
目次
お金を貸したり、物を売ったりした場合に債務者(支払う義務のある人)が支払いをしてくれるか不安になります。債務者が約束を守ってくれないときには担保権があればお金を回収しやすくなります。担保というと不動産などの物をイメージすることが多いかもしれませんが、債権を担保にしたり人的な担保をとったりすることもあります。また事前に担保をとる契約をしていなくても担保権が発生することもあります。
この記事では担保権の種類など基本的なポイントを解説していきます。
担保権とは
担保権とは、債務者が約束どおりに債務を履行しない場合に、一定の財産から弁済を受けられる権利のことです。つまり、借金の滞納などがあった場合に備えて債権回収の確実性を高めるための仕組みのことです。担保権というと抵当権や質権などの物的な担保を指すことが多いですが保証人も担保の一種であることからこの記事では保証人も含めて広く担保権として扱います。
物的な担保の場合には、担保を提供する人のことを担保権設定者といいます。担保権設定者は債務者自身のこともあればそれ以外の第三者のこともあります。第三者の担保権設定者のことは物上保証人とも言います。物上保証人は通常の保証人とは責任が異なる点に注意が必要です。
物上保証人について詳しくは「物上保証人とは?連帯保証人との違いを分かりやすく解説」をご参照ください。
物的担保の種類
担保権には物的担保と人的担保の2つのタイプが存在します。物的担保は、特定の物や権利が担保になるものです。債務者が約束を守ることができなければその物や権利を売却するなどして債権を回収していきます。人的担保の場合には保証人個人の経済力に左右されるため債権回収の確実性は物的担保のほうが優れています。
物的担保は当事者の契約によって設定する約定担保物権と法律上の要件を満たすことで当然に生じる法定担保物権の2種類があります。
抵当権
抵当権とは、主に不動産を目的に設定することで優先的に弁済を受けられる担保権です。当事者の契約によって設定されるため約定担保権の一種です。債務者が弁済しないときには目的物の競売代価や物上代位により債権回収をしていきます。抵当権は担保物を担保権設定者のもとに留めておき引き続き利用できるというメリットがあります。そのため住宅ローンなどに広く活用されています。事業用融資のように繰り返し債権が発生するものについては根抵当権という担保権が向いています。
<関連記事>担保における「物上代位」とは?わかりやすく解説
質権
質権とは、債務者や第三者から担保として物を引き渡してもらい、債務者が弁済を怠ったときにはその物から優先的に弁済を受けられる担保権です。当事者の契約によって設定される約定担保権の一種です。弁済がされるまで債権者は目的物を留置することができるため間接的に弁済を促す効果があります。質権の対象となるものは一般的には動産がイメージされますが不動産や債権など譲渡できるものであれば設定することができるため抵当権よりも範囲が広くなっています。一方で担保物は債権者に預けられるため担保権設定者が利用し続けたい場合には向いていない担保権といえます。
先取特権
先取特権とは、特に保護する必要がある特殊な債権について、法律の規定により一定の財産から一般債権者よりも優先して弁済を受けられる担保権です。法律の規定によって取得されるため法定担保物権の一種です。例えば、給料を請求できる権利については「雇用関係」の先取特権(民法306条2号、308条)として他の一般債権者より優先して弁済を受けられます。事前に担保権を取得しにくいケースでは有力な担保権となります。
先取特権について詳しくは、「先取特権とは?概要を分かりやすく解説」をご参照ください。
留置権
留置権とは、他人の物を占有している人が、その物に関して生じた債権を有するときに、その債権の弁済を受けるまでその物を留置することができる権利です。ただし、債権の弁済期が未到来のときや占有が不法行為により始まったときを除きます(295条)。法律上当然に生じるため法定担保物権に当たります。例えば、修理を依頼されて物を預かった場合、修理をしたのに代金を支払ってもらえないときは、支払いを受けるまで物の返還を拒むことができます。
譲渡担保
譲渡担保権とは、担保の目的で動産や債権その他の財産を債権者に譲渡して、債務者が弁済できなかったときはその財産から優先弁済を受けられる権利です(譲渡担保契約及び所有権留保契約に関する法律2条1号、3号、3条)。例えば、動産に譲渡担保権を設定した場合、質権とは異なり担保権設定者が引き続き担保物を利用できるメリットがあります。
これまで譲渡担保権は法律上明確な規定がありませんでしたが、動産や債権を担保にとる必要性が高まっていることから2025年に譲渡担保法が成立公布されました(施行日は2025年6月6日から起算して2年6月を超えない範囲内において政令で定める日)。
<関連記事>譲渡担保とは?2つの種類、抵当権や質権との違いを解説
