債務者の財産を差し押さえしたくても財産や勤め先が分からないことがあります。このような場合には財産開示手続きが債権回収に役立つことがあります。
この記事では、債権回収に利用できる財産開示手続きについて解説します。
財産開示手続とは
財産開示手続きとは、債権者(権利者)が裁判所に申し立てを行い、債務者(義務者)に保有財産の有無や内容、所在を陳述させる手続きです。
債権回収のために訴訟を起こして勝訴判決をもらったり、支払い義務を公正証書にしたりしても債務者が自分から支払いに応じないときには強制執行により財産を差押えなければなりません。
しかし財産がどこにあるのかわからなければ差し押さえは不可能です。訴訟で勝ったとしても裁判所が自動的に財産を探してくれるわけではありません。不動産であれば全国どこにあるのかわかりませんし、預金もどの金融機関にあるのか裁判所も知りません。そのため強制執行するには財産がどこにどういったものがあるのか特定する必要があります。
そこで、財産開示手続きにより債務者に自分の財産を開示してもらいます。
もっとも財産が差押えられてしまうのがわかっているのに正直に財産を教えてくれることは期待できません。そこで不出頭や嘘をついた場合にはペナルティが用意されており正直に答えてもらいやすくしています。
財産開示手続の流れ
債権回収のための財産開示手続きは以下のような流れで行います。
申立て要件の確認
財産開示手続きには申立ての要件があります。
申立てできる債権者 |
申立て要件(どちらか) |
・強制執行等により完全な弁済を得られなかった(6か月以上前のものは除く。) ・知れている財産からでは完全な弁済が得られない |
|
一般の先取特権を有することを証する文書を提出した債権者 |
※債務者が3年以内に財産開示手続きで陳述したことがあるときは手続きを利用できないことがあります。このほかに「執行開始できない場合でないこと」等の要件があります。
ここでいう債務名義は貸付金返還請求権や養育費請求権といった金銭を請求できる権利を証明した公文書のことです。確定判決書や執行証書(公正証書の一種)などを債務名義といいます。
申立て書類の作成
財産開示手続きの申し立ての際には債務名義のほかに、「財産開示手続申立書」、「当事者目録」、「請求債権目録」、「財産調査結果報告書」、「債務名義等還付申請書」などの書類が求められます。必要な書類はケースによって異なるため裁判所で確認することが必要です。
申立て
財産開示手続きは債務所の所在地等を管轄する地方裁判所に申し立てます。裁判所は申立てに不備がないことを確認した後、財産開示手続実施決定を行います。実施決定の確定から1か月ほど後の日に財産開示期日が指定されることになります。債務者は財産目録を作成しなければならず財産開示期日の10日くらい前の日が期限です。財産目録が提出されていれば財産開示手続期日前であっても閲覧可能であり事前に謄写しておいた方がいいでしょう。
財産開示期日
財産開示期日では債務者に対して様々な質問を行っていきます。裁判官から事前に注意事項の説明があり正当な理由がないのに陳述を拒否したり嘘の陳述をしたりしたときには処罰される旨の警告があります。債務者は正直に陳述するとの宣誓をして債権者の質問に答えることになります。
質問内容は事前に書面で裁判所に知らせておきますが、許可を得て他の質問ができることもあります。ただし債務者を困惑させるだけの質問など不適切なものはできません。
期日後
財産開示手続きにより債務者の財産が判明したときには強制執行により債権回収していきます。差し押さえを避けるため支払いに応じてもらえることもあります。債務者が出頭しなかったときや陳述に嘘があったときには民事執行法違反による刑事告発を考えます。
<関連記事>未払い養育費を強制執行で回収する方法|メリット・デメリットや流れを解説
無視された場合の対応
財産開示手続きに債務者が応じないケースや出頭しても嘘の陳述がなされることがあります。財産開示手続きにより債権回収を行うには債務者が手続きを無視した場合の対応も考えておく必要があります。
財産開示手続きにより執行裁判所が呼び出しをしたにもかかわらず、正当な理由なく出頭しなかったり宣誓を拒否したりした場合には民事執行法違反の罪に当たるため刑事告発も選択肢となります。具体的には6か月以下の懲役または50万円以下の罰金に処されることになります。嘘の陳述をした場合にも同様です。
刑事告発をすることで警察に捜査をしてもらい処罰してもらえる可能性があります。もちろん処罰されたからといって支払いを受けられるわけではありません。しかし処罰を免れたり軽くしてもらったりするために債務者が支払いをすることは考えられます。
財産開示手続で開示される財産
