根抵当権は抵当権の一種です。いずれもある程度大きな金額の債権を担保するために主に不動産に対して設定される担保物権です。しかし抵当権は住宅ローンなどの単発の債権を担保するのに利用されるのに対して根抵当権は事業者向きの担保権といえます。

この記事では、根抵当権とは何かについて抵当権との違いなどを解説していきます。

 

根抵当権とは

根抵当権とは、不特定の債権を一定の限度額の範囲で担保する抵当権の一種です。ただし、将来の債権を際限なく担保できてしまうと設定者や他の債権者を害する恐れがあることから根抵当権の設定契約において債権の範囲や担保される限度額を定めることになっています。担保される限度額のことを「極度額」といいます。つまり根抵当権とは極度額の範囲内で継続的に発生する債権を担保するための抵当権といえます。企業が運転資金を継続的に借り入れるようなケースで利用されます。

 

抵当権との違い

普通の抵当権も根抵当権と同様に債権担保のために主に不動産に設定されて債務の履行が滞った場合には担保物の競売等により債権回収を行っていきます。しかし担保する債権の範囲が異なることから以下のような違いが生じます。

 

借入金額が明確かどうか

抵当権は特定の債権を担保するため債務額が明確です。一方で根抵当権の場合には将来の債権を含む不特定の債権を担保するため根抵当権設定時には債務額が不確定です。もっとも極度額の範囲で担保されることから根抵当権設定者(担保提供者)や他の債権者は担保される責任の上限を把握することができます(極度額は登記事項です。)。

 

担保対象となる債務の範囲

抵当権は住宅ローンのような特定の債権を担保します。そのため対象となった債務を完済すれば抵当権も消滅することになります。一方で根抵当権の場合には不特定の債権を担保するため継続的に発生する複数の債権を担保可能です。

 

合意による登記の抹消

抵当権を設定した場合には第三者に対抗するために抵当権設定登記も必要となります。登記をしておかないと抵当権が否定されたり優先弁済を受けられなくなったりするからです。普通の抵当権は債務が完済されると権利が消滅するため設定者は抵当権者に抹消登記手続きを請求することができます。一方で元本確定前の根抵当権の場合には不特定の債権を担保するため既存の債権を完済したとしても消滅しません。そのため根抵当権設定登記を抹消するには根抵当権者との間で根抵当権を消滅させる合意をして抹消登記手続きをしていくことになります。

 

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根抵当権の対象となる範囲

根抵当権は不特定の債権を担保しますが一定の制限があります。

 

被担保債権の範囲

根抵当権は不特定の債権を担保するものですが一定の範囲を定めることが必要とされています(被担保債権の範囲、民法398条の2)。つまり根抵当権者と債務者との間に発生するあらゆる債権を担保することはできません(包括根抵当の禁止)。包括根抵当は強力すぎて根抵当権設定者や他の債権者を害する恐れがあるからです。被担保債権の範囲として以下のものが認められています(同条2項、3項)。

 

・債務者との特定の継続的取引契約によって生じるもの(例、年月日電気製品供給契約)

・債務者との一定の種類の取引により生じるもの(例、金銭消費貸借取引)

・特定の原因に基づき債務者との間で継続して発生する債権(例、X工場の廃液による損害賠償債権)

・手形債権、小切手債権、電子記録債権

・これらの債権とともに担保する特定債権(登記先例。例、年月日売買代金)

 

極度額

根抵当権者は、根抵当物件が競売されたとしても代金の全額を受け取れるわけではありません。根抵当権設定契約の中で担保される債権の上限額を定めることが必要とされています(極度額)。貸付金などの債権は弁済期までの利息や支払いが遅れた場合の損害金が生じることもあります。極度額は元本だけではなく利息や損害金等を含めた全額の担保限度額です(民法398条の3第1項)。普通の抵当権の場合には利息や損害金について最後の2年分も担保されます(375条)。根抵当権の場合には極度額の範囲内ではありますが年数に関わらず利息、損害金が担保されることになります。

 

