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住宅ローンなど通常の借金であれば普通の連帯保証契約を結ぶことになります。しかし身元保証契約や賃貸借契約、継続的な事業用の融資を受ける際には普通の保証契約では目的を達することができません。これらの契約は将来の出来事によって債務の額が変わってしまうからです。このような将来の債務を担保するために根保証契約は必要とされます。しかし根保証契約は保証人に大きな負担となるため法律で規制されています。
この記事では、根保証契約について2020年の民法改正にも触れながら解説します。
根保証契約とは
保証契約とは、主たる債務者が義務を果たさない場合に備えて、債務者に代わって義務を果たすことを約束する合意のことをいいます。
例えば、ローンを組む際に保証契約を結んだ場合には債務者(お金を借りた人)が返済できなくなったときは、債権者(お金を貸した人)は保証人に代わりにお金を返すように請求することができます。もし保証人が支払わないときには財産から強制的に回収するために訴訟を起こしたり強制執行をしたりすることもできます。
連帯保証契約
保証契約には通常の保証契約のほかに、「連帯保証契約」と「根保証契約」というものがあります。連帯保証契約というのは主たる債務者と連帯して債務を負担する約束をする保証契約のことで、債務者と同等の重い責任を負うことになります。通常の保証人の場合には債務者が支払いできないときに責任を負えば足りますが、連帯保証人の場合には当初から支払い責任を負います。
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根保証契約
根保証契約とは、一定の範囲内に属する不特定の債務を主たる債務とする保証契約のことをいいます。普通の保証契約では特定の債務を保証しますが根保証契約では将来発生する債務も対象となります。
例えば、住宅ローンを利用する際にはローン金額が分かっているため通常の連帯保証契約を利用できますが、事業用の資金を借りる際には繰り返し融資を受けるケースでは融資を受けるたびに保証契約を結ぶのは大変です。そこで将来の不特定な債務も含めて保証するのが根保証契約にあたります。
2020年民法改正と根保証契約
2020年に民法の大改正があり根保証契約も改正されています。
根保証契約は将来発生するものを含む不特定の債務を担保するため保証人は想定していない多額の保証債務を負担するおそれがあります。そこで2020年4月1日に根保証契約について重要な改正がありました。
個人根保証契約では極度額の定めが必要
改正法施行後の個人根保証契約では責任の限度額である「極度額」を定めることが必要となりました(極度額の定めは書面で明確にしなければならず違反すると根保証契約は効力が生じません(民法465条の2第2項、3項、446条2項)。
2020年改正前(平成16年民法改正以降)についても主たる債務に貸金等債務(貸金債務や手形割引)が含まれるものについては極度額が必要でしたが対象が広がりました。
2020年4月1日以降に根保証契約が更新になる場合、ケースによっては極度額の定めが必要となる可能性もあるため顧問弁護士に相談されることをおすすめします。
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元本確定事由が個人根保証契約一般に拡大
元本確定とは、根保証債務のような不特定の債務について債務額を確定させることです。2020年改正前は貸金等根保証契約について元本確定事由が定められていましたが、改正により個人根保証契約一般の元本確定事由が定められました(民法465条の4第1項)。個人根保証契約一般の元本確定事由は以下の通りです。
・債権者が根保証人の財産に強制執行や担保権の実行をしたとき(1号) ・根保証人が破産手続開始決定を受けたとき(2号) ・主たる債務者や保証人が死亡したとき(3号) |
※貸金等根保証契約については主たる債務者の破産手続開始決定等も元本確定事由となります(民法465条の4第2項)。
公証人による保証意思確認手続の新設
個人が事業上の貸金等債務を主たる債務とする保証契約や根保証契約をする場合、事前に公証人による保証意思の確認手続きが原則として必要となりました。リスクの高い事業用融資について十分に理解せずに根保証契約をしてしまう人が後を絶たないためです。
一方で事業に深く関与している人については保護の必要性が低いため対象外となっています。
主債務者 |
保証意思確認手続が要らない人 |
法人 |
理事、取締役、執行役等、総株主の議決権の過半数を有する者等 |
個人 |
共同事業者、主債務者が行う事業に現に従事している主債務者の配偶者 |
