法的対策
動物病院が診療報酬の未払いでまず気を付けるべき点は時効にかからないようにすることです。時効期間に注意しながら必要に応じて法的手段により回収していきます。少額訴訟など時間や手間を気にしなければ自力で未払い報酬を回収できる可能性があります。
しかし動物病院の診療報酬は1件当たりの金額が大きくないため交渉による回収が基本となります。動物病院が直接請求してもはぐらかされてしまうことも多いですが、弁護士が法的な根拠を示して交渉することで法的手段に至らずに回収できることもあります。動物病院にとっては通常業務に支障を来さないことが重要であり、未払い診療費の回収業務は専門の弁護士にアウトソーシングしてしまうことが効果的な対策となります。
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まとめ
・動物病院における診療費の未払いは人間のものとは異なる特徴があります。ペットの場合には全額自己負担が原則であるため診療費が高額となりやすく、そのために未払いが生じやすくなります。
・動物病院の診療報酬請求権には時効があります。2020年4月1日以降の診療に関しては5年で時効にかかる可能性があります。
・動物病院で診療費の未払いがあったら交渉により回収することが基本です。分割払いの約束をしたときには合意書を作成しておきます。
・法的な未払い金の回収手段としては調停、少額訴訟、支払督促等が考えられます。
・動物病院での未払いを防ぐには身分証明書による本人確認や問診票への署名、連帯保証人を付けてもらうこと、弁護士との顧問契約などが有効です。
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動物病院におけるトラブルは治療費の未払いだけではありません。悪質なクレーマーによる被害も深刻な問題となっています。最近ではインターネット上での不当な中傷によるトラブルも増えており投稿の削除など適切な対応を早期に行わなければ動物病院の経営に大きな影響を受けることになります。悪質なケースに対しては損害賠償請求や刑事告訴など毅然とした対応を検討する必要があります。
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