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お金の請求権は何年も放置しているとなくなることがあります。他人の物や権利を自分のものだと思って使っていると権利を取得できることもあります。また刑事事件では何年も解決できないと起訴できなくなることがあります。このような効果をもたらす制度を時効といいます。
時効は身近な問題であり基本的な知識は持っておいた方がいいといえます。
この記事では、時効は何年なのかなど主に民事上の時効について解説していきます。
時効とは
時効とは、一定の事実状態がしばらく継続している場合に、その事実状態が真実の権利関係と一致しているか否かに関係なく、その状態を法的に保護しようとする制度です。権利を持っているような状態が継続しているのであれば権利者として認められ(取得時効)、権利不行使の期間が継続しているのであれば権利が消滅したものとして扱われることになります(消滅時効)。
時効制度の存在理由
民事上の時効制度の根拠は主に以下の3点に求められます。
1.法律関係の安定 長期にわたり継続した事実状態を法的に保護することによって社会秩序を維持する必要がある。 2.権利の上に眠るものは保護に値しない 3.立証の困難性の救済 年月が経過することで真実の権利関係の証明が難しくなることから証明の困難さを救済するため。 |
刑事法上は、長期間の経過によって証拠が散逸して裁判が正しくできなくなる恐れや、年月の経過により刑罰を加える必要性が減るからなどの根拠があります。
時効の種類
時効は民事上のものと刑事上のものに大別されます。
民事上の時効
民事上の時効は、「取得時効」と「消滅時効」の2種類です。
取得時効
取得時効とは、ある人が一定期間権利者として振る舞い続けた場合に権利を取得させる制度です。
消滅時効
消滅時効とは、権利を適切に行使しないまま一定期間経過した場合に権利を失わせる制度です。
刑事上の時効
刑事上の時効は、「刑の時効」と「公訴時効」の2種類あります。
刑の時効
刑の時効とは、刑事訴訟において刑を言い渡されたが刑が執行されずに一定期間が経過したときに刑の執行を免除する制度です。有罪判決確定後に逃亡したような場合です。
公訴時効
公訴時効とは、犯罪行為終了時から一定期間起訴されない場合に検察官の訴追権を失わせる制度です。刑事ドラマに出てくる時効は一般的に公訴時効を指しています。
事業者が知っておくべきポイント
事業者に関係するのは主に民事上の時効であるため取得時効と消滅時効について詳しく見ていきます。
取得時効
取得時効が完成することで物の所有権やその他の財産権を取得することができますが、そのためには以下の要件を満たす必要があります。
1.所有の意思をもってする占有があること(自主占有) 所有の意思の有無は占有取得の原因となった事実により客観的外形的に決まります。例えば、賃借人は客観的に見て所有の意思があるとはいえません。 2.平穏かつ公然の占有であること 脅し取ったような場合には平穏とは言えませんし、物を隠していたのであれば公然とは言えません。 3.占有開始時に善意無過失であること(10年の取得時効の場合) 占有開始時に善意無過失だったときは時効期間が10年となります。そうでないときは20年です。権利があると信じ過失がないことを善意無過失といいます。 4.占有期間が一定期間(10年又は20年)継続したこと |
※所有権以外の財産権については自己のためにする意思をもって権利を行使することが必要です。
これらの要件を満たした後に時効の援用が必要となります。時効の援用とは、時効により利益を受ける人がその利益を受ける意思を表示することです。
消滅時効
権利を持っていても何年もの間放置していると消滅時効にかかることがあります。消滅時効は2020年4月1日に改正法が施行されています。改正前の民法上の時効期間は原則として権利を行使できる時から「10年間」されていましたが変更されています。また改正前は業種ごとに細かく短期消滅時効が規定されていましたが廃止されました。ただし、改正前に発生した債権については旧法の規定が適用されます。
短期消滅時効については、「債権回収、借金には、時効がある!消滅時効とその対処方法について解説!」をご参照ください。
現行の民法上の債権消滅時効期間(原則)
起算点 |
時効期間 |
権利を行使できることを知った時から |
5年 |
権利を行使することができる時から |
10年 |
債権又は所有権以外の財産権の消滅時効期間
起算点 |
時効期間 |
権利を行使することができる時から |
20年 |
※所有権は他人に時効取得されることはありますが消滅時効にはかかりません。
不法行為の時効期間
|
起算点 |
時効期間 |
原則 |
被害及び加害者を知った時から |
3年 |
不法行為の時から |
20年 |
|
生命、身体侵害の場合 (債務不履行も同様) |
知った時から |
5年 |
権利を行使することができる時から |
20年 |
判決で確定した権利の時効期間
