法人の倒産手続きには「民事再生手続」や「会社更生手続」のような再建型の手続きと、「法人破産」のような清算型に分かれます。法人破産は財産を清算して法人格を消滅させるため借金などの債務もなくなります。支払不能や債務超過に陥っている場合には早めに専門の弁護士に相談して対応を検討することが大切です。

 

この記事では、法人破産の手続きや流れについて解説していきます。

 

法人破産とは

法人破産とは、支払不能や債務超過に陥った法人について、その財産を破産管財人が管理、処分(換価)することで総債権者に公平に分配する手続きのことです。法人の倒産手続きとしては民事再生や会社更生手続きもありますが、これらは経営の再建を図ることを前提とした手続きであるのに対して、法人破産の場合には法人を清算して消滅させる点で異なります。

 

個人破産との違い

法人破産と個人の破産との違いには以下のようなものがあります。

 

 

法人破産

個人破産

免責手続き

なし(当然に責任消滅)

手続きを経て免責が決まる

税金の支払責任

なし(当然に責任消滅)

原則残る

職業制限

ない

あり

財産の扱い

全財産が処分対象

一定の財産は残せる

 

法人破産の場合には会社などの法人は清算されて消滅することになります。そのため借金などの債務は消滅することになります。税金の支払い義務も同様です。

個人破産の場合には、破産したとしても人格が消滅するわけではないため清算後の残債務の取り扱いが問題となります。個人破産の場合には免責決定を受けることで借金などの支払い責任がなくなります。法律に規定されている免責不許可事由があるときには原則として免責されません(裁量により免責されることはあります。)。また免責許可決定が確定したとしても税金等一部の支払い責任は残ります。

 

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法人破産の条件

法人破産の手続きを開始してもらうためには以下の条件を満たしている必要があります。

 

・支払不能(破産法15条1項)

または

・債務超過(16条1項。一部人的会社を除く(同条2項))

 

支払不能の状態

支払不能とは、債務者が支払い能力を欠くために債務のうち弁済期にあるものについて一般的かつ継続的に弁済することができない状態のことをいいます(破産法2条11項)。「一般的」に弁済できない状態でなければならないので一部の債務が弁済できないだけでは不十分です。また「継続的」に弁済できない状態でなければならないので一時的に支払いができないのでは足りません。

債務者が「支払いを停止したとき」は支払不能と推定されます(15条2項)。弁護士から支払い停止を通知した場合や、手形の不渡りによる銀行取引停止処分があったような場合です。

 

債務超過の状態

債務超過とは、債務者が、その債務について、その財産により完済できない状態のことをいいます(16条1項かっこ書き)。つまり資産の合計を負債が上回っている状態です。債務超過は法人の破産原因ではありますが解消の見込みがあれば破産の必要はありません。経営再建の道が残されていることもあるため早めに企業法務に強い弁護士に相談されることをおすすめします。

 

法人破産のメリット・デメリット

法人破産にはメリットとデメリットがあります。

 

法人破産のメリット

法人破産には以下のようなメリットがあります。

 

・取り立てから解放される

・返済する責任がなくなる

・新しくやり直すことが可能

 

取り立てからの解放

法人破産を弁護士に依頼すると債権者に対して「受任通知」を行います。弁護士が債権者からの連絡窓口となるため債権者からの直接の取り立てを防ぎ心理的ストレスを減らすことができます。また債権者に対する支払いを停止するため破産手続きに充てる費用をねん出しやすくなります。

 

返済義務がなくなる

法人破産により借金や買掛金などの債務自体から解放されることになります。民事再生などほかの債務整理手続きでは返済義務が残りますが法人破産であれば返済義務をなくすことが可能です。

 

新しくやり直すことが可能

法人破産によりこれまでの組織がなくなることから新たにやり直すことになります。新しく事業を起こす選択肢もあります。

 

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法人破産のデメリット

法人破産には以下のようなデメリットもあります。

 

・従業員の解雇が必要

・事業の継続ができなくなる

・個人破産が必要となるケースもある

 

従業員の解雇が必要

法人破産により組織が消滅してしまうため従業員を解雇することになります。解雇する際には所定の手続きをとる必要があります。トラブルを避けるためには弁護士に相談することが大切です。

 

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事業の継続ができない

法人破産をすることで法人格が消滅してしまいます。そのためこれまで行ってきた事業も続けることができません。

 

