業務委託契約の報酬が未払いになったときには債権回収業務を行う必要があります。フリーランスを保護する法律もあるため知っておくことが有益です。

この記事では、業務委託契約の報酬未払いに対応するために債権回収方法フリーランス法について解説します。

 

業務委託契約における報酬未払い問題とは

業務委託契約(請負や準委任契約)により仕事を行ったのに報酬が未払いとなることがあります。フリーランス(個人事業主)や中小企業が委託先となる場合には立場が弱いことが多いことから特に未払いトラブルが起きやすくなります。

公正取引委員会と厚生労働省が令和6年に実施したWEBアンケートによると、報酬が60日以内に支払われなかったことがあると回答したフリーランスの割合は28.1%もあります(「フリーランス取引の状況についての実態調査(法施行前の状況調査)結果概要」令和6年10月18日)。

 

フリーランス新法とは

フリーランスは特に立場が弱いため報酬の未払いがあっても泣き寝入りすることが多くありました。そこでフリーランスと発注事業者間の取引の適正化や就業環境の整備を図り安心して働ける環境を作るために「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」(フリーランス・事業者取引適正化等法)が作られました。長いのでこの記事ではフリーランス法と呼ぶことにします。

この法律で保護の対象となるフリーランス(特定受託事業者)は次の要件を満たす人です。

業務委託の相手方である事業者であって①か②のどちらかに当たるもの

①個人であり、従業員を使用しないもの

②法人であり、代表者一人以外に他の役員がおらず、かつ従業員を使用しないもの

※従業員については同居親族や一時的に雇用するケースは含みません。役員については同居親族でも他の役員に当たります。詳細は弁護士にお尋ねください。

 

発注側の事業者を業務委託事業者といい各種の義務が課せられます。

 

業務委託契約の書面等による明示義務(フリーランス法3条)

業務委託した場合は、業務の内容、報酬の額(算定方法)、支払期日その他を書面や電磁的方法(メール、チャット等)により明示しなければなりません。

 

上記の明示義務については発注者がフリーランスでも適用されますが発注者が特定業務委託事業者に当たるときはさらに義務が課されます。

 

特定業務委託事業者(従業員や複数の役員がいる事業者)の場合

・報酬の支払期日設定支払義務(4条)

・募集情報の的確表示義務(12条)

・ハラスメント対応のための体制整備義務(14条)

 

原則として特定業務委託事業者は、フリーランスから給付を受領した日から起算して60日以内のできる限り短い期間内に報酬支払期日を設定して支払う義務があります。納品物について検査するかどうかに関わらず期間を順守する必要があります。報酬の支払期日が設定されなかったときは給付の受領日、60日を超えた日を支払期日と定めたときは受領した日から起算して60日を経過した日が支払期日とみなされます。

 

このほかに特定業務委託事業者のうち一定期間以上の業務委託の場合にはさらに以下の義務も課されます。

・受領拒否、報酬減額、返品、買いたたき等の禁止(5条)

・育児介護等と業務の両立に対する配慮義務(13条)

・業務委託契約の解除等の事前予告、理由開示義務(16条)

 

違反した発注事業者は行政上の調査の対象となり指導や助言、勧告を受けたり、勧告に従わないときには企業名の公表や罰金が科されたりすることがあります。

 

報酬未払い時の対応

業務委託報酬が未払いとなったときには以下のような対応を行います。

 

契約内容の確認

報酬は業務委託契約に基づき発生します。そのため業務委託契約の報酬発生条件を満たしているか確認します。契約書がないときには業務委託があったことを示すメールなどを確認します。

 

支払いの催促

メールや電話などで報酬が未払いとなっている事実を伝えて催促します。電話であれば録音するなど証拠に残すことも有効です。

 

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督促状の送付

電話やメールでの支払いに応じてもらえない場合には書面で督促を行うことが一般的です。

 

督促状のひな形

令和〇年〇月〇日

株式会社A 御中

東京都〇〇区〇〇〇〇

電話番号:〇〇―〇〇〇〇―〇〇〇〇

鈴木一郎

 

お支払いのお願い

 

御社との〇年〇月〇日〇〇業務委託契約に基づき〇年〇月〇日に委託に係る給付を行い、下記の内容でご請求させていただきましたが報酬が未払いとなっております。至急ご確認の上お支払いいただきますようお願い申し上げます。

 

請求金額:〇万円

支払期日:〇年〇月〇日

お振込先:新橋銀行〇〇支店 普通56789 鈴木一郎

 

なお、本状は〇年〇月〇日現在の入金確認を基にしております。本状と行き違いでお支払い頂いておりました際はご容赦いただければ幸いです。

 

長期にわたり未払いとなっているなど悪質なケースでは法的手段の予告や内容証明郵便の利用なども検討します。

 

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未払いの報酬を回収するための法的手段

業務委託による報酬未払いの被害に遭った場合には法的手段が検討できます。

 

