破産更生債権は、債権回収の面と会計・税務への対応という多角的な視点が必要となる問題です。

この記事では、破産更生債権の意味や種類などを解説していきます。

 

破産更生債権とは

破産更生債権等(財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則32条1項10号、会社計算規則74条3項1号ロ)とは、経営破綻又は実質的に経営破綻に陥っている債務者に対する債権のことです(「金融商品に関する会計基準」2019年7月4日改正2024年11月1日公表分反映27項(3))。破産更生債権等に当たるものとしては、破産債権、更生債権、再生債権その他これらに準ずる債権です。貸借対照表上で売掛金は基本的に流動資産に分類されますが、1年以内に弁済を受けることができないことが明らかなものは破産更生債権等として区分して表示することになります。

会計上、貸倒見積高を算定することになりますが破産更生債権等については、債権額から担保の処分見込額と保証による回収見込み額を減額して、その残額を貸倒見積高とします(財務内容評価法)。破産更生債権等の貸倒見積高は貸倒引当金として処理するのが原則ですが、債権金額または取得価額から直接減額する取り扱いもあります(金融商品に関する会計基準28項(3))。

 

※法的な経営破綻の状態ではなくとも経営難が深刻であり再建の見通しがない状態の債務者に対する債権も破産更生債権等に含まれます(「金融商品会計に関する実務指針」2025年3月116項)。

 

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破産更生債権の種類

破産更生債権には破産債権、更生債権、再生債権があります。

 

破産債権

破産債権とは、破産者に対して破産手続開始前の原因に基づいて発生した財産上の請求権であって財団債権以外のものです(破産法2条5項)。財団債権は破産手続きによらずに弁済を随時受けられる債権であり主に破産債権者の共同の利益に関する費用です(破産法148条)。つまり債権の多くは破産債権となります。破産債権については原則として破産手続内でしか行使することができません(100条1項)。破産債権の配当には順位があり、①優先的破産債権、②一般の破産債権、③劣後的破産債権、④約定劣後破産債権の順となります(94条1項)。順位が同じ場合には債権額の割合に応じて配当されます(同条2項)。優先的破産債権には公租(国税徴収法8条、地方税法14条)、公課(国民健康保険法80条4項等)、一般の先取特権などが該当します(98条1項)。

 

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更生債権

更生債権とは、会社更生法に基づく更生会社に対して更生手続き開始前の原因に基づいて発生した財産上の請求権のことです(会社更生法2条8項。例外同項各号)。更生債権については、更生手続開始後は原則として更生計画の定めによらなければ弁済が受けられません(47条1項。例外同条5項等)。抵当権等の担保権者は破産や民事再生では別除権者として破産手続等によらないで権利を行使することができますが(破産法65条1項等)、会社更生法では更生担保権者として更生計画に従います。

 

再生債権

再生債権とは、民事再生法における再生債務者に対し再生手続開始前の原因に基づいて生じた財産上の請求権のことです(民事再生法84条1項。共益債権や一般優先債権を除く。)再生債権については、再生手続開始後は原則として再生計画の定めるところによらなければ弁済を受けることができません(85条1項。例外同条5項等)。

 

民事再生については、「民事再生する取引先から債権回収をする方法」をご参照ください。

 

破産更生債権と一般債権の違い

会計上の一般債権とは、経営状態に重大な問題が生じていない債務者に対する債権のことです(金融商品会計基準27項(1))。一般債権については債権回収の観点からは通常の債権管理を行い支払期日における入金確認等を実施していくことになります。

これに対して破産更生債権については法的手続きの有無や種類によって回収手段が制限されることになります。破産債権や更生債権、再生債権についてはそれぞれの手続き内で債権回収を図ることが基本となります。担保権があるときには破産や民事再生については別除権として担保権を実行していくこと可能ですが更生手続きにおいては更生計画内で回収します。

 

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破産更生債権の会計処理

破産更生債権については会計・税務上の処理が必要となります。会計上の貸倒引当金を算定する際は、①一般債権、②貸倒懸念債権、③破産更生債権等の3つに区分して行うのが原則です(例外:法人税法上の基準による算定方法「中小企業の会計に関する指針」18項)。

 