個人破産が必要なことがある

法人破産をする際に代表者など関係者の個人破産が必要なことも多くあります。法人が金融機関から融資を受ける際に代表者が個人で連帯保証人となるケースが多くあるからです。連帯保証人となっている法人が破産した場合には債権者は連帯保証人に支払いを求めることになります。個人資産で賄えない場合には連帯保証人も同時に自己破産を検討することになります。また代表者が自己破産した場合にその人の住宅ローン等の連帯保証人となっている人も自己破産が必要となることがあります。

 

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法人破産の手続きの流れ

法人破産は一般的に以下のような流れで行われます。

 

弁護士への依頼

法人破産をする際には弁護士に相談することからはじめます。費用面を心配されて自力で手続きをしようとする方もいらっしゃいますがおすすめできません。破産手続きは簡単とは言い難く特に法人破産は法律関係が複雑なケースが多いからです。また法人破産は破産管財人が選任されることが通常ですがその際に少額管財と呼ばれる負担の少ない手続きが採用されることがあります。少額管財は弁護士が代理人となって申立てを行うことが求められています。少額管財が採用される可能性を高めるためにも弁護士に相談されることをおすすめします。

 

法人破産の申し立て

申立て書類を用意して裁判所に対して破産手続きの申立てを行います。破産手続きには破産管財人の報酬等に充てるための予納金も必要となります。

 

債務者審尋

破産手続きを開始すべきか判断するために債務者から話を聞く手続きが「破産審尋」です。申立書の内容や、破産申し立てをせざるを得なくなった理由、負債や債権者の人数、資産や収入の状態など破産手続開始原因を確かめるために実施されます。

 

破産管財人の選任・引き継ぎ

破産原因があることが確認できた場合には原則として破産手続開始決定がなされます(破産法30条1項柱書)。ただし破産手続きの費用の予納がないときや不当な目的で破産手続開始の申立てがされたようなときには手続きは開始されません(同項1号、2号)。破産手続開始決定がされると同時に破産管財人が選任されます(31条1項柱書)。破産管財人は法人の財産の調査を行い(83条)、配当原資に充てるため財産の売却等を進めます。破産財団に属する財産の管理や処分権限は破産管財人に移ります(78条1項)。

 

債権者集会

債権者の意思を破産手続きに反映させるための手続きとして債権者集会というものがあります(135条以下)。債権者集会は裁判所の一室で開かれ裁判所の指揮の下で行われます(137条)。破産者の財産の状況や破産するに至った理由、配当の有無や金額などについて破産管財人から報告がなされます。法人の代表者は債権者集会に出席して説明する義務があります(40条1項3号)。

 

債権者への配当手続き

破産管財人が財産を処分して換価された金銭を債権者に分配します。配当は法律上の優先順位や債権額に応じて行われます。

 

破産手続きの終了

配当手続きが完了した場合には破産手続きは終結します。一方で配当に回せる財産がなければ破産手続きは廃止されます(異時廃止)。

 

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まとめ

・法人破産とは、支払不能や債務超過に陥った法人の財産を清算して債権者に公平に配当する手続きです。民事再生や会社更生が経営再建を目的とするのに対し破産は財産を清算し法人格を消滅させる点で異なります。

・個人破産は免責手続きにより債務を免責してもらうのに対して、法人破産は法人格が消滅するため当然に支払い責任も消滅します。個人破産では免責されない税金等の責任もなくなります。

・法人の破産原因は「支払不能」の他に「債務超過」があります。

・法人破産することで「取り立てから解放される」などのメリットがあります。デメリットとしては個人破産が必要となるケースなどがあります。

法人破産は弁護士に依頼して進めることが一般的です。

 

法人破産でお悩みなら弁護士法人東京新橋法律事務所

法人破産は取引先や連帯保証人などの関係者が多いことや資産の調査などが困難なことが多いため早い段階から弁護士に相談することが大切です。民事再生など破産以外の倒産手続きもあることから専門の弁護士に多角的な視点からアドバイスを受けることが有益です。債務超過に陥ったとしても必ず破産するわけではありません。

当事務所は法人破産だけではなく民事再生など企業再構築や、資金調達助言などベンチャー・中小企業の支援にも力を入れています。企業法務でお困りのことがあればお気軽にご相談ください。