支払督促

支払督促は裁判所の書記官から督促してもらう手続きです。相手が異議を申し立てなければ仮執行宣言というものを付けてもらうことで相手の預金などを差し押さえていくことも可能です。しかし異議が出されると訴訟に移行してしまうため使いどころを見極める必要があります。

 

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民事調停

民事調停は裁判所で話し合いをしてトラブルの解決を図る手続きです。調停委員に話し合いに加わってもらい円満な解決を模索していきます。費用が訴訟よりも安いことや一般の方でも利用しやすいなどのメリットがあります。

 

<関連記事>債権回収における民事調停とは?手続きの流れを分かりやすく解説

 

少額訴訟

業務委託報酬の未払いが60万円以下であれば少額訴訟も選択肢です。通常の訴訟よりも手続きが簡易化されており一般の方でも利用しやすくなっています。

 

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民事訴訟

未払いの業務委託報酬が高額な場合には通常の訴訟を検討することになります。業務委託契約の存在や内容を主張・立証して言い分が認められれば支払いを命じてもらうことができます。相手が任意に支払いに応じないケースでは相手の財産を差し押さえて未払い報酬を回収していくことになります。

 

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業務委託の給料・報酬未払いで困ったときの相談窓口

業務委託報酬の未払いで困ったときにはひとりで悩まずに誰かに相談することが大切です。

 

フリーランス・トラブル110番

フリーランス・トラブル110番とは、第二東京弁護士会が厚生労働省から委託されて運営している相談窓口です。報酬の未払いや一方的に報酬を減額された場合、ハラスメント行為などに対して弁護士が電話やメールで無料相談を行ってくれます。

 

下請かけこみ寺

下請け駆け込み寺とは、中小企業庁が下請け取引の適正化のために設置した相談窓口です。中小企業や個人事業主から業務委託契約に関する未払いなど取引上の悩みについて専門の相談員や弁護士が電話やオンライン、対面での無料相談を行っています。

 

法テラス

法テラスとは、国により作られた法的トラブルが生じた際の総合案内所です。一般的な法制度に関して無料で情報提供を行っています。無料の法律相談については経済的に困っている人を対象としているため収入や資産に条件があります。

 

弁護士

業務委託報酬の未払いが長期に及んでいる場合や支払いに応じる様子がないときには弁護士に相談することを検討します。最終的には法的手段が必要となりますが弁護士から請求することで支払いに応じてもらえるケースもあります。未払いの業務委託報酬が高額の場合には早めに相談されることをおすすめします。

 

<関連記事>債権回収の弁護士費用の相場とは?相談するメリットや安く抑えるコツを解説

 

業務委託で給料・報酬未払いを未然に防ぐための対策

業務委託の報酬未払いを防ぐには以下のようなポイントに気を付けることが大切です。

 

クライアントの質を確認する

依頼者の評判が悪ければトラブルに遭いやすくなります。インターネット上で悪い評判がないか確認することが大切です。

 

支払条件・期限を確認する

支払条件や支払期限が明確であるか、フリーランス法を守った期限が定められているかを確認します。法律に違反している場合には未払いのリスクも高くなります。

 

契約書を求める

フリーランス法は必ずしも契約書の作成まで要求していません。発注書等であっても業務の内容や報酬の額、支払期日等の法令上の事項が明示されていればフリーランス法上は許容されます。しかし業務委託事業者の署名や押印がされた文書は訴訟法上特に有効な証拠となるため未払い等のトラブルを防ぐのに効果的です。重要な契約では契約書を交わすようにします。

 

クライアントとの連絡は証拠が残る方法で

契約書がないなど業務委託の内容が不明確な場合には未払いが生じやすくなります。なるべく口頭ではなくメールなど証拠に残る方法を利用します。

 

エージェントサービスの検討

エージェントを介在させることで未払いトラブルに遭いにくくなる可能性があります。

 

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まとめ

・業務委託契約に関する報酬未払いは個人事業主や中小企業が委託先となる場合に多く見られます。未払い等の問題に対応するためフリーランス法や下請法が施行されています。

・フリーランス法の保護の対象は、「個人であって従業員を使用しないもの」、「法人であって一の代表者以外に他の役員がなく、かつ従業員を使用しないもの」です。

・業務委託事業者は業務委託契約について書面等による明示義務があります。

・特定業務委託事業者の場合には、義務が追加されており報酬の支払期日設定支払義務等があります。

 

業務委託報酬の未払いでお悩みなら弁護士法人東京新橋法律事務所

当事務所は事業で生じた債権の回収に強い事務所です。

依頼者様のブランドイメージを守りながら債権回収を行います。

 

発注側企業にとってもフリーランス法に違反しない態勢づくりをすることが大切です。行政による調査や勧告、企業名の公表等を受けることは経営上の大きなリスクとなります。企業法務を専門とする弁護士に一度相談されることをおすすめします。

 

当弁護士法人は企業法務に力を入れております。お悩みのことがあればお気軽にご相談ください。

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※記事の内容は執筆された当時の法令等に基づいております。細心の注意を払っておりますが内容について保証するものではありません。お困りのことがあれば弁護士に直接ご相談ください。