付加して一体となっている物

根抵当権の効力は根抵当権がついている土地や建物はもちろん、そこに付加して一体となっている物に及んでいます(民法370条本文)。ただし、土地に根抵当権を設定したとしてもその上の建物は当然には対象とはなりません。建物は独立の不動産であり別途根抵当権を設定する必要があります。

例えば、土地に根抵当権を設定した場合において、取り外しの難しい庭石などが設置されているときはその庭石には独立性がなく土地の構成部分として根抵当権の効力が及ぶのが原則です(付合物、民法242条)。また独立性があり構成部分と呼べない物(従物)であっても根抵当権を設定する段階で土地や建物に付属している物があれば根抵当権の効力が及ぶのが原則です。根抵当権を設定した後に附属させた物についても根抵当権の効力が及ぶ可能性もあります。

 

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根抵当権を設定するメリット

根抵当権を設定する大きなメリットは、不特定の債権を担保することができる点にあります。既発生の債権に限らず将来発生する債権であっても契約で定めた範囲の債権であれば極度額の範囲で広く担保することが可能であり継続的な取引をする場合には抵当権よりも優れています。普通の抵当権であれば融資など取引のたびに抵当権の設定契約も結び直さなくてはならず登記申請手続きも必要となります。特に登記申請手続きは手間や時間、費用がかかるため継続的な取引には注意が必要です。根抵当権であれば個々の取引によって生じた債権債務が消滅したとしても根抵当権自体は消滅しないため労力や費用を抑えることができます。

 

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根抵当権を設定する手続き

根抵当権を設定するには、1.根抵当権設定契約、2.根抵当権設定登記申請手続きが必要となります。

 

根抵当権設定契約

根抵当権を設定するには、根抵当権者と根抵当権設定者(担保提供者)が根抵当権設定契約を締結する必要があります。根抵当権設定契約では、極度額、被担保債権の範囲、債務者を必ず合意しなければなりません(必要的約定事項)。他にも元本の確定期日などがあれば契約書にまとめます。

 

・極度額

・被担保債権の範囲

・債務者

・根抵当権の元本確定期日

・担保物の特定、担保権設定者

・対抗要件の具備(登記等)

・担保物の滅失時の対応、等

 

元本確定期日

根抵当権は不特定の債権を担保しますが最終的に担保される債権は元本の確定によって決まります。元本が確定されると確定後に生じる債権は根抵当権の対象外となります。つまり元本の確定により元本確定時に存在する特定の債権を担保するものに変わります。根抵当権の元本確定事由には以下のようなものがあります。

・元本確定期日

・元本確定請求

根抵当権者や設定者からの請求により元本が確定することがあります(民法398条の19、9第3項、10第3項)。

・元本確定事由

債務者や設定者が破産手続開始決定を受けた場合など一定の事実があると確定します(民法398条の20)。

元本確定期日を定めるとその日に元本が確定することになります。また元本確定請求が制限されます(398条の19第3項)。

 

根抵当権設定登記申請手続き

根抵当権を第三者に対抗するには登記をする必要があります(対抗要件の具備)。根抵当権設定登記を申請するには以下のような書類が必要です。

・登記原因証明情報(根抵当権設定契約書)

・登記義務者の登記識別情報(登記済証、不動産登記法22条)

・登記義務者の印鑑証明書(作成後3か月以内のもの)

など

 

登記申請には登録免許税がかかります。根抵当権の登録免許税は極度額の1000分の4(0.4%)を乗じた額とされています。例えば、極度額が1,000万円であれば4万円の登録免許税が必要となります。

 

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まとめ

根抵当権とは、不特定の債権を一定の限度額の範囲で担保する抵当権の一種です。ただし包括根抵当は禁止されているため一定の債権の範囲を設定契約で定める必要があります。

・普通の抵当権は特定の債権を担保するため借入金などを完済すると消滅してしまい登記も抹消しなければなりませんが、根抵当権は個々の債権を完済したとしても消滅しないためその都度登記手続をしなくて済みます。

・根抵当権は極度額を設定する必要があり利息や損害金も含めてその範囲で担保されます。

・根抵当権は事業上の取引のように継続的に発生する債権を担保するのに向いています。

・根抵当権は第三者に対抗するために登記手続きが必要です。

 

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