人的担保の種類
人的担保とは、債務者以外の第三者にも責任を負ってもらい債務の弁済を請求できるようにする担保の方法です。つまり、債務者本人が支払えないなら代わりに支払ってもらうという方法です。保証人がこれに当たりますがいくつか種類があります。
単純保証
単純保証は通常保証ともいい、本来の債務者が約束を果たさないときに保証人が代わりに責任を負う仕組みのことです。ただし、単純保証人の責任を追求するのは簡単ではありません。単純保証人が債権者から請求を受けたときには「まず債務者に請求してくれ」と主張する権利(催告の抗弁権)や、「先に債務者の財産を差し押さえてくれ」と主張する権利(検索の抗弁権)というものがあるからです。そのため保証人を立てる場合には連帯保証にすることが一般的です。
連帯保証
連帯保証は、保証人が債務者本人と連帯して債務を負担する立場となる保証契約のことです。主債務者と責任が同じになることから催告の抗弁権や検索の抗弁権が使えず債権回収が容易となります。
根保証
根保証というのは、一定の範囲内の不特定の債務を担保する保証契約のことです。賃貸借契約などで利用されます。ただし、家賃の滞納がいくら位になるのか明確ではないため保証人保護の観点から個人根保証契約では保証の限度額を定めるなど一般の保証よりも契約の条件が厳格になっています。
根保証について詳しくは、「根保証契約とは?民法改正の影響を分かりやすく解説」をご参照ください。
担保権を設定する手続き
担保権を設定するためには一定の契約を締結します。
物的担保
物上担保権であれば目的の担保権について設定者と担保権設定契約を結びます。担保権設定契約では以下の点に留意して契約書に落とし込みます。
・担保権の種類 ・被担保債権の特定(どの債権を担保するのか) ・担保物の特定、担保権設定者 ・対抗要件の具備(登記等) ・担保権の実行方法 ・担保物の滅失時の対応、等 |
担保権は第三者に対抗するために対抗要件の具備が必要です。不動産の場合には登記が対抗要件となります(民法177条)。動産担保権の場合には原則として引渡しが対抗要件となります(178条、質権は継続占有253条)。債権の第三者対抗要件は原則として確定日付ある証書(内容証明等)による通知・承諾です(467条、364条)。
債権の第三者対抗要件については、「債権譲渡とは?流れや対抗要件を分かりやすく解説」をご参照ください。
人的担保
人的担保であれば保証人との間で保証契約を締結します。保証契約では以下の点に留意します。
・書面または電磁的記録で契約すること ・連帯保証である旨を明記する、等 |
保証契約は書面または電磁的記録によってしなければ効力が認められない点に注意が必要です(民法446条2項、3項)。
<関連記事>抵当権設定登記とは?費用や手続きの流れを詳しく解説
担保権を実行する手続き
担保権の実行方法は物的担保と人的担保で異なります。
物的担保
物上担保権の実行は裁判所で手続きをとり競売して代金から債権回収をするのが原則です。裁判所に登記事項証明書等を提出したり執行官に担保物を提出(動産)したりすることで実行し差押えがなされます(質権については簡易な弁済充当(民法354条)という方法もあります。)。債権質等であれば直接債権を取り立てることになります(民法366条)。
<関連記事>不動産(土地・建物)の差し押さえとは?方法と流れを分かりやすく解説
人的担保
連帯保証人に対しては債務者と同等の責任を負っているため直接連帯保証人に対して弁済を請求することになります。自分から支払いに応じてくれない場合には訴訟を起こして最終的には預金や不動産等の財産に対して強制執行をして回収していくことになります。
<関連記事>強制執行とは?種類・手続きの流れ・必要書類を徹底解説
まとめ
・担保権とは、債務が履行されない場合に債務者や第三者の財産から優先的に弁済を受けられる権利です。
・担保には物的担保と人的担保の2種類があります。
・物的担保には契約によって担保権が発生する約定担保権と、法律の要件を満たすことで当然に発生する法定担保権があります。
・人的担保は保証契約によって取得します。保証には単純保証と連帯保証の違いがありますが通常は連帯保証が利用されます。
・債権額、相手の財産の状況、担保権実行の手間や費用などを考慮して担保の対象を選択します。
債権回収でお悩みなら弁護士法人東京新橋法律事務所
当事務所は債権の回収に強い事務所です。
依頼者様のブランドイメージを守りながら債権回収を行います。
当弁護士法人は、企業法務、債務整理、離婚、相続、刑事事件など幅広く法律問題に対応しております。お困りのことがあればお気軽にご相談ください。
債権回収以外の主な取り扱い案件については、こちらのページをご覧ください。
※記事の内容は執筆された当時の法令等に基づいております。細心の注意を払っておりますが内容について保証するものではありません。お困りのことがあれば弁護士に直接ご相談ください。