債権の種類

定義

貸倒見積高の算出法

一般債権

経営状態に重大な問題が生じていない債務者に対する債権

過去の貸倒実績率等合理的な基準

貸倒懸念債権

経営破綻の状態には至っていないが、債務の弁済に重大な問題が生じているか又は生じる可能性の高い債務者に対する債権

①財務内容評価法※

または

②キャッシュフロー見積法

破産更生債権等

経営破綻又は実質的に経営破綻に陥っている債務者に対する債権

財務内容評価法

(金融商品に関する会計基準27、28項)

 

破産更生債権について会計上の貸倒引当金を算定するには財務内容評価法を使うことになります。破産更生債権等に関する財務内容評価法では、債権額から担保の処分見込額及び保証による回収見込み額を減額し、その残額が貸倒見積高となります(金融商品会計基準28項(3))。清算配当等により回収が期待できる金額も債権額から減額可能とされています(金融商品会計に関する実務指針117項)。

 

※財務内容評価法

債権額から担保の処分見込額及び保証による回収見込額を減額し、その残額について債務者の財政状態や経営成績を考慮して貸倒見積高を算定する方法(金融商品会計基準28項(2)①、金融商品会計に関する実務指針113項(1))。

 

破産更生債権等の貸倒見積高の計算

破産更生債権等の貸倒引当金の計算式は以下のようなものとなります。

 

貸倒引当金=債権額―担保の処分見込額及び保証による回収見込み額等

 

売掛金が破産更生債権等になったときにはその旨の表示を行います。

借方

借方金額

貸方

貸方金額

破産更生債権等

100,000円

売掛金

100,000円

 

会計上の貸倒引当金例

Xに100万円の売掛金があったが担保により50万円回収見込みがあった場合

100万円(債権額)-50万円(回収見込額)=50万円(貸倒引当金)

 

借方

借方金額

貸方

貸方金額

貸倒引当金繰入

500,000円

貸倒引当金

500,000円

 

税務上の破産更生債権の処理については、「貸倒引当金とは?計算方法や仕訳について詳しく解説」をご参照ください。

 

破産更生債権等勘定が使われる具体的なケース

勘定科目としての破産更生債権等が使われるのは次のような場面です。

 

自己破産手続きが進められている債権

自己破産手続の申立てがあった場合など破産手続きが進められている債務者に対する債権については、経営破綻又は実質的に経営破綻に陥っている債務者に対する債権に当たるため破産更生債権等に区分して扱うことになります。自己破産の申立てがなされていない状況であっても経営難が深刻で債権の見通しがなければ同様です(金融商品会計に関する実務指針116項)。

 

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会社更生手続きが進められている債権

会社更生手続きの申立てがあった場合など更生手続きが進められている債務者に対する債権については、経営破綻又は実質的に経営破綻に陥っている債務者に対する債権に当たるため破産更生債権等に区分して扱うことになります。会社更生は民事再生と同様に再建型の倒産手続きですが手続きが厳格であり大規模な会社向けの制度です。破産や民事再生と異なり担保権の行使が制限される点には注意が必要です。

 

民事再生手続きが進められている債権

民事再生手続きの申立てがあった場合など再生手続きが進められている債務者に対する債権については、経営破綻又は実質的に経営破綻に陥っている債務者に対する債権に当たるため破産更生債権等に区分して扱うことになります。民事再生により債権の多くが大幅にカットされることになります。民事再生法の制定により和議法は廃止されています。

 

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まとめ

破産更生債権等とは、経営破綻又は実質的に経営破綻に陥っている債務者に対する債権のことです。破産債権、更生債権、再生債権とそれらに準ずる債権です。

・破産更生債権等は会計上貸倒見積高を算定して貸倒引当金として処理するのが基本です。

・破産更生債権等は会計・税務上の処理が必要となります。貸倒引当金の対応は会計と税務で異なりますが会計上は、①一般債権、②貸倒懸念債権、③破産更生債権等の3つに区分して処理するのが原則です。

・破産更生債権等について会計上貸倒引当金を算定するには財務内容評価法を用います。

 

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※記事の内容は執筆された当時の法令等に基づいております。細心の注意を払っておりますが内容について保証するものではありません。ケースも単純化しているため実際に会計等の事務処理をする際は必ず専門家にご相談ください。