
目次
契約を相手方に守ってもらえないことがあります。このような契約違反の状態を「債務不履行」といいますが、これにより損害を受けたときには相手方に賠償を請求できる可能性があります。債務不履行に基づく損害賠償請求をするには一定の要件を満たす必要があります。また債権には時効がありその一種である債務不履行による損害賠償請求権も適切に行使しないでいると時効にかかることがあります。
この記事では、債務不履行に基づく損害賠償請求について要件や時効について解説します。
債務不履行に基づく損害賠償とは
債務不履行による損害賠償とは、契約などによって定められた義務(債務)を実行(履行)しなかった場合に、義務の不履行により生じた損害を賠償することです(民法415条以下)。債務の発生原因は契約以外にもいくつかありますが、一般的に債務不履行といえば何らかの契約関係にある場合に当事者の一方が契約上の義務を果たさないケースを指しています。例えば、商品の売買契約を結んだものの取引先が納期に約束した商品を納めなかったり、支払期日に代金の入金がなかったりする場合です。このような約束違反があった場合には損害が発生するため相手に賠償を求めていくことになります。しかし債務不履行による損害賠償を求めるには一定の要件を満たす必要があります。
債務の発生原因について詳しくは、「債権の発生原因とは?それぞれの特徴をわかりやすく解説」をご覧ください。
債務不履行に基づく損害賠償請求が認められる条件
債務不履行による損害賠償請求権は一定の要件を満たすことで発生します。
債務の発生原因があること
債務が発生するには何らかの原因が必要です。例えば、売買代金の債務不履行による損害賠償請求をするには売買契約を結んだことが必要です。相手が契約したことを否定しているのであれば契約書などによって契約の存在を立証していくことになります。
<関連記事>口約束のお金の貸し借り|お金が返って来ないときの対処法
債務不履行の事実
債務を履行すべき時に期待された義務を果たさないことが必要です。期限内に履行しない場合(履行遅滞、履行不能)だけでなく、一応履行されていても不完全なものであれば債務不履行の一種となります(不完全履行)。例えば、納品された商品の一部が足りなかったり品質が約束したものよりも悪かったりしたような場合です。
債務不履行の種類については「債権者・債務者とは?関係性や債権者が保持する効力を解説」をご参照ください。
損害の発生
債務不履行があっても損害が生じていないのであれば損害賠償請求権は発生しません。ここでいう損害とは、債務不履行がなかったと仮定した場合の財産状態と、現在の財産状態との差と考えられます(差額説)。損害の発生した事実を立証する必要がありますが損害額についても基本的に債権者が立証していきます。
ただし売買代金のように金銭の債務不履行の場合には損害の証明をしなくても法定利率分を請求することができます(民法419条、404条)。
損害が債務不履行によって生じたこと
債務不履行によって損害が生じたという相当な因果関係が必要です。債務不履行による損害賠償は通常生ずる範囲で認められるのが原則です(民法416条1項)。例えば相手の不手際により商品が納入されなかったことによる通常の転売利益は損害賠償の範囲となります。商品の需要が急激に高まり高額化した場合が問題となりますが、このような特別な事情によって損害が生じた場合でも当事者がその事情を予見すべきだったときは請求することができます(同条2項)。
債務者の帰責性
債務不履行が債務者の責めに帰することができない事情で生じたときには損害賠償請求することができません(民法415条ただし書き)。債務者の責めに帰することができるか否かの判断は契約その他の債務の発生原因や取引上の社会通念に照らして行われます。
また、債務不履行や損害の発生・拡大について債権者にも落ち度があったときには損害賠償額が減らされることがあります(過失相殺、418条)。
当事者双方に責任がない履行不能については、「危険負担とは?民法改正での変更点やポイントを詳しく解説」をご覧ください。
債務不履行に基づく損害賠償請求権の時効
債権は適切に行使しないと時効によって消滅することがあります(民法166条1項)。債務不履行による損害賠償請求権も債権であり時効によって消滅します。時効制度は2020年4月1日に施行された改正民法により変更されています。改正法施行以後に生じた民法上の債権を念頭に解説します。
一般的な時効期間
債権は権利を行使することができることを知った時から5年間適切に行使しないでいると時効によって消滅する可能性があります(民法166条1項1号)。権利を行使することができることを知らなかったとしても権利を行使可能な時から10年間(人の生命や身体の侵害による損害賠償請求権の場合は20年間)行使せずにいるときも消滅する可能性があります(同項2号、167条)。
