目次
はじめに
差し押さえとはどんな債権回収方法なの?
財産によって方法が異なる?差し押さえの種類とは
動産を差し押さえる「動産執行」という方法
債権を差し押さえる「債権執行」という方法
不動産を差し押さえる「不動産執行」という方法
その他の差し押さえ方法とは?
差し押さえを弁護士に依頼するメリットとは
差し押さえの時間ロスや空振りを防ぐというメリットも
まとめ

 

■ はじめに

債権回収には色々な方法があります。口頭で催促することも方法の一つですし、訴訟をしてその判決でもって回収することも一つの方法であるといえます。
どれくらいの金額でどんな性質の債権であるか、そして相手の返済に対する態度がどんなものなのかによって適切な債権回収の方法が異なります。
例えばAB間で10万円の貸し借りをしたとします。10万円の金額を訴訟で弁護士を代理人に立てて争うことによって回収すれば、回収するための費用の方が高くついてしまう可能性が高いです。
絶対に回収したいと考えるなら、赤字覚悟で弁護士に依頼して訴訟をすることも一つの方法ではありますが、なるべく満額を手元に残したいと考えるなら、適切な方法ではないはずです。
また、債務者が返済日を忘れていただけということであれば、口頭での催促でも債権回収を見込むことができます。しかし、返済日を過ぎても連絡を無視し、債権の存在すら否定するという態度を取っているなら、口頭での催促よりも強力な債権回収方法を選択することが適切であるといえます。
少額訴訟に支払督促、弁護士に同席してもらっての話し合いなど、それぞれの回収方法を債権の性質や債務者の態度によって変えてゆくことが債権回収成功の鍵になるといえます。
今回ご紹介する方法は、数ある債権回収方法の中でもとても強力な方法です。
まさに債権回収の最終手段ともいえるような方法でもあります。債権回収の方法として強制執行を検討している方に、強制執行手続きについてと、強制執行を弁護士に依頼するメリットなどの予備知識を解説します。

■ 差し押さえとはどんな債権回収方法なの?

差し押さえは強制執行に繋げるための前段階ともいえる手続きです。強制執行に上手く繋げるためにも、中身を理解して使いたいものです。
まず基本的なポイントとして、「差し押さえは強制執行をするための前段階」という位置づけであると簡単に覚えておきましょう。その上で、差し押さえと強制執行について知っておきましょう。
差し押さえは、強制執行の前段階ともいえる手続きになります。
お金を貸したのに返済しない債務者の財産に「これから強制執行を考えている」という形で財産に予約を入れます。この予約は、通知や登記によって行われます。財産の種類によってどのように差し押さえがなされるのかが変わります。
重要ポイントとして覚えておきたいのには、差し押さえはあくまで予約のようなもので、差し押さえをしただけで必ず強制執行に進むというわけではないということです。また、差し押さえをしただけでは、債権の回収効果がないということです。
強制執行とは、差し押さえをした財産から債権を回収する強制的な手段になります。
お金を貸したからといって、相手の財産を強制的に奪取することはできません。窃盗になってしまうことでしょう。しかし、裁判所で正式な手続きを踏むことによって、本来なら許されない強制的な手段が可能になります。
こんな場面を想像してみてください。
好きなアーティストのCDが発売されることを知りました。発売前にお店に予約を入れました。
予約を入れることによって予約を入れていないライバルに優先することができました。次に予約を入れた人よりも優先的なCDを取得する権利を得ることもできました。しかし、これはあくまで予約です。予約しただけでCDが自動的に手元に転がり込んでくるわけではありません。予約後は、発売日に取りに行って購入するという流れが必要になります。
この事例を簡単に差し押さえと強制執行に当てはめてみてください。
CDの予約を入れて優先権を手に入れるのが差し押さえだとすれば、実際にCDを手に入れることが強制執行という感じです。いかがでしょう。簡単に差し押さえと強制執行のニュアンスをわかっていただけたでしょうか。

■ 財産によって方法が異なる?差し押さえの種類とは

差し押さえというものの大体のニュアンスを説明したところで、次はもっと具体的な話に移りましょう。
差し押さえにはいくつか種類があります。差し押さえがいずれ強制執行をするために行う財産への予約です。予約は財産の種類のよって方法が変わってきます。
前述した例で考えてみてください。CDの予約、チケットの予約、本の予約と、世の中には品物の数だけ予約方法があることでしょう。それぞれの品物やお店のやり方に従って予約をします。差し押さえも同じで、財産の性質によって予約手続きが変わってくるのだと考えてみてください。
差し押さえには、簡単分類して以下の4つの方法があります。
動産執行
債権執行
不動産執行
その他の差し押さえ方法
参考:
http://www.courts.go.jp/saiban/syurui_minzi/minzi_02_01/ 