根保証契約が利用されるケース
根保証契約は主に以下の4つのケースで利用されます。
・身元保証契約 ・賃貸借契約 ・事業上の融資 ・事業上の継続的取引 |
身元保証契約
雇用契約を結ぶ際に被用者が使用者に損害を与えた場合に備えて身元保証契約がなされることがあります。将来の損害が不明であることから多額の保証債務を負ってしまうことがあるため「身元保証に関する法律」により保証期間などの制限が設けられています。しかし契約時点で債務額が明確にはわからないという問題がありました。
2020年4月1日の民法改正法施行後に結ぶ身元保証契約についても極度額の定めが必要となります。
賃貸借契約
建物や土地などの不動産賃貸借契約においても賃借人の債務を担保するため根保証契約がよく使われます。将来の賃料債務や用法義務違反による損害などは保証契約時点で確定できないため「一定の範囲に属する不特定の債務」(民法465条の2第1項)になるからです。
賃借人が賃料支払い義務などの債務を履行しない場合には根保証人に対して賃貸人は支払いを請求することができます。
2020年4月1日以降の根保証契約では極度額の定めが必要となります。
事業上の融資
根保証契約は事業用の融資を受ける際によく利用されます。通常の保証契約では借入債務を返済してしまうと保証債務の付従性により保証契約も終了となるため借り入れのたびに保証契約をし直す必要があります。
一方で根保証契約であれば契約の範囲内で新規の借り入れについても保証されるメリットがあるからです。
前記したとおり個人による事業用の融資に関する保証契約や根保証契約については公証人による保証意思確認手続きが原則必要です。
事業上の継続的取引
根保証契約は企業間の取引債務を担保するためにも利用されます。取引先と継続的に売買や請負などをする場合に経営者個人と根保証契約をするような場合です。
主たる債務者が事業のために負担する債務について個人に根保証契約を委託するときは、その際に一定の情報提供義務が生じます。
情報提供義務に関しては、「保証契約とは?連帯保証契約との違いや民法改正のポイントを分かりやすく解説」をご覧ください。
根保証契約書のひな形
根保証契約書のポイントは、「主債務の範囲」と「極度額」です。
<記載例>
第1条(連帯保証) 乙(連帯保証人)は、甲(債権者)に対し、丙(債務者)が甲に対して負担する下記の債務について、丙と連帯して保証する。 記 債務の範囲 甲、丙間の(令和〇年〇月〇日付)〇〇契約に基づく債務 第2条(極度額) 極度額は〇〇万円とする。乙は、主たる債務の元本、主たる債務に関する利息、違約金、損害賠償その他その債務に従たるすべてのもの及びその保証債務について約定された違約金又は損害賠償の額について、その全部に係る極度額を限度に責任を負う。 |
※契約によって適切な内容は変わります。根保証契約を締結する際には顧問弁護士にご相談ください。
主債務の範囲
誰の誰に対しての債務についてどの範囲で保証するのか明確に定める必要があります。また債権回収の観点からは「連帯」して保証するとの文言が重要です。
極度額
2020年4月1日以降の個人根保証契約では極度額を明確に定める必要があります。書面又は電磁的記録で極度額を定めておかないと根保証契約は無効となります(民法465条の2)。
このほかに必要に応じて元本確定期日などを定めていきます。
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まとめ
・根保証契約とは、一定の範囲内に属する不特定の債務を主たる債務とする保証契約のことです。つまり将来発生する賃料債権などを保証する契約です。
・2020年4月1日以降の個人根保証契約では極度額の定めが必要であり書面等で合意しなければ無効になります。また個人根保証契約一般に元本確定事由が定められました。
・根保証契約が主に利用されるケースとして、「身元保証契約」、「賃貸借契約」、「事業上の融資」、「事業上の継続的取引」があります。
債権回収でお悩みなら弁護士法人東京新橋法律事務所
根保証契約を結ぶ際は保証人候補者の属性に注意する必要があります。主たる債務者と関係が近いほど経済的な結びつきも強いため主たる債務者が倒産すると根保証人も自己破産することがあるからです。できれば物的な担保や債権譲渡担保なども検討します。担保が事前に取得できないときには先取特権が利用できることもありますが平時から備えていないと対応が難しくなります。
債権回収に備えるには企業法務や債権回収に強い弁護士と顧問契約を結ぶことをおすすめします。
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