したがって債務不履行による損害賠償請求権も原則として5年または10年で消滅することになります。一般的に債務不履行により損害が生じた場合、早い段階で賠償請求できることを知ることが多いため5年の時効期間が適用されやすくなります。
人の生命や身体の侵害による損害賠償請求権の時効期間が通常より長くなっていますが、生命や身体は保護する必要性が高いことや治療期間が長期になる可能性もあるからです。労働災害や医療ミス等のケースで問題となります。
<関連記事>損害賠償請求権とは?損害賠償債権の回収について詳しく解説
商事債権としての損害賠償請求権
2020年4月1日に改正民法が施行されておりこの日以降に生じた債権については原則として新法の規定が適用されます。改正により商事債権の消滅時効(旧商法522条)が廃止されており民法の時効期間に統一されています。
2020年民法改正による時効期間の変更点
2020年4月1日の改正民法により時効期間は以下のように変更されています。
改正前の時効期間(10年)
2020年改正前の民法では債権の時効期間は権利を行使することができる時から「10年間」とされていました(改正前民法167条1項)。したがって債務不履行に基づく損害賠償請求権も10年間行使しないと消滅することになっていました。ただし商事債権については5年と定められていました(旧商法522条)。また業種などによって短期消滅時効が定められていたため債権の種類によっては3年以下の短期で時効消滅することもありました(改正前民法170条以下)。
改正後の時効期間(5年/10年)
2020年の民法改正後の債権の時効期間は原則として「権利を行使することができることを知った時から5年間」とされます。仮に権利行使できることを知らなかったとしても「権利を行使することができる時から10年間」で時効消滅する可能性があります。
ただし、一般の債権については時効期間が5年または10年とされましたが不法行為に基づく損害賠償請求権や労働基準法上の債権など時効期間が個別に定められていることもあります。
もっとも時効期間が経過したからといって当然に権利が消滅するわけではありません。時効を阻止する方法もあるからです。
時効を防ぐ方法については、「債権回収の時効は?期間や時効を迎えた時の対応を解説.」をご参照ください。
※改正法施行日前に民法上の債権が生じた場合の時効期間については旧法の規定が適用されます(改正民法附則10条4項)。施行日以後に生じた債権であっても原因となった法律行為が施行日前にされたときを含みます(同条1項)。商事債権についても「施行日前にされた商行為によって生じた債権に係る消滅時効の期間については、なお従前の例による」とされます(民法の一部を改正する法律の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律4条7項)。
まとめ
・債務不履行に基づく損害賠償とは、契約などによって定められた義務を適切に果たさなかったことで発生した損害を賠償することです。通常は契約違反による損害賠償のことを意味しています。
・債務不履行に基づく損害賠償請求権が認められるためには一定の要件が必要です。「債務の発生原因があること」、「債務不履行の事実」、「損害の発生」、「損害と債務不履行との因果関係」などが求められます。
・損害の発生や金額は原則として債権者が立証していきますが、金銭の債務不履行の場合には損害の証明をしなくても法定利率を請求することができます。
・債務不履行について債権者に過失があったときには損害賠償金額が減ることがあります。
・債務不履行に基づく損害賠償請求権は時効によって消滅することがあります。原則として権利行使できることを知った時から5年、知らなかったとしても10年が時効期間です。時効期間は債権の発生時期や種類によっては異なることがあります。
債権回収でお悩みなら弁護士法人東京新橋法律事務所
当事務所は債権の回収に強い事務所です。
回収管理システムを活用し、大量受任も効率的・迅速に対応可能です。
債務者が行方不明など他事務所では難しい債権の回収もご相談ください。
当事務所では、未収金が入金されてはじめて報酬が発生する成功報酬制です。
「着手金0円(法的手続きを除く。)」、「請求実費0円」、「相談料0円」となっておりご相談いただきやすい体制を整えております。
※個人間や単独の債権については相談料・着手金がかかります。くわしくは弁護士費用のページをご覧ください。
「多数の未収債権の滞納があって処理に困っている」
「毎月一定額以上の未収金が継続的に発生している」
このような問題を抱えているのであればお気軽にご相談ください。
依頼者様のブランドイメージを守りながら債権回収を行います。