・動産を差し押さえる「動産執行」という方法

差し押さえといわれて想像しやすいのがこの動産執行ではないでしょうか。
動産とは、家具や本、服、バッグ、美術品、宝石、時計、楽器といった物のことです。動産執行の対象になる物に関しては民事執行法122条に規定されています。
他には登記することのできない土地の付着物なども動産執行の対象になります。
動産執行の場合は執行官が所在地に赴き、差し押さえを行います。
動産を差し押さえする場合はその住所に赴かないとどんな物があるかわからない状態のため、差し押さえの手続き時は具体的に「A債務者宅の100カラットのダイアモンドがついた指輪を差し押さえてください」というように、個別の物を詳細に記載する必要はありません。
民事執行法99条により、物のある住所を記載してくださいという取り扱いです。
ドラマで執行官が家にやってきて、物に赤札をぺたぺたと貼るシーンを見たことがないでしょうか。これが動産執行です。
ただし、何でもとにかく差し押さえてOKというわけではなく、仏壇や位牌、実印、生活に必要な衣服や寝具、台所用品などは差し押さえの対象外となります。

・債権を差し押さえる「債権執行」という方法

債権執行とは、債権を差し押さえる方法です。債権は目に見えない存在ですから、物のように札を貼って差し押さえをすることができません。
では、どうするのかというと、第三債務者という存在に手伝ってもらう形で差し押さえを行います。
例えばAがBに200万円を貸し付けましたが、まったく返済してくれる様子がなかったとします。Aは、BがCに200万円を貸していることを知りました。そこで、BC間の債権を差し押さえすることにしました。Aが裁判所で債権執行の手続きをすると、Cのもとに債権差し押さえの通知が届きます
本来、CはAB間の貸し借りに関しては無関係のはずです。しかし、債権執行の差し押さえ通知はこのようにCという第三債務者に届きます。ある意味、無関係の第三債務者を巻き込んでしまう方法です。
債権執行のメリットは、換金手続きが必要ないというところです。CがAに対してBに渡すはずだった200万円を渡せば話が決着します。債権執行はよく行われる差し押さえ方法です。
給与の差し押さえや家賃の差し押さえの話を聞いたことはありませんか。「給料債権を差し押さえる」と言えば、聞いたことのある人も多いのではないでしょうか。この場合は債務者に給料を支払う会社が第三債務者になります。
参考:
http://www.courts.go.jp/matsue/vcms_lf/20203003.pdf 

・不動産を差し押さえる「不動産執行」という方法

不動産執行とは、家や土地といった不動産を差し押さえする方法です。まずは裁判所に申し立てることによって不動産を差し押さえ、その後に競売に付すことによって債権を回収します。
競売物件はインターネットやチラシで告知されます。競売物件を欲しいと考える人が入札し、高値をつけた人が落札できるという仕組みです。オークションのようなものです。差し押さえと競売という言葉から、多くの人が連想する手続きではないでしょうか。
参考:
http://bit.sikkou.jp/app/top/pt001/h01/
不動産執行にはもう一つ、強制管理という方法があります。
こちらも同じく裁判所手続きなのですが、不動産を差し押さえて競売で売却するわけではありません。不動産を裁判所が選定した管理人が管理し、賃料などの収益を回収する方法です。
不動産は必ず競売に付す必要はなく、賃料などの安定収入が見込める不動産であれば、この強制管理という方法で回収を図るのも一つの案です。
差し押さえから強制執行の流れは財産の性質によっても異なっています。どんな方法でどのように回収を図るか、事前に弁護士と対策を練っておくことが重要です。

・その他の差し押さえ方法とは?

主に使われる差し押さえ方法は債権執行や不動産執行、動産執行ですが、この他にも財産の種類に応じた差し押さえの方法が存在します。
登録された自動車を差し押さえる方法である自動車執行や、建設機械を差し押さえる建設機械執行、航空機を差し押さえる航空機執行や船舶を差し押さえる船舶執行といった方法があります。
これらは一見して動産のように思えますが、登記や登録ができる物であるため、動産執行のように執行官が赴いて差し押さえをするのではなく裁判所で手続きをすることにより差し押さえを行います。
個人間の差し押さえでは、あまり航空機や船舶を差し押さえるということはないかもしれません。しかし、会社などの法人から債権回収をする場合には、このような差し押さえもあることを覚えておいた方がいいでしょう。
こういった財産を差し押さえて競売に付すためには、スムーズさを考慮して、先に弁護士に相談しておくことをお勧めします。