確定判決又は同一の効力をもつものにより確定した権利については、10年より短い時効期間の定めがあっても10年となります。権利が公に確定するからです。
※時効期間はここに掲げたものだけではありません。例えば、労働基準法上の債権や電子記録債権など時効期間が異なるものがあります。
<関連記事>損害賠償請求権とは?損害賠償債権の回収について詳しく解説
時効の注意事項
時効は期間が経過しただけでは当然には効果が生じません。時効の効果を得るには援用が必要です。
時効の援用
時効の援用とは、時効の利益を享受する旨の意思表示です。「時効により支払い義務はない」、「時効によって権利を取得した」などの意思表示を相手方にすることです。時効の援用は口頭ですることも可能ですが証拠に残すために内容証明郵便を使うことも検討します。
時効を援用する際には時効期間が経過しているかよく確認する必要があります。時効期間や起算点はケースによって異なるため数え間違えることがあります。もし時効の援用に失敗すると時効が迫っていることに相手が気づいて後述する時効対策をとられる可能性があります。
時効期間は更新されることがあるため時効期間がリセットされていることに気づかずに援用してしまうこともあります。
また、時効に関して相手の権利を認めてしまうと時効期間がリセットされる点に注意が必要です。時効期間が経過した後に権利を承認した場合にも援用できなくなります。
<関連記事>内容証明郵便を出す方法や費用は?弁護士に依頼するメリットも解説
時効を防ぐ方法
何年も権利を行使していないと時効によって失う恐れがあります。しかし当初の時効期間が経過したとしても時効が成立するとは限りません。時効は阻止することが可能だからです。時効を阻止する方法には、「完成猶予」と「更新」の2種類があります。
時効の完成猶予
時効の完成猶予は、一定の事実があるときに一時的に時効の完成が猶予される制度です。旧法時代は時効の「停止」といわれていました。
完成猶予事由 |
猶予期間 |
裁判上の請求、支払督促、訴訟上の和解、民事調停、家事調停、破産手続参加、再生手続参加、更生手続参加 |
・事由終了まで ・確定判決や同一の効力を有するものにより権利が確定せず事由が終了したときは終了時から6か月経過するまで |
強制執行、担保権実行、換価のための競売、財産開示 |
・事由終了まで ・申立ての取下げや取消しにより事由が終了したときは終了時から6か月経過するまで |
仮差押え、仮処分 |
事由終了時から6か月経過するまで |
催告
|
催告から6か月経過するまで ※猶予中の再度の催告は猶予されない |
権利について協議を行う旨の書面、電磁的記録による合意 ※1再度の合意可能(通算5年以内まで) ※2催告猶予中は合意による猶予はない ※3合意による猶予中は催告による猶予はない |
下記のいずれか早い時まで ・合意から1年経過した時 ・合意において定めた期間を経過した時(1年未満に限る。) ・一方から協議を拒絶する旨の書面、電磁的記録による通知がされたときは通知から6か月を経過した時 |
(未成年者・成年被後見人に対する時効) 時効期間満了前6か月以内に法定代理人がないとき |
未成年者・成年被後見人が行為能力者となった時又は法定代理人が就職した時から6か月経過するまで |
(未成年者・成年被後見人からその財産を管理する父母又は後見人への権利)
|
未成年者又は成年被後見人が行為能力者となった時又は後任の法定代理人が就職した時から6か月経過するまで |
(夫婦の一方が他の一方に対して有する権利) |
婚姻の解消時から6か月経過するまで |
(相続財産に関する時効) |
相続人が確定した時、管理人が選任された時又は破産手続開始決定時から6か月経過するまで |
天災その他避けることのできない事変 |
障害が消滅した時から3か月経過するまで |
時効の更新
時効の更新があると時効期間を最初から数え直すことになります。以前は「中断」といいました。時効を阻止するには時効の更新が重要です。
更新事由 |
効果 |
確定判決やそれと同一の効力を有するものによる権利の確定※ |
時効期間のリセット(10年) |
強制執行、担保権の実行、換価のための競売、財産開示手続 (申立ての取下げ、取消しがあったときを除く) |
時効期間のリセット |
債務者による権利の承認 |
※裁判上の請求、支払督促、民事訴訟法の和解、調停、破産手続参加、再生手続参加又は更生手続参加の場合
<関連記事>消滅時効援用における「債務の承認」とは?分かりやすく解説
まとめ
・時効とは、一定の事実状態が継続している場合にその状態が真実の権利関係と合致しているか否かを問わず法的な保護を与える制度です。
・時効は民事上の時効や刑事上の時効があります。
・権利を与えるものを取得時効、権利を消滅させるものを消滅時効といいます。時効期間は権利によって異なります。
・時効は援用することで効果が認められます。
・時効期間は猶予されることやリセットされることがあります。
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