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債権者は債務名義(勝訴判決書や執行証書など)で権利を証明することができれば債務者の財産を差し押さえて強制的に債権を回収していくことができます。財産を調査して預金や不動産、自動車、給与などの財産が見つかれば裁判所に申し立てをして差押えをしてもらうことになります。しかしどのような財産であっても差し押さえできるわけではありません。
この記事では、民事執行法上の差押禁止財産について解説していきます。
差押禁止財産とは
差押禁止財産とは、強制執行等による差押えが法律または裁判上禁止された財産のことです。本来債務者の保有する財産であれば判決書等の債務名義を有する債権者は強制執行を申し立てることで差し押さえを行い、換価処分等の方法により強制的に回収していくことができます。しかし債務者の生活や仕事などに欠かせないものについては法律により差し押さえが制限されています。民事執行法では差押禁止動産や差押禁止債権が定められており、また当事者の申立てにより縮小または拡張されることがあります(民事執行法132条、153条)。個別の法律により差押禁止財産が規定されていることもあります(国民年金法24条など)。
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差押えできない財産の具体例
差押禁止財産のうち民事執行法に規定されているものを見ていきます。
生活に必要な家具・衣服など
寝具や台所用具、畳や建具など生活に欠かせないものは差押禁止財産です。冷蔵庫やエアコン、洗濯機、電子レンジ、テレビは差押禁止財産に当たります。スマホやパソコンも差し押さえがされにくいといえます。ただし同じものが複数ある場合や高価なもののときには債務者と家族の生活に必要といえず差し押さえられることがあります。
一定額までの給与・退職金
原則として給料や退職手当の4分の3は差押禁止財産とされています。ただし、扶養義務等に係る債権による差押えの場合は2分の1が差押禁止財産となります。ただし、給料については手取り額が月額44万円を超えるときは33万円までが差押禁止財産となります(扶養義務等に係る債権による差押えの場合には手取り額が月額66万円を超えるときは33万円までが差押禁止財産となります。退職金については中小企業退職金共済法などにより差押えそのものが制限されていることがあります。
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年金・生活保護費・児童手当などの公的給付
国民年金(国民年金法24条)や厚生年金(厚生年金保険法41条)、生活保護費(生活保護法58条)、児童手当(児童手当法15条)など個別の法律により差押禁止財産とされていることがあります。
信仰・教育・職業に必要な物品
業務に必要な器具などは差し押さえられてしまうと生計を立てることができなくなるため差押禁止財産とされています。また仏像や位牌など礼拝や祭祀に直接供するため欠かせない物も差押禁止財産です。
このほかにも学校などにおける学習に必要なものや生活に必要な66万円以下の現金など差押禁止財産があります。
ただし、差押禁止財産については個々の事情により範囲が変更されることがあります(民事執行法132条、153条)。
未払い時の対応
貸付金や売掛金などの支払いが滞った場合には以下のような対応を行っていきます。
契約内容を確認する
事業としての取引だけでなく個人的なお金の貸し借りや物の売り買いであっても法律上は消費貸借契約(貸し借り)や売買契約等にあたります。契約書やメールなどのやり取りした記録を確認してどのような約束をしたのか確認することが大切です。期限があるときには期限が到来しているのかなどを確認します。
支払いを催促する
こちらに問題がなければ相手に支払いを催促していきます。支払いが遅れている事実を伝え支払予定日を明確にしてもらいます。うっかり支払いを忘れているだけかもしれないため高圧的にならないようにします。
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督促状を送る
電話やメールなどで催促しても支払ってもらえないときには督促状で請求していきます。
督促状の例
令和〇年〇月〇日 X 様 東京都〇〇区〇〇〇〇 電話番号:〇〇―〇〇〇〇―〇〇〇〇 Y
督促状
X様との〇年〇月〇日〇〇(約束の内容)に関して、下記の内容でご請求させていただきましたが〇年〇月〇日現在お支払いが確認できておりません。至急ご確認の上〇年〇月〇日までにお支払いいただきますようお願い申し上げます。
記 請求金額:〇円(未払い額〇円) 支払期日:〇年〇月〇日 お振込先:〇〇銀行新橋支店 普通123456 Y
なお、本状と行き違いでお支払い頂いた場合にはお許しいただきますようお願いいたします。 |
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差押禁止財産と差押え可能財産の違い
差押禁止財産は生活保障などの目的で定められています。そのため債権者であっても原則として差し押さえることができません。つまり社会政策的配慮などが不要な財産については原則として差し押さえ対象となります。
預金
金融機関に対する預金債権も原則として差し押さえ可能な財産です。差し押さえを行うことで債権者が代わりに銀行等に支払いを請求することになります。
不動産
不動産も代表的な差し押さえ可能な財産です。ただし債権回収までに時間や費用がかかりやすい点には注意が必要です。
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自動車
自動車も原則として差し押さえ可能な財産です。軽自動車と登録自動車は執行方法が異なります。ほかにも美術品や売掛金など差し押さえ可能な財産があります。
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債権回収時の注意点
勝訴判決や公正証書を取得して強制執行できる権利があったとしても債務者に差し押さえ可能な財産がなければ債権回収は困難です。差し押さえ手続きには費用がかかりますが手続費用さえ回収できないような場合には無剰余差押えとして制限されることもあります(民事執行法63条、129条)。また差し押さえ可能な財産があったとしても債務者が財産を隠してしまうこともあります。
債権回収に向けてできること
債権回収のためには相手の財産を把握することが必要です。
財産調査を行う
取引相手のWEBサイトから不動産情報や取引先金融機関などが分かることもあります。勝訴判決書などの債務名義をもっていれば裁判所を利用した財産調査の方法もあります。弁護士であれば弁護士会照会という調査方法もあるため柔軟に対応可能です。
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差押え可能な財産を特定する
債務者に財産があったとしても差押禁止財産に当たるときには手続きをしたとしても空振りとなってしまいます。差押禁止財産に当たらない場合でも効率よく債権回収するためには適切な財産を選定することが重要です。例えば将来の養育費の場合には他の財産よりも給与の差し押さえの方が向いていることがあります。
専門家に相談して手続きを進める
債権の種類や金額、相手の財産や収入状況によって優先して差し押さえるべき財産は異なってきます。債権回収を効率的に行うには専門家に相談して手続きをするようにします。
債権回収に強い弁護士に相談するメリット
専門の弁護士に相談するメリットには以下のようなものがあります。
差押えの可否判断をしてもらえる
差押え手続きは費用や時間、手間がかかり費用倒れの可能性もあります。債権額や相手の財産の状況、種類に応じて差し押さえが可能なのかあらかじめ相談することで無用な差し押さえを減らすことができます。
財産調査や強制執行の手続きも任せられる
住居として利用している不動産の調査くらいであればご自身で調査可能かもしれません。しかし他の財産の調査や判明した財産への差し押さえは簡単ではないため弁護士に相談されることをおすすめします。
泣き寝入りを防げる
費用対効果を考えて債権回収をあきらめざるを得ないこともあります。しかし後悔しないためには債権回収の可能性を検討することが大切です。専門の弁護士に相談することで債権回収の可能性を検討してもらうことができます。
まとめ
・差押禁止財産とは、強制執行や滞納処分としての差し押さえが法律によって制限される財産のことです。本来債務者の所有するすべての財産が差し押さえの対象ですが社会政策的配慮などから差押禁止財産が定められています。
・民事執行法上は債務者や家族の生活に必要な家具や衣服、家電、一定範囲の給与、業務に必要なものなどが差押禁止財産とされています。
・差押禁止財産は具体的な事情に応じて範囲が変更されることがあります。
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