■ 差し押さえを弁護士に依頼するメリットとは

差し押さえや競売の手続きは個人でも可能です。しかし、やはり専門家である弁護士に依頼する方が安全であり、メリットも大きいです。
法的な知識の必要な手続きをスムーズに進めることができる
空振りを防ぐ
時間ロスを防ぐ
弁護士への依頼は、以上のようなメリットがあります。
前述したように、差し押さえは財産の種類によって方法が異なります。動産には登記簿がありませんから、不動産のように差し押さえの登記をすることができません。
また、不動産と動産は性質の違う財産ですから、それぞれの性質に合った方法で差し押さえをしなければいけません。財産の性質を見極めた上で適切な手続きをしてゆくことは難しいです。
弁護士であれば法律と手続きを熟知していますから、それぞれの財産に合った手続きを迅速に進めることができます。どの段階で何をすればいいかを熟知しているということです。
弁護士に依頼するメリットはこれだけではありません。
皆さんが債権を回収するために強制執行を検討しているとして、債務者にどんな財産をあるかを全て把握しているでしょうか。多くの債権者はおそらくNOと答えるはずです。
家族だって他の家族の財布の中身や所有する口座の中身まで把握しているわけではありません。相続の段になって、どこにどんな財産があるのか慌てて探すということも珍しくないのです。家族でさえこの有様ですから、債権者が赤の他人であれば、債務者の財産を把握しているわけがありません。だからこそ、あるリスクが考えられるのです。

・差し押さえの時間ロスや空振りを防ぐというメリットも

リスクとは、差し押さえが空振りに終わるというものと、時間ロスをしてしまうというものです。
債務者がどんな財産を有しているのかを知っていれば、それぞれに合った方法の手続きをすぐに取ることができます。しかし、どんな財産をどこにどれくらい所持しているかわからないからこそ、差し押さえは難しいのです。
多くの債務者が生活費や公共料金の引き落としなどの関係でどこかの銀行に口座を持っていることを推測できても、それが果たしてどこの銀行のどの支店の口座かを突き止めることは大変です。
不動産を所有しているとしても、持ち家以外の不動産も所有しているのかを知ることはなかなか難しいです。基本的に返済を渋っている債務者は債権者に自分の財産について簡単に教えることはありません。だからこそ考えなければいけないリスクは「時間ロス」と「空振り」なのです。
CD予約の例で考えると、どこにどんな財産があるかわからない状態(どこに入荷するかわからなくて手続きできない状態)だと、他にCDが欲しい人がいた場合、先に予約されてしまう可能性があります。
CDなどの物品の予約も先に手続きした人が基本的に優先ですから、自分が何番目に予約できたかは重要です。差し押さえも、時間ロスをすることによって先に別の人が差し押さえをしてしまい、順位的に優位な立場に立ってしまうことが考えられます。これは債権回収を考えている債権者にとってはリスクに他なりません。
また、いざ差し押さえの手続きをしてみたものの、債権者が「おそらくこの支店に口座があるだろう」と睨んでいた銀行支店に口座がない場合もありますし、口座があっても残高がゼロということもあり得る話です。このように、せっかく差し押さえをしようとしても空振りに終わってしまうというリスクがあります。
弁護士が差し押さえの手続きをしたら絶対にリスクを回避できるというわけではありません。しかし弁護士なら「この後どうしよう」と考えて慌てることはなく、次の手段、次の差し押さえに移行できるわけです。
差し押さえの迅速さで考えると、弁護士に依頼してリスクを低くした上で進めてもらうことが最善です。また、弁護士は差し押さえの経験も豊富ですから、債務者の住所や勤務先などから財産の在処を判断し、空振りせず時間ロスの少ない差し押さえができる可能性が高いのです。これも債権者にとってはメリットになることでしょう。

■ まとめ

債権回収に使える方法には種類があります。その中の一つである差し押さえにも、何を差し押さえるのかによって種類があります。ただし、何を差し押さえるかに関わらず、最終的に強制執行に繋げるための手続きが差し押さえであるといえます。
差し押さえの段階でつまづいてしまうと、上手く強制執行に繋げることが難しくなってしまいます。また、強制執行では、単純に差し押さえた物や権利を換金すればいいというわけではありません。
他の債権者も利害関係に絡んでくる可能性がある他、換金の手続き前で執行停止文書の提出など一定の条件が発生すると手続きがストップしてしまうこともあります。
個人でも差し押さえの申し立ても、強制執行の手続きもできます。ですが、法律をしっかり理解し、他債権者との関係や手続き内容を把握した人でなければ、効果的な差し押さえは難しいです。効果的な差し押さえが難しいということは、効果的な強制執行が難しいこととイコールであると考えることができます。
相手の財産を押さえて強制的に債権を回収するという強力な方法だからこそ、上手く使いたいものです。そのためには、やはりプロに依頼することが一番です。
差し押さえから強制執行の流れをスムーズに進めるため、そして債権回収を成功させるためには経験豊かな弁護士を選びましょう。弁護士なら手続きや法律を理解して、上手く進めることが可能です。きっとあなたの債権回収を成功に導いてくれることでしょう。