財産開示手続きの対象となる財産は一部の生活必需品などを除いた全般です(民事執行法199条1項)。
財産開示手続きでは債務者が財産目録を提出することになっています。そのため財産目録によって財産の内容が明らかになる可能性があります。
財産目録の用紙が債務者に送付されるため債務者は記載例に従って記入し返送します。
東京地方裁判所の財産目録の内容は以下のようなものです。
・給与、俸給、役員報酬、退職金 ・預金、貯金、現金 ・生命保険、損害保険 ・売掛金、請負代金、貸付金 ・不動産所有権、不動産賃借権 ・自動車・ゴルフクラブ会員権 ・株式、債券、出資持分、手形小切手、主要動産 ・その他の財産 |
給与、俸給、役員報酬、退職金
勤務先名や給与金額などが求められます。
預金、貯金、現金
預貯金については金融機関ごとに預金額の記載が求められます。現金についても保管場所(自宅、財布等)ごとに金額を記載します。
生命保険、損害保険
保険会社名や保険証券番号などの記載が求められます。
売掛金、請負代金、貸付金
債権の種類や契約の相手方、債権額などの記載が求められます。
不動産所有権、不動産賃借権
所有不動産だけでなく不動産賃借権についても記載します。
自動車・ゴルフクラブ会員権
自動車ナンバーや車台番号、保管場所などの記載が求められます。
株式、債券、出資持分、手形小切手、主要動産
高級装飾品などについて種類や購入金額の記載が求められます。
その他の財産
工作機械や供託金、暗号資産(仮想通貨)、特許権、FXの証拠金などその他の財産についても記載することが求められます。
開示された財産について債権回収につながるものがあれば強制執行を検討していきます。例えば、銀行預金が十分にあれば差し押さえて支払いを受けられる可能性がありますし、めぼしい財産がなくても勤務先が明らかとなれば給料を差し押さえて継続して支払いを受けられる可能性があります。
<関連記事>債権回収のために給料の差押えを行う方法と手順を詳しく解説
弁護士へ依頼するメリット
債権回収や財産開示手続きを弁護士に依頼することには以下のようなメリットがあります。
専門的な交渉により回収率が高くなる
財産開示手続きは債権回収の手段として行われます。財産が明らかでなければ差し押さえることができないからです。債権回収は法的手段を使わずに実現できればそれに越したことはありません。相手の自発的な支払いが期待できるケースでは和解して任意の弁済を促すことも大切です。自力では交渉に応じてもらえないことや感情的になって解決できないこともありますが、第三者である弁護士が代理人となることで財産開示手続きをとらなくても債権回収できることがあります。
債務者の財産を見つけやすい
財産開示手続きのほかにも第三者からの情報取得手続により財産を特定する方法もあります。陳述を拒否すれば処罰されますがそれでも債務者が財産開示手続きに応じないことがあります。このようなケースでは第三者から情報を集めることが必要です。例えば、金融機関から預貯金の有無について回答してもらいます。
弁護士であれば弁護士法に基づく照会手続きにより財産調査できることもあります。
第三者からの情報取得手続きについては、「財産開示手続とは?2020年改正で変わった点を詳しく解説」もご参照ください。
訴訟から強制執行まで任せられる
財産開示手続きは判決書などの債務名義を持っていないのであれば訴訟を起こすことが通常必要です。当初から弁護士が関与しているケースでは交渉による任意の支払い、あるいは事前の調査によって財産開示手続きを利用しなくても債権回収可能なことがあります。仮に交渉によって支払いに応じてもらえないケースでも財産開示手続等で明らかとなった財産を差し押さえて強制的に債権回収も可能です。自力で債権回収をしようとしても訴訟や強制執行、財産保全のための仮差押えなどの手続きは簡単ではありません。弁護士に依頼すれば交渉や法的な手続きを任せることができます。
<関連記事>債務名義とは? 取得方法と債権回収までの流れを分かりやすく解説
まとめ
・財産開示手続とは、債権者の申立てにより裁判所が債務者に保有する財産について陳述させる制度です。
・申立てできる債権者は、債務名義を持っている金銭債権の債権者等です。知れている財産からでは完全な債権回収ができないなどの要件が必要です。
・債務者は財産目録の提出をして財産を明らかにしなければならず、陳述を拒否したり虚偽の陳述をしたりすると処罰されることがあります。
・預金や勤め先などの情報が開示されたら強制執行を検討します。
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※借金などの債務の返済ができずお困りの方はこちらの記